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休日のため、街に出かける。普段は家でのんびりか、友達に誘われることが多いけどたまには一人で外をゆっくり歩くのもいいなあなんて。ふわあ、陽気な日和にあくびをもらせば、街の人ごみの中から番傘を差して歩いてくる人がいた。目立つなあ、こんないい天気に傘差して…日傘には見えないし。
なんてふと傘の持ち主を見てウワアアアと心の中の私が叫んだ。

「あり?こないだの」

スルーしようとした途端目が合っちゃったよ!私を認識すると、オレンジがかったピンク色の三つ編みをなびかせてその人物はニッコと楽しそうに笑った。
さっと視線を外して、さも人違いだとばかりに彼の横を通り過ぎる…なんてことはできずにガッと強い力で腕を掴まれた。ひいい痛い!

「俺のこと覚えてる?神威だよ」
「覚えてます覚えてます!だから放してください痛い痛い!」
「あっごめんネ。力加減わかんないや」

放された腕をさすりながら苦々しげに彼を見る。笑顔のごめんネで済むあたり本当に恐ろしい人だよ神威さんは。…怖いから言い返せないけど…。
あの不良校と呼ばれる夜兎工業高校でひょんなことから知り合った私たちだが、ぶっちゃけあの日以来私は拍車にかけて男が苦手になった。彼氏…というか男友達を求めに文化祭に行ったのにこれじゃ逆効果だ。
しかし男嫌いを増した私とは反対に、神威さんは私を気に入ったようで。なんでなんだろうわけがわからない。ビンタしちゃったからその報復として襲ってくるならまだわかるけど…。いやわかりたくないけどね!嫌だけどね!
でもあれ以来神威さんに会うことはなかったから、やっぱりあの出来事は夢だったのかと思ってたのに。

「いやあまた会いたいと思ってたんだよ、えーと…あー…あり、なんだっけ」
「え?」
「名前」
「…広崎です」
「下は?」
「…透里…」
「へー、そんな名前だったっけ」

ええー…なにこの人…。なんとも言えずに呆けていれば、神威さんは「暇人に見えるけどなにしてるの?」と訊いてきた。前半部分まったくいらないですけどね。

「…別に…散歩みたいな…」
「そうなんだ、暇なら俺と一発ヤらない?」
「…え、遠慮します」
「そう、残念」

にしても神威さんも私服で街を歩くとかするんだね。イメージ的にずっと学ランでオラオラ不良と喧嘩してる感があったよ。こうして見ると美形なんだなあ…とちらちら顔を見ていてふと気づく。え、あれ、軽やかに流したけど今ものすごい会話しなかった?デジャヴなんだけども。…いいや、蒸し返すのは止めよう怖い。
ここは早々に立ち去るのが賢明だね。じゃあそろそろ、と体を横に向けた瞬間、するりと自然な流れで手を握られた。エッ。

「デートしたい」
「はっ?」
「透里に会いたかったんだけどさ、連絡手段も何もなかったから今まで忘れてたんだけど、顔見ちゃったら欲しくなっちゃって」
「…え、は、え」
「だからデートしよう」

ちょ、文法がなんかおかしくないかなと思ったけどそれどころじゃない。自分でも顔が赤くなるのがわかった。全身に熱がジワジワ滲んでいく。繋いだ手はすでにもう熱い。
いやいや落ち着け!落ち着いてくれ私!こんなのあれだ、ナンパの常套句だ!大して意味ないんだから!くっそう免疫のない私になんたる爆弾を…!言い返そうにも言い返せなくてただ金魚のように口をパクパクさせてたら「まぬけ」と笑顔でぴしゃり言われてしまった。調子に乗るなと言いたいのか。

「って言っても俺デートしたことないんだよね。普通はどういうところ行くの?闘技場?」
「闘技場!?でっ、デートって言ったら…その…映画とかテーマパークとか…」
「そうなの?じゃあ行こう」
「いやいやいや行きませんけど!」

ぐ、と握られている手に力がこめられてヒッと肩が跳ねた。笑顔の神威さん。でも私はこの笑顔がおっそろしいことを知っている。ギチギチと鈍い音が手から聞こえた。

「行こう」
「い…行きます…」

疑問文てなにそれ美味しいの状態で発した神威さんの言葉に私は泣きそうになりながらも返事した。もう涙目だよ。




神威さんと映画やテーマパークに行く気にもならないので、ガンガン騒がしい音が常に鳴ってて神威さんの相手しなくてもいいかな的な考えからゲームセンターに来た。「へぇ、デートにはこういう所も来るんだ」にこにこ笑う神威さんは、ゲーセンは初めてだと言う。私もあまり来ないけど初めてではない。

「でもムードとかないよネ」
「(ムードとか知ってるんだ)」
「機械相手に遊んで楽しいのかな、やっぱりやるなら人間でしょ」

やるなら、のところがどんな漢字なのかは想像したくなかったからしなかったけど、神威さんはにこやかに太鼓の鉄人の前に立ってバチを取った。

「まあいいや、これやろう。云業が話してたの聞いたことあるんだ」
「云業…?」
「うん、ハゲ。文化祭の時に顔が同じなやつが大量にいたハゲだよ」

ハゲを二回繰り返した神威さんに、そういえばと思い出す。ああいう厳つい人も太鼓の鉄人やるんだな…なんか本格的そう。
「始まるドゥン!」と発した太鼓の鉄人。無理やりだったがゲーセンに連れて来たのは私だし、一応私もやろうと思ったのに彼はすでに始めていた。しかも彼の畳まれた傘を持たされた。やるかの選択肢すらくれなかったね今。ていうか傘重いんですけど。

「赤い梅干しが流れて来たら太鼓の真ん中を叩いて潰して、青い梅干しだったらフチを叩いてはじいてくださいねー」
「赤いのは潰すんだ」

にっこり頷いた神威さんにゾワリと悪寒がしたのは気のせいだと思いたかったが。赤い梅干しが流れた瞬間、神威さんは太鼓の真ん中に向かって勢いよくバチを突き刺した。
ドゥゥン!とけたたましい音を立てながらもちろん太鼓は破壊される。私はといえば傘を抱えたままうわあああと声を上げた。やっちまったよ!

今の音を聞きつけて店員さんがバタバタと駆けてくる気配がする。あわてて私は神威さんの手を取り、ゲーセンを抜け出した。なんてことだもうここには来れない。罪悪感しか生まれない。
「機械は脆いから嫌なんだよな」私に腕を引かれながらつまらなそうに言った神威さん。今私がどれだけ必死だと思ってんのかなこの人は!

ゲーセンから外に出た瞬間、神威さんは私から傘を奪ってそれを開くと私と繋がっていた腕を引いた。必然的に私は神威さんに引き寄せられる。そして彼に担がれた。もう一度言おう、担がれた。
そのまま神威さんは走り出したんだからもうなんだか。怪力ですね!恥ずかしい!ていうかたまにガスガスと傘が頭に当たるんだけど。

ゲーセンから大分離れた街の通りに神威さんは止まるとやっと降ろしてくれた。うっ酔った。しかも彼の肩に圧迫されてお腹痛い。

「ねェ、もっと他の楽しい所でデートしよう」
「…え…いや…」
「例えばそうだなー、ホテルとか」
「そっそんなのデートじゃない!デートっていうのはもっと清く正しくほんわかと…!」
「……前から思ってたけどさ、透里ってアホだよネー」

エッ。神威さんにアホって言われた。エッ。会ってまだ二回目なのに。エッ。ていうか無茶苦茶な神威さんに言われるほど私はアホじゃないはずなんだけど。
そ、それは神威さんには言われたくありません。というのをオブラートに包んで言おうとしたのだが、神威さんがいやにニッコニッコしていたため口をつぐむ。

「なんだか汚したくなるな」
「…え」
「アハハ、じょーだんだよ。面白いからもう少し付き合ってあげる」

さっ、行こう。私の手を掴んで歩き出す神威さんに、私は呆気に取られながらもなんとかついて行く。…と、とりあえず、あれだよ。神威さんに付き合ってあげてるのは私なんですよ。もちろん言えないけど…!




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