11
嗚呼。
その日、俺は堕ちた天使の唄を聴いた。
「ルーク、ルーク、ルーク」
震えが止まらない。
ルークを俺に返してくれ。
唯一の俺の光、俺の希望。
「どうしたの、ルカくん」
「ルーク!!てめぇ!どこ行ってやがった!!!」
幻かと思い、触れればその感触は確かなもの。
「、お別れしに来たんだよ」
ルークが寂しそうに微笑むのをルカは見逃さない。
「嘘、つくなよ」
「嘘?
嘘じゃないよ、俺は兄様と行かなくちゃいけないんだ」
「ルーク!!」
「…近づくな」
ぞっとするほど冷たい声だった。
周囲に張り巡らされた、ルークの武器。
いつか、夢でみたあの光景。
「ルーク、そろそろ行くぞ」
「はい、兄様…」
「行くな!ルーク!!!
そいつはアッシュじゃない!!!」
「…そんなこと百も承知だよ」
「じゃあ、なんで!!」
好きだからだよ、とルークは溢した。
好きで、好きで、どうしようもなくて、この人に尽すことしか考えられないからだよとさらに続ける。
「っ、そうかよ、じゃあ最期にキスしろよ…深くてとびっきりのやつをな…出来んだろ?薔薇館一の娼婦」
「…先に行くぞ、ルーク」
「はい、済ませたらすぐに、兄様」
紅い髪をなびかせ、アッシュは闇に消える。
ルークは近寄ると糸を解く。
そっと、手をルカの胸に這わせ、口づけた。
「ふ、ぁふ…」
「…、っ」
「ンンッ!!んぐっ」
「はっ、る、く」
「るか、く、ルカくんッンン!」
ルークがぼぅっとした頭でルカのシャツに指先を動かす。
「あ、してる、る、く…」
「んぁ、もう、行かなくちゃ…じゃあね、ルカくん」
次に会うときは、どちらかが死ぬときだとルークは踵を返して駆けていった。
後に、ポツンとルカだけが残る。
「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょぉおおお!!!!」
何度も、何度も、胸に書かれた単語。
"beloved"
まるで呪いの言葉だとルカは天を仰ぐ。
堕ちた天使の、愛の唄を聴いてしまった。
愛するが故に、愛してしまったが故に、吐き続ける呪文は、呪いへと変わっていく。
縛って、放さない、"be loved"
「強く、なりてぇ…」
まずは、分からないことをひたすら解き、強さを身につけ、混乱を招くファブレ兄弟を…始末するために。
強くなろう。
ルークはきっと独りで戦う覚悟をしたんだ、だから俺にも戦う覚悟を。
胸に、響く堕天使の愛の唄。
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