10
「ここはどこ…」
「目覚めたか、ルーク」
「ンッ、」
「まだ、薬が効いている体を動かすのは辛いはずだ」
「誰…」
「俺は、アッシュ…お前の兄だ、ルーク」
優しい指が頬を辿る。
ルークはこの指を知っていた、いつも、戯れに己を愛すそれ。
(あぁ…)
「いい子だ、ルーク…あんなところで怖かっただろう?」
「にぃ、さま…?」
口が勝手に開き、目の前の男を呼ぶ。
"兄様"なんて甘美な響きだろうかと皮肉気味に、もう、一極の己が罵る。
頭が酷く、混乱して何も考えられない。
「アッシュだ、言ってみろ」
「アッシュ、?」
「そうだ、ルーク…」
ノイズ混じり、モノクロの映像が瞼の裏に浮かぶ。
自分はこの男を知っている。
「まだ混乱しているか、思い出させてやろう」
体が開かれていく。
脳髄が痺れ、口の端から唾液が伝うとルークはただアッシュを求めていった。
「ん、ぁぁっ!」
「お前の中はキモチいぃな」
「くっああ!んっ!ふ!」
もぞもぞとルークの腰が動く。
「淫らだな」
「ゆる、してぇっ」
「いいだろう…」
「ひっ!ああぁあっ!!」
この行為に密約を交した気がした。
きっと、もうルカの元へは戻れないだろう、今度は偽りの愛の元、駒として、命令に従う人形として生きなければならない。
「あぁ、俺の愛しいルーク、お前の大事な兄の命だ、こいつらを消してくれ」
「はい…」
全ては兄の、言うとおりに。
神様、お願いです、独りで戦う勇気をください。
大事な人を守るために、大事な人に血を流さないために、どうか、独りで戦う勇気をください。
「執行猶予をやろう、ルーク…お別れをしてこい、分かるだろう?」
「は、い…」
独りで戦う勇気を。
貴方に憎まれてもくじけない勇気を。
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ああ、やっと手にした俺の赤色。
「これが始まりだ…」
終わりなんかじゃない。
このルークを手にいれることは、序章に過ぎない。
アッシュは、さも愉快そうにクスクスと笑う。
(執行猶予をやろう、か)
自らの言葉。
見るだけでわかる、二人の依存具合。
「俺とこいつを離した報い…しっかりと受けるがいい」
呟いた言葉は周囲の闇に溶けて消えていった。
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