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ザッ…と降り立ったこの地。恐ろしい。末恐ろしい。もういやだ帰りたい。
都立夜兎工業高校。まさかまたここに来るなんて。
校門の横で突っ立つ私はただガクガクと足が震えるだけで身動きなんてできない。なんかさ、校舎の雰囲気とか暗いからね!昼なのにね!窓ガラス割れてるとこあるしラクガキは多いし…怖い…。

なぜ私がこんな野蛮な地に再び降り立ったかというと、昨日神威さんに約束を勝手に取り付けられて呼び出されたからだ。なにやら校内武闘大会なるものが催されるらしい。ふっ、ふざけるなー…。私まったく関係ないよね。

確かに、確かに私は神威さんと友だちになった。嬉しいよ、男の子と友だちになるというのはまあ嬉しいけど、でもそれとこれとは話が別っていうかね。

「やっ透里。遅かったネ、もう始まってるよ」
「かっ神威さん…!」

校舎の方からやってきた神威さんは、文化祭に見た時と同じく学ランだった。裏地が虎柄…ヒョウ柄…?とにかく肉食な感じがいやに似合ってるよ。

「あの…私改めてなんで来たかわからないんですけど…」
「え?俺のシアイを見てほしいからに決まってるでしょ?」
「え?」

そか、やっぱり神威さんもその…武闘の試合に出るんだ。いやまあ、野蛮なのは嫌いだけどちゃんとした試合を見る分ならまだいいかな…。にしても見てほしいってなんか神威さん…かわいいとこあるじゃん…友だちに雄姿見せたい的なね!

ちょっと恥ずかしくなりながらも「いつ出るんですか?」と聞けば、神威さんはいつもの笑顔を貼り付けて口を開いた。

「最後。俺去年もその前の年も優勝者だったんだよね。前回の優勝者はシードで決勝までシアイはないんだ」
「…へ、へえ…」
「だからそれまで透里で暇つぶし…透里に一緒にいてもらおうと思って」
「思いっきり暇つぶし言いましたけどもね」

なんだいなんだい、私は結局神威さんの暇つぶしにこんな怖いところに呼ばれたのか。かわいそすぎるよね私ね。帰ります…と踵を返した私だけどもやっぱり腕を取られた。だから痛いんだよなこの人力加減知らないから!

「出店とかもあるんだ、回ろうよ」
「嫌ですよ!わっ私、もう付き合ってらんな…」
「回ろうよ」

ギチギチ鳴って締め付けられていく腕にやはり悟るしかなかった。うわあもう…これ何度目ですかね。ひくり、頬が引きつった。




神威さんに腕を掴まれ引きずられながら大柄の不良たちで渦巻く出店の通りをひいひい言ってついて行く。め、めちゃくちゃ見られてるんですけど。高校生とは思えないようなすごい怖そうな不良たちが見てくるんですけど。
構わず歩く神威さんを見ながら半泣きで歩く私。彼の学ランに縫われている天上天下唯我独尊の文字が目に痛いよ。

そんな神威さんは出店の前で立ち止まった。焼きそば屋さん。中にはたくさんの云業さんと…阿伏兎さんがいた。

「あらァどこのリア充かと思えば番長とこないだのお嬢ちゃんじゃねェの」
「お腹すいた。俺と彼女の分作って」
「ったく、だからうちのクラスは金貯まんねェんだよ」

阿伏兎さんにぺこりと頭を下げてから神威さんについていきお店の奥に入らせてもらう。周りの視線がなくなってホッと息をついた。

しかし安息の地はないようで。隣の出店からガシャーンとけたたましい音が響いた。見るとこれまた怖そうな不良たちが仲間うちでウオオオオとなんか喧嘩を始めている。ケバブの店だったようで、喧嘩の騒ぎによりケバブやらがめちゃくちゃだ。

ほんと男って野蛮だな!なんて思いながら体を固くする。「死ねコラァ」「ヒィィハアア!」と暴れる音や声が怖くて直視できなかったのだけど。
視界をヒュンッと勢いよく鉄板焼きのヘラが飛んでいった。喧騒の中心地にグサリと刺さったそのヘラにより静まるその場。飛んできた方向を見ると、案の定神威さんが笑顔で投げた姿勢のまま口を開いた。

「静かにしないと、殺しちゃうぞ?」

それで不良たちの喧騒が止むっていうのもどういうこと。青ざめながら止まった不良たちに身が縮む。神威さんが笑顔で私に焼きそばを渡してくれたからだ。ひいい…今渡さないでくださいよ注目浴びてるこの今に!

「阿伏兎、俺のはまだー?」「ちょっとは待てっての!このスットコドッコイ」神威さんが阿伏兎さんの方へ向かっていったのを見計らい、焼きそばに視線を移して息を吐く。なんかあまり食欲ないな…こんなまさに野蛮な土地で食べろと言われても。

「これ」

す、と横から差し出されたのはポッキーだった。見ると一人の云業さんが無表情で私に向いている。ちょっと怖そうな顔だったが、ポッキーに素直にひかれて受け取った。


「あ、ありがとうございます…」

お菓子もらって喜ぶのは単純かもしれないけど、嬉しいもんは嬉しいよね!緩んだ頬のまま口に含めば、云業さんも小さく口角を上げた。わは、意外に優しいのかもしれない。

しかし次の瞬間云業さんは地にズコンと埋まった。首だけ残して身体が埋まった。

「ぎゃあああああ!」

目の前でいきなり生首になられちゃそりゃびびるわ!恐怖映像か!「大丈夫だ」えええ云業さん普通に話しましたけどほんとにだだだ大丈夫なんですか!
云業さんの頭にかかと落としして沈めた張本人の神威さんは、無表情でポッキーを持ったままの私の腕を掴んだ。今度こそへし折られる…!

ぽき、ぽきぽきぽき。

「…え」

私の手から直接ポッキーを食べた神威さんは最後にぺろりと自身の唇を舐めて私の腕を放した。
…び、びっくりした。ぽきぽきって簡単に折るのかと…私の腕を…。にしても、ち、近くで端正な顔がおいしそうに食べるのを見るのはなんというか心臓に悪いんだね。

唖然としたまま止まっている私の隣に神威さんは座ると、ずぞぞと笑顔で大盛りな焼きそばを食べ始めた。…なんだったんだ。

「なんだァ?結局番長はその子をモノにしたってのか?見せつけてくれるねェ」
「モノ?透里とは友だちになったんだよ」
「エッ?友だち?」

ニヤニヤしながら阿伏兎さんは自身の焼きそばを持って私たちの前に座ったが、神威さんの言葉に割り箸を持って止まる。そんな彼は私と神威さんを見比べて「なぁんじゃそら」と声を出した。

「俺ァてっきり…文化祭で番長が気に入ったみたいだから、すでにそうなのかとよォ」
「うん、いずれそうなるよ」
「なっならないですよ!?」

阿伏兎さんもしかして私と神威さんが恋人とかそういうことを!?思ってる!?いやいやいやないですないよ、友だちならまだしも神威さんとは付き合えないもん。
ブンブンと手を横にすれば神威さんと阿伏兎さん二人に見られた。怖い。

「…あんららァ…ほんとにヤってないんだねェ…」

ヤっ…。なにを言い出すんだこの老けた人(阿伏兎さん)は。

「いいんだ今は友だちで。アホな透里見てるの楽しいしネ。いずれぐちゃぐちゃに汚すけど」
「なに普通に返し…ってかなに言ってんですか神威さん!」

阿伏兎さんの突然な下の話題にもけろりと返した神威さんに、全身が熱くなりながらも立ち上がる。「なにが?」ってくりくりした目で見上げてきてもかわいいとしか思いませんからね!

「友だちのことをそんなせっせっ性的な目で見るのはいけません!」
「それは無理な話です。本能のままにしか生きれないからー俺」
「開き直らないでください!」
「わかったわかった、ゴメンネ」

絶対謝りの気持ち入ってないわこの"ゴメンネ"。呆れながらも私は神威さんたちに背中を向けた。とりあえずこの火照った顔を冷まさなければ。まったく…免疫のない私をこうもからかうだなんて神威さんやっぱりSっ気あるんだな…!負けてやるもんか…!
「お手洗い行ってきます!」とだけ告げて急いで出店を出る。ああもう、男って生き物はなに考えてるんだ。きっと私じゃ一生かかっても理解できないよ。

お手洗いを探しながら歩くと、文化祭の時にステージだった場所に大きなリングができていた。どうやらここで試合をするらしい。今もなにやら上半身裸の男二人が殴り合っている。周りには沸き立つギャラリー。…うわー…引くわー…。
…まあ腕相撲の時の神威さんは確かにかっこよかったけどさー…。でもやっぱり殴り合うってのはこう…。

なんて眉を寄せながらリングの横を通り過ぎている時が、覚えている最後だった。後ろから布を口元に当てられ、変なにおいを吸った瞬間に意識がくらりと飛んだ。


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