短編 | ナノ

▼ 庄左ヱ門にこなたを見なむ

∴忍たま 年齢操作、現代パロ
あからさまにわびしき心地




そは小学四年生の時。昼休みに職員室の前で、帳面を抱えつつ我はただひとへに泣きつつ突っ立つしかできざりき。
職員室入るべきに入れず。かしこし。ぐするぐする泣けると、扉開かれき。しゃくりつつ見ば、職員室より出でこしは同じ級の庄左ヱ門くんなりき。

「ど、いかがしたの名前ちゃん!」
「ひっ…うっく…の、帳面…」

泣きつつ頑張りて伝へむとすれど、呼吸がままならざりてしゃくりを繰り返す我に、庄左ヱ門くんはよしよしと頭を撫でつつ「もしかして」と笑ひき。

「昨日提出すべかりし帳面、忘れて今日持ちこし?」
「う、う、うん…っぅえ」
「そっかぁ…でも持ちてきたならず。土井先生待てるぞ」
「だ、だめっ…おっ怒らる…うっく…ひ…前もっ、わっ忘れし時、っく、次ときめくはよとて…うっ」

なれば怒らる。土井先生のかしこき顔を思ひ出して、耐えきれなくてうわああんと嗚咽を漏らさば、庄左ヱ門くんは眉を下げつつこうぜしように笑ひき。

「じゃあ我もつきゆくぞ」
「…ひっく…え…?」
「しかと人数分集めなかりし学級委員長としての責任もありしかし」

大丈夫とでも言ふように我の手を握りし庄左ヱ門くんは、興奮を抑へそめし我を見ると職員室の扉を開けき。
結局、土井先生には苦笑いをたまへしばかりなりき。それどころか「しかと一生懸命やりけりは、えらきえらし」とめでられき。
安心してまた涙が出でてきながらも庄左ヱ門くんにありがとうとお礼を紡がば、「大したことしてなひよ〜」とかたはらいたそうに笑へり。我はこの時、庄左ヱ門くんに恋情を抱きけり。

そりゃああれなるぞ。幼心に、よすがになりて優しかりて美しく笑ふ男の子に惚れぬよしがなし。ましてや団蔵とか虎若とか、こちたき男子たちを見たれば尚更なり。周りの男子よりか何倍も大人めく庄左ヱ門くんは、さだめて他の女の子も気になるに決まれり。

我はさる好敵手たちに負くまじかりて、庄左ヱ門くんにつり合へるきはの女にならむとその時決めしものなり。懐かし。迷惑をかけざらばや、庄左ヱ門くんとの会話を合わせらればや、少しでも近づけばや、…まめやかに、優等生にならむと。




「その結果のこれなるぞ。つっまんなき女になりきかし」
「…へ…兵太夫くん…重し…」

五年後のこの今。庄左ヱ門くんと結ばるるもなく、いまだただの同級生としてふれる日々。
放課後の図書室、机で明日の予習をせらばとみにのしかかりこし重み。振り向かばすなはち重みは消ゆれど、兵太夫くんは隣の席に座りこみき。

「今より三治郎たちと伴奏行けど来?」
「伴奏と言へども、伴奏機いじりて電視見む…?それ犯罪じゃ…」
「来るか来ぬか聞きてんなれど」
「…庄左ヱ門くんは?」
「…来ねど」

目線を小さく外していらへし兵太夫くんに、さるよねなんて苦笑い。わかれる、庄左ヱ門くんは今あまり彼らと遊んならぬばかりわかりたれど。

予習の帳面より目を上げて図書室の窓より外に視線を這はす。てうど昇降口より出でこし庄左ヱ門くんと竜ヶ崎さんを見て、何度かまばたきを繰り返しし。

庄左ヱ門くんが彼女と付き合いだししはいつからならむ。驚きしには彼のきはに彼女ありき。そはもう、周りが何も聞かねども付き合へると認識するほど仲が良さそうに。

我がいかほど、いかほど頑張りきや。
成績優秀なる彼に並ぶるように必死に勉強して、例みんなに頼らるる彼の負担にならぬよう一人でせらるるはなどかもやひて、弱音も吐かぬように念じて、ときじく力になれるようきはなりて。この五年間我はただひとへに彼を見たりしに。それなれど。

窓の向こう際なる彼女が、つまずきて転けたりき。「いたぁーあり!庄ちゃあん!」彼女の動きし口の形を追ひて、「もー、足元おとなしかれ」庄左ヱ門くんの口の動きも追ひて、身体中が冷めきりて。

かかる女のいづこのよきなり。ただのぶりっこなり。庄左ヱ門くんに迷惑しかかけぬし、頭も悪いし、一人じゃなにもせられずし、いっつも庄左ヱ門くんを頼れりし…我とは…我とは真逆な…。

我なりとて、昔はさる子なりけるぞ。でもそれじゃ駄目なると思ひて。それじゃあ庄左ヱ門くんは振り向きてくれないと思ひて。…なれば頑張りしに。それなれど。
帳面に目を落としておのれに絶望せり。かかるもの。ひっつかみし帳面を窓に投げむとせば、その手をこはく取られき。

「なほ行かむぞ、伴奏」

さいはば彼が隣なりけると。窓より移しし視線の先の兵太夫くんのけしきはかしこく読み取れざりき。おのれがかたはらいたかりてわびし。やをら頷きし我は、先に便所に行きてくると立ち上がりき。

図書室より少しかれし便所に向かふと、廊下の角を足早に曲がりし庄左ヱ門くんと目合ひき。
心臓がとく音を立つ。

「あれ、名前ちゃん。未だ残れる?」
「…あな…うん…勉強を…」
「そっか。おこうじさま」

ふわりと笑みし庄左ヱ門くんに、口のきは上がる。笑えてはあらぬばかりわかれり。『おこうじさま』その言の葉がいやにわびしく響きき。もう頑張らざりてよきと、もう無理なると。

なき、だったら、今までの我はなりし。

教室に向かひて足を早めて横を通りすぎて階段を上りていひし彼に振り返る。背中がやうやう遠ざかりていひき。

庄左ヱ門くん、庄左ヱ門くん、我を一度でも意識してくれたことありきやは。我を、一度でも特別がりてくれたことありきやは。
お願ひなればこなたを向け。

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