▼ 伊達政宗と幼なじみ兼
※学園バサラ。公式設定とは違ふ。
この学校にも階層なるものはありており、地味に貧乏でろくな取り柄もなき我は下の方に位置せり。
ごくわずかなる頂点に入る人たちは、眉目秀麗に成績優秀に文武両道なりと様々なり。我の学年でいふと、真田くんとか長宗我部くん、前田くんとかさり。
そして自席の周りに女の子たちをはべらせて楽しそうにおしゃべりせるこの二枚目な男の子――伊達くんも上位な人なり。
「だっ、伊達くん」
さっきより階層などと言ひたれど、我もよくわからず。けれど同じ学年でも上下関係はあるまじやと思ふなり。だって伊達くんのごとき煌びやかな人に我はなのめに話しかくべからず。
伊達くん+美しき女の子たち三人がこなたを向く。2mかれし先で我は「あ、あのう」と目を泳がせつつ口を開きき。
「伊達くん、帳面、帳面が未だ出されたらざりて」
「あ?」
「なに政宗ー、出してあげなよかわいせまずや」
小さく笑ひし女の子たちの話を聞けりやあらずや、伊達くんは眉を寄せて立ち上がりき。その拍子に机と椅子の音が鳴り、ヒッと肩跳ぬ。
2mの距離だにも二歩で埋めし彼は我の顔を覗き込むように腰を曲げき。
伊達くんの、清げなる顔が、目の前に。苗字名前これが辞世の句になるかもしれぬ。季語は伊達くん。ちなみに春で。
不機うたてそうなるけしきで伊達くんは言の葉を紡ぎき。
「政宗」
「は、?」
「久々に声かけてきたと思へば他人行儀かよ。ほら、政宗。Call me?」
マサムネってなんだっけ。呼び私ってなんだっけ。口が盗作盗作と動き、冷や汗流る。ちらりと彼の後ろに目をやらば女の子たちがこなたをガン見せり。
「あ、の、なんぢ様の帳面が」
「おいなほ距離開きせむ」
まあ、なんぢも悪くはかしぃ。フンと鼻で笑ひつつ伊達くんは席に戻り、帳面をひっつかみて戻りきたり。
そして我の前に出す。受け取らむと伸ばしし手は寸ででスカった。
見ると帳面は頭上高く上がれり。もちろん隻眼の彼をもちて。
「ほら、取れよ」
ニィ、と弧を描きしその瞳に絶望しか生まれざりし。出でき……我様……美形なれば許さるこのけしき。
すぐさま腕を伸ばせど、なほと言ふべきか、帳面はひょありひょいと軽やかに避く。悔しさや羞恥からん"ん"ん"と喉より声出でき。
「だっ伊達くっくだっくだぞっ」
「我はあげたらずや」
「上げたるは腕をで……! 帳面をたまへ……っ」
ヒイヒイと腕を交互に上ぐれど伊達くんの長き腕には敵わなあり。さるは極力伊達くんに近づかぬようにせるため到達どころの話ならず。
伊達くんは知らないかもしれないけどこういういじめも他の女子より見れば伊達くんに構ひてもらへる女として見られぬるなればげにやめまほしきお願ひ。
「……じゃ、じゃあまむよきぞ。伊達くんはおのれで出してもらひて」
「アンタが出さざらば出さぬぞ?」
「えっ」
「よしやァ? 成績優秀なる我の出さぬとなると教師共はまず学級委員がわざせらぬとなんぢを疑ふぞ?」
再びいやらしく目を細めし伊達くんに、など人なると愕然とす。
されば我が学級委員になりしも伊達くんが推薦しぬればなりし(我は絶対なるもんかとひとへに俯けるに!)、我はこの立場に不満しか抱いてないってのにまた伊達くんのせいで先生にまで目をつけらるるまじ。
「……帳面をたまへ」
「No way.」
伊達くんなんかまばゆし。
机の上のお弁当をつまみつつ眉を寄す。
いつよりさしもさがなき人になりけむ。伊達くんはいはゆる幼ならひのごときもので、保育園の頃より知りたれどあそこまでひぬ曲がりし性格ならざりきべし。そらば子ども特有のさがなさはあれど、嫌味はなかりしはず。まばゆけれど。悪ガキといふか生意気なる面がありて、よく女の子を泣かせたりけり。我も散々に泣かされき。いとかしこかりきし……あれ、昔よりかかる性格なりきやは。そうか。
よも高校になってまで伊達くんに悩まさるるとはは。
ふう、息を吐く。
「いかがせる、美味しからずや」
「あっううん、美味し」
目の前のかすがさんが訝しげに向けこし視線に惑ひて首を振りき。
せっかくの昼食時間なり、今は問題児のことは忘れむ。
「わざとこの卵焼きが恋し! げに美味しかりて!」
「そうか。よかりきは」
ふ、と小さく微笑みしかすがさんに、同じ女なるといふに思はず見惚れき。彼女も階層では上位なり、その美貌やあっさりとせる性格には男子のみならず女子までも虜にす。
わいのわいのと賑やかなる教室は、けれどかすがさんが訪室せるをもちて耳にこちたからぬ際に抑へられたればゆゆし。伊達くんを囲める女の子たちもちらちらと見たりし。
優越感、されどいつ調子乗るはとお咎めがくるかビクビクする。
「えっと、例ありがたく候ふ。こうして我の分まで作りきてもらひにて……」
「……うたてし」
さる大物とお昼ご飯を共にできているにもよしあり。いまだに信ぜられねど、かすがさんは二週間くらい早くお弁当を持ちて我を誘ひてくれたるなり。違ふ級よりはるばる。さるは我の分のお弁当を作りてくれて。
初めてかけられし言の葉が「我と昼を共にせよ」。あまりの驚きに目が飛び出ししを、昨日のごとく覚えたり。
我は父親の会社が倒産寸前で、正直、お昼ご飯をこうして恵みてくるるといふは天の救ひなると思ひき。だがされど、さすがに二週間も世話になりなば申し訳なし。
豪華に栄養均衡の整ひしお弁当を見下ろし、ううーんと眉を寄せき。
「かすがさん、なにかお礼させたまへ。我のみかかる美味しき思ひしにて」
「いや、気にするはなし。我も美味しき思ひはせり」
そらばかく美味しきお弁当なり、おのれで食へども美味しき思ひはせめどさらざりて。
「……礼と言はば、なさりそ。なんぢのものを一つくれ」御馳走様、と手をついたかせどさんつぶやく。
「もの? おかずなりや」
「をこなるをな言ひそ! おのれを大事にせよ!」
「えっあっはい! スミマセン!」
お弁当の話をせればそうかと思へどどうやら違ふめり。とみに怒鳴りしかすがさんはゴホンと咳払いを一つ。「おかずならず、なのめなるものなり」かたはらいたげに続けき。
なんのこらばなれど、しかしお礼として物をあぐるは良案なり。机の中や鞄の中をとぶらひき。なかなか良き物はなし。
「かの、今日なにか買ってくるとかじゃなるめなりや。改めてちゃんとお礼せまほしし」
「必要なし。なんぢの物ならばさるべきもので喜ぶ。それに品を買ふ金もなからむ」
「そっさることは」
なめき人なりは! と憤れど、その通りなれば言ひ淀む。諦めてとぶらひ直す。やはり礼になるめる物はなしは。
そこで痺れをきらしきや、「それでよし」とかすがさんの指ししは我の球筆なりき。
「えっでももう墨少なきぞ!?」
「よし。くれ」
曲がらぬかすがさんに、あやしき人かなと思ひつつ渡しき。球筆を胸隠しに入れしかすがさんは弁当箱を片すと早々に教室を出でゆく。なんといふか、餌付けされたる感は否めず。
隣の席で固まれる女の子班に「相変わらずゆゆしき昼食時間ぞ」と苦笑いされ、我も混ぜてもらはむと椅子を傾けき。
そのころでガンと椅子の脚を蹴れ、盛大によろけけれど。
「よぉ貧乏人。恵みてもらひし飯の味はいかがなりしぞ」
でっ出でき! 思はずよろけしまま倒るるところなりき。最大の嫌味を効かしつつ伊達くんはニヤリと我を見下ろす。いつの間にか女の子たちとかれしや、傍には違ふ級の真田くんと前田くんありき。
「政宗殿!」我の代わりに真田くんが声を出しき。
「貧乏人などとはなめしぞ!」
「せっかく二枚目なんなれば女の子に優しくせずは」
なき、いみじかし。など笑顔を向けこし前田くんにヘイ……と空気の漏れし声出でき。ちらりと伊達くんの顔を窺はば、なんともけしきの悪さな。
やめたまへ……我を庇ふと伊達くんの当たりがなほこはくなればやめたまへ。心の中で念じれどなほ伝わらず。伝へられず。
「他の女子らには優しくせるぞ。は?」ハッと鼻で笑ひし伊達くんは、我の入らむとせる班の女の子たちににかりと笑顔を見せき。赤くなりつつコクコク頷く彼女たちを見て、我が最もゆかしかりしを真田くん訊ぬ。
「では何故彼女にも優しくなさらぬのか」
「もしやそれとて恋なんじゃ……」
「コイツは」
真田くんの言の葉に内心ウンウンと頷き、そして前田くんの言の葉に内心ギョッとせり。
案の定片眉をつり上げし伊達くんがガッと我の頭を鷲掴みにす。ひよきほら八つ当たり始まりき……っ。
「我のもんなれば、よきぞ」
しんときはが静まる。真田くんや前田くみしけならぬ、目の前のいつもほんわかとせる女の子たちも、そして近くなりし男子たちも。みんながみんなこなたを見るおかげで、教室中が静まった。
「なれば」ぐ、と我の頭の上に置かれし伊達くんの手に力こもる。
「コイツを虐めめど利用せめど恋しくせめど我の勝手なり! You see?」
「痛き痛き痛し!」
「わー! やめなよ!」
「政宗殿ぉぉ! なにをたまふ!」
頭が割れそうにげに握りし伊達くんは飽ききや手を離すと、鼻を打ちてやがて教室を出でて行ひき。呆然とす。涙まで滲みきたり。
我が伊達くんのもの? なにを、勝手に、そんなの。
ずるずるとしゃがみこむと、大丈夫? と声をかけくる女の子。そしてどこからかクスクスと笑ひ声もきこえし。
わりなし。意味わからず。伊達くんなんてまばゆし。