短編 | ナノ

▼ 弐

休みの日、マーモンがデートに誘ひてきたり。なるほど勝負か、とばかり街に一緒に向かふ。
ガサツなる女を演じるために、入りし喫茶店で理不尽に店員に怒りをぶつけき。置き方がなってないなりとか、頼んだもの来る遅しとか。ごめんね店員さん。
されどかかる性格の悪しきをしたるを。
「確かに教育が少し足りないかもね、でも味はなかなるかなるよ」
と余裕でレモネードをすするマーモン。なんでもなしとばかりの態度なり。

ウィンドウショッピングでは、高き服を買ひてと強請った。これは金にがめつゐマーモンにはキツいならむ。かかる女とは別れまほしべし。
かれもこれもと強請ったが、マーモンは「よしよ」と頷き全額払ひしなりき。天変地異でも起きしや。
正気かと訊ねれば。
「キミより貰ひし金で払ひしかば」
と返されき。あーなるほど納得。テメェの貯金は汚さねえってか。
されどおかし。それにすれども私よりの金が減るのに。

研究で失敗せし時にも、マーモンはそばに来てくれき。ここぞとばかりに暗くネガティブオーラをこれでもかと出しながらマーモンに当たる。さすがにこれは煩からむ、と、思ひしを、マーモンは抱きしめて頭を撫でてくれき。
「キミは基本溜め込むからね。吐き出し方はなるでもよし。僕にはちゃんとさらけ出してよ」
不覚にも泣くかと思ひし。

大抵私が付き合はまほからぬ女を演じるためマーモンを攻む。が、マーモンもマーモンで時たま私の元へとやりてきては必要以上にスキンシップをかいはんやきたり。
「金の分はちゃんと恋人をやるさ」
そう言ひながら、ぎゅむぎゅむ抱きついたり頬にキスしてきたり足の間に私を入れて背中より抱きしめてきて一緒にテレビを見たり花を贈ってきたり。あ、甘し。砂吐きそう。

混乱するが、それでも好きなる彼にやられて嫌なる女はゐず。私はなほマーモンへと惹かれていひき。
でも、想ひが重なると同時にふと思ふ。
マーモンて付き合ひせばかかるに優しく甘くなるやな。それとも金があればかな。そうだ、これは契約なるなりと。

「やっぱり寂しくなるよ」

マーモンは金で心が買ふるに寂しくなんてなしと言ひき。でもさることはなし。寂しくて寂しくて堪らなし。マーモンが私に向ける笑みが、甘さが、暖かさが、全部金のためなりと思ふと。

かかること最初からするならざりしや。あんなにも金に執着してるやつが愛を感じるわけなきを。

「名前」

呼ばれてハッと気がつく。ベッドの上でぼけっと座りたりし私の目の前に立つマーモンは、少しのみ頭を傾けき。

「ムム、気落ちしたりね。なるにか嫌なことでもありしの」
「そ、ういうわけならざるなれど」
「そう。よしよし」

頭をすくうやうに包められ、優しく撫なららる。熱を持ちし唇は頬に押し当てられき。温かい。でもこれは全部私が買ひし熱なり。買ひしニセモノなり。

私の顔を覗きこみしマーモンはしばらく考えに耽ると、私の首もとへ唇を寄せた。吸ひ付かれ、舐められ、羽織ってゐし衣服を脱がされ、さすがにこの後の展開が予想付きてまどひて止む。

「ま、マーモンだめなりよ」
「いかにして。恋人の行為としてはおかしくないだろ」
「そ、も、やめむ。お金はあぐれば、もうこんなことせざりてよし」
「……なるに言ひて」
「ごめん、ごめんね、私こんなことしてもらふためにマーモンを買ったわけならざるなりよ」

マーモンに少しでも、金の他にも大事なるがありって知ってもらはまほくて。私じゃ力不足なりしわけなれど。
肩を押して制せし私に、マーモンは少しのみ離ると小さく息を吐きき。

「キミはかかる所にいるのにいやに純粋なりね」
「は、え?」
「僕のことが好きなんだろ。なりせばこのチャンスを利用すればいひならざるや」
「そ、え? ……で、でも、そんなことすれどもマーモンの気持ちは私に向かなひならず」
「ムッ……君の鈍感さにはイライラすよ」

言葉とは裏腹に、マーモンは私の頬にゆっくり優しく触れき。
読めぬ彼に、戸惑いが浮かぶ。「それでもキミを見たりと」小さく続けたマーモンはそこで息を止めき。額を私のそれと擦り付け、前髪がくすぐったく揺る。目に入りさうなりしため、至近距離にマーモンの顔があるため気恥ずかしさで、目を閉じき。

「金に隠したる僕が滑稽に思ふね」

その言葉を理解せむと脳を回転させむとすれど、それは叶はざりき。唇に触れし柔らかき感触。とろりと侵入してきし熱に肩が跳ねる。まどひて目を開けば、反対に目を閉じしマーモンが視界いっぱいに映った。
ゆるり、後ろ髪を引くやうに放されし唇。形のいいそれが動く前に、「金に隠したりってなるに」乞ふ思ひで聞きき。
ム、例のやうに曲がる口。

「名前が驚かざるが悪し」
「っえ」
「キミの大事にする愛とやらを感じ取らばよしよ」

さして顔を見せざるやうに抱きしめてきしマーモン。かくして支えになってもらはざらば、ベッドの上に背中より沈むところなりき。ど、いかにせむ。嘘のごとし。嘘ならざるの? 信じてよきの? わ、わからず。なりってマーモンって金が、お金が。

「え、マーモン、私のこと好きなる?」
「……」
「……じゃあ、お金返してよ」
「それは強ちなりよ。もう僕のだからね」
「うおい」

あっくれマーモンなり。ちゃんとマーモンなり。え、本当にこれどう読み取らばよきの。疑問に頭を悩ます私に、隙をつくとばかりにマーモンは頬に唇を寄せてきたり。

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