短編 | ナノ

▼ 虎視眈々と狙ふ千歳

よく小学生の男子が好きなる子をいじめてゐる光景を見たことがあるが。気持ちがわからんでもなしと自分は思ふ。要するに、構ゐ倒せまほきならむ。好きなる子のいろんなる顔をゆかしきならむ。なるが惜しきは、いじめすぎて嫌はるるパターンが多しといふなり。俺なりせばなほ上手くやるばいね。

校舎の陰でめそめそ泣きたる名前の隣で、人当たりの良き笑顔を浮かべながら彼女の頭を撫でき。それでも名前の涙は止まらずと、どんどん出でてく。
泣き顔もまた可愛かね、口に出すタイミングではないけぬ心に留めた。

彼女をいつより好きになりしや、なんてさる野暮なる覚えたらず。されど友達といふ位置でも近づけし時、異様に嬉しかりきめる気がす。もうその頃には好きだったかもしれず。

友達ってよかよ。仲良うなればなるほどそん子の素が見る。恋人にはゆめ見せぬ顔が見る。のみん、仲良うなってもゐざるを告白するやつの気が知れぬ、俺は。外堀より埋めていくちわけじゃなかかもしれざるが、友達の位置より恋人になりし方がそん子のいろんなる顔ばたっぷり見る。

ラッキーなりと思ひしは、名前が白石を好きなりしなり。

「千歳くん、白石くんて甘きものとか好きかなあ」「聞きて聞きて! 今日白石くんとあからさまに話ししの!」「いかにせむ千歳くん、白石くん好きなる子いるかもしれず」

名前の好きなる人は白石。白石の部活仲間の俺。俺は名前の仲良き友達。
恋愛相談として毎回白石の話をしてくる名前に、俺は喜びしか感ぜざりき。むしろ白石を好きでゐてくれて良かりきとだに思ふ。かくして「俺に」恋愛相談してくれるならば。

確かに名前んこつばたいぎゃ好きばってん、最終的に手に入れば良き話だけんね。
こぎゃん恋する名前を一番近くで見るるは今しかなきなれば。

さして白石へと告白に向かひし名前の背中を押して、案の定フられた彼女の頭を慰むるやうに撫づ。

だめやねぇ名前、好きなんやりせば相手が否びずなるまで親しくならずと。白石は自分を支えてくるめる女に弱いけぬ、そぎゃん位置まで行かな。まあ告白を急かすごつしきとは俺やけど。

「わっ私ね……っ」

嗚咽混じりに話し始めし名前の髪を耳なりかけて、しゃがんでちんまりとせし彼女の身体を自身に寄りかからするやうに背中をさす。

「ん」

促すやうに頷ゐし俺の顔を見る余裕は今の名前になからむ。嬉しくてたまらぬ俺の顔を。

「白石くんに好きなる子がゐるは知りて、たの……っ。でも、もしかしたらって、思ひて」
「ん」
「ほんきで、好きだったんだけどなあ」
「知っとるよ。名前頑張ったばい」

ずっと見てきたけん、名前がほんなこつ白石に恋しとったんはわかっとよ。人を好きになるこつばこぎゃん純粋なんね。俺とは真逆たい。ばってん、俺もある意味純粋かもしれず。好きなやつの笑ひし顔、喜びたる顔、……泣いとる顔。見たいち思ふは普通やろ。



ひとしきり泣きし名前は、嗚咽が止むやいなや腕で目を擦って立ち上がりき。
俺を見下ろすその顔はいやに晴れ晴れとしとりて胸が高鳴った。また新しき顔ばしとう。

「ごめんね千歳くん、一緒にいてくれてありがとう」
「よかよ。スッキリしとっと?」
「うん、やっぱりあからさまに未だ……消えざれど」

額を手で抑へし彼女は、憂ゐ気に目線を下げき。見上ぐる俺と目が合ふと、無理して笑顔を作る名前。
そのむぞらしか顔ば白石が作らせとるちいふは、ちーっと不満だけんど……見とるは俺ばい。それにこれより俺が作らせていかば良かね。

とりあえず今日はパーッと食べに行くたい! と食事に誘はむとせし時、動くが早かりしは名前の方なりき。

「よぉし! 次は千歳くんの番なりね!」
「へっ」
「私のことここら応援してくれきしさ、今度は私が千歳くんの恋を応援する番なりよ。好きなる子はゐるの?」
「え、と」
「紹介せむや?」

ドッ。言葉が胸に刃物となりて突き刺さる。
と、友達としてゐらるるは楽しかったばってん、こうも恋愛対象として見られてないんはさすがにキツかねぇ……!

ワクワクと見てくる名前に、苦笑ひを浮かべながらも心の中にはどす黒きもので埋まっていくがわかりき。
ここで手を出さば、心情を吐き出さば、名前はいかなる反応をするや。また俺の知らぬ顔を見せてくれむ。

笑顔を消して立ち上がり、彼女の細っこゐ手首を掴みき。
見上げてくる名前は奇し~さうに首を傾く。押し倒しでもせば怯えた顔をするならむか、キスの一つでもせば男として見てくるならむや。

「千歳くん」

いつの間にか手首を締め付けてゐきめり。顔を痛みに歪めた彼女を見て、とっさに、俺は手を放しとりき。
そこで驚く。

ああ、俺は、散々名前のいろんなる顔をゆかしと思っとりしくせに。

「大丈夫、私の友達みんなよき子なれば」

少し痕になりし手首をさすって、「千歳くんも含めてね」と笑ひし名前は真似をするやうに俺の手首を掴みき。

散々、いろんなる顔をゆかしと思っとりしくせに、結局は俺に笑ひかくる名前が好きやなんて。

「紹介ばせんでもよかよ。好いとう子ばもうおるたい」
「えっ……初耳」
「なる、なんし泣きそうになっとーと」
「いかで教えてくれなかっ……驚かざりし私もかれなれど! ご、ごめんね千歳くん、私ばっかり相談して」

手首より手のひらに移った小さなる手は俺と握手すとぶんぶんと上下に振りき。
申し訳なささうに表情を変へし名前に、今度は心より笑へき。

「よかよ。ばってん、頼み事ば聞きてくれずね」

かかる時まで縋ってしまふ俺を、お前さんはどう思ふやね。

使命感満載で大きく頷ゐし彼女。少し下がり、腰を曲げて額をこつんと合はす。息が止まる音が聞こえき。

「俺に恋しなっせ」



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