mg | ナノ


女友達とのふとした会話でも「神威さん今なにしてんだろ」って考えてしまったり、みんなの彼氏との話聞くと神威さんの場合を考えてしまったり。廊下を歩いてる時にふと顔が浮かぶと壁によろけてしまったり。
こ、これは重症だ。小袋さんの時に思ったのは恋じゃないだろと思うほどドキドキしている。

す、好きなのか。私はあの喧嘩大好き野蛮で最凶な番長を好きになったのか。付き合いたいとか思ってるのか。……そ、想像できない。喧嘩のイメージ強すぎて神威さんと甘い雰囲気になるなんてまったく考えられないよ。むしろ直線でホテルへ向かう場面しか浮かばないよ。
えっなんで私神威さんにドキドキしてるの? 確かに友だちとして優しいところあるけど、大抵無茶ぶり強引で野蛮な彼だよ? あれじゃないかな、通り魔に遭った時の恐怖のドキドキを恋と勘違いしちゃったんじゃないかな。吊り橋効果的な。そもそも恋バナなんてあのタイミングでするもんじゃないよね、錯覚するってもんだよ。
そう、だから、こんなに神威さんを考えて動揺するのはおかしい。おかしいけど。

「最近神威さんから連絡来ないな……」

私にとって神威さんが大きな存在となってることには変わりないのだ。
だから神威さんからの電話がないこの頃、ちょっと、ほんの少し、こう、物足りなかったり。刺激が少なくなったっていうか。

携帯を揺らしながら息を吐く。「SHRするぞー」と担任が入ってきたのと同時にジャイ子が隣の席に座った。ちなみにその席はジャイ子の席ではない。

「どうした恋する乙女よ。神威さんのことだろう」
「何キャラかな。……さ、最近夜一緒に食べないなーって」

小袋さんとデートして、神威さんに恋をしたかもと気づいたその日から二週間が過ぎた。その期間連絡もないし会ってもない。前までは『今なにしてんのー?』「エッ寝ますよ」『早。おやすみー』ブチッ「なんだ今の」というやりとりが頻繁にあったんだけど。最近少ないと思うのは私が意識しすぎてるからなのかな。

「誘えばァ?」
「わっ私から!?」
「ハァー!? 当たり前っしょ! 攻めて攻めなきゃ捕まえらんないんだよ!」

それはジャイ子が肉食系だからさ! 私はそんなそこまでするほどじゃ、と俯いたが気づく。受け身。これは受け身ではないか。そんな女神威さん嫌いそう。
そうだよね、と携帯で神威さんの電話番号を出す。ていうかそもそも私と神威さん友だちだしさ、私から誘ってもいいじゃんね。軽く息を吐いて落ち着き、ボタンを押して携帯を耳に当てる。
しばらくのコール音、『なに』出た神威さんにぎょっとした。きっ機嫌悪い。

「あ、透里です」
『うん。なんか用』
「あっ、の、夜ご飯、一緒に食」
『無理。最近たてこんでてさ。お前には会えないよ』

じゃあね、と有無を言わさず通話を終了した神威さん。携帯を見ながら目が点になる。とても忙しそうだった。
どうだった? と眉を寄せるジャイ子に首を傾げる。黒板の前では担任が「最近、路上での集団暴行が多発していてー」などとSHRを続けていたが、雑談で賑わう教室に溶けていった。




放課後ジャイ子たちとクレープやたこ焼き食べて、ショップなんかも適当に回って、他人の恋愛の話なんかで盛り上がりつつ暗くなってきたのでお開きになった。これが普通の幸せな日常である。たまにバイトを挟むけど、のんきに話して遊んでってのが日々で。
神威さんと会わなければ毎日がこんなにも平和なんだなあと。飛んでいくカラスを眺めて帰路をたどりながらぼんやりと思う。

対して神威さんは毎日が刺激的ではないだろうか。本人もそれを追い求めていそう。私とは違うんだよな。こうして段々と疎遠になっていくのもおかしくはないのかも。それはちょっと、寂しいね。ほら初めての男友だちだしね。

カラスに向けていた視線を下に戻せば、道の向こうから夜兎工生がギャハハと笑いながらやってくるのが見えた。ヒイ怖い。目が合ったよ!

「番長の彼女さんじゃないっすか! ちっす!」
「今日は番長と一緒じゃないんすね!」

厳つい顔をしているのににこやかに笑って近づいてきた彼ら。あまりの気軽さに毒気を抜かれ、思わず「お、おふ」と息が洩れた。

「今帰りっすか? よければ送っていきましょうか! いやっ下心とかやましい気持ちはなく!」
「バカおめェそれじゃ逆にやましく見えるだろうが! ここ最近物騒ですし、俺らお守りしやすよ!」
「おい、女にかまけてんじゃねェよ」

3人の夜兎工生のうち二人がにこやかに話しかけてくれたが、残りの一人は私を軽蔑するような目で見てきて冷や汗が流れた。

「そもそもそんな弱そうな女が番長の彼女なわけねェだろ。だとしたら俺は番長を見損なう」
「おい失礼だろォ! すんません彼女さん、夜兎工の中には女嫌いなやつも多くて」
「でも俺らは女大好きっすから! アッでも軽いわけでもなくゥ!」
「やめろみっともねェ!」
「るっせェ呂薄! 堅物がァ!」

堅物と呼ばれた方は呂薄(ろうす)と言うらしい。なんて美味しそうな名前。そういえばお腹すいてきたよ、帰ろう。なんだかんだ仲良さげにやいやい言い合っている夜兎工生たちに「じゃあ私はこれで……」とそそくさその場を去る。近道である比較的細い道に入った。
ああ……怖かった。やっぱり神威さん阿伏兎さん云業さん以外はまだ慣れないや。

「おい女」
「ギャアアア」

振り返れば呂薄さんがズゥンと立っていた。なんなの!? 不良って気配もなく近づくのが得意なの!? 心臓もたないよ!
呂薄さんは巨体で筋肉質である。云業さんみたいな。そんな人に背後立たれりゃ死がよぎるよ。

「こっちの道を使うな」
「え? な、なんでですか」
「襲われてェのか!」

エーッ急にキレるのかい。不良の考えてることはわからん。逆らわない方がよさそうだ……とビクビクしながら呂薄さんの隣を過ぎて元の道に戻ろうとした。

「なん……ぐっ」

元の道には先ほど親しげに接してきた夜兎工生たちがいるはずだったが、そこにいたのは怪しげな大人の男たちだった。彼らは夜兎工生たちを殴って地に伏せさせる。驚愕に目を見開いた私に、振り返った謎の男たち。

「見つけた」

卑しい笑みを浮かべた男が手を挙げると、視界を遮るようにワゴン車が道を阻んで止まった。
後ろの扉が横に開かれ、中からぬっと手が出てくる。理解に頭を回そうとする間にも、私は多数の手により車の中へと引きずり込まれた。

「おい待て!!」

ズダンと後部座席に押しつけられながら見えたのは、呂薄さんが同じく車の中に乗り込んでくるところだった。車の中にいる謎の男たちが呂薄さんに殴られる。つっ強え!
しかし呂薄さんの背後に鉄パイプを振りかぶった男が見え、私が声を出すより早く呂薄さんは殴られた。

「呂薄さん!」
「もういい、こいつも連れてけ」

座席に倒れた呂薄さんの後頭部は血が滲み、思わず口を抑えた。動揺している間にも男たちは呂薄さんを縛り、そして車の扉を閉める。すぐに車は動き出した。
「わかってると思うけど」顔を隠すことなく、素のままの男が私の髪を掴み引っ張った。見たこともない人。痛みに顔を歪める私の眼前にナイフをちらつかせる。

「騒いだらその口削ぎ落とすから」

イかれてる。ぞっと凍った背筋。抵抗なんてできるはずもなかった。




「案外おとなしいじゃん」ニヤリと笑って男は後ろ手に縛られた私の背中を押した。よろけながらも埃っぽい小部屋に入る。次には呂薄さんが蹴り飛ばされ転がりながら入ってきた。

「テメェらだな最近夜兎工生を襲ってたのはァ!」
「ホント夜兎工生て元気でバカだよな」

すぐに起き上がった呂薄さんだが、がんがらじめに縛られてる今、男たちは恐怖を抱かないようで笑いながら呂薄さんを蹴って部屋を出て行った。

「くそ!」
「……あの、最近夜兎工生襲われてたんですか?」

ああ!? と呂薄さんが勢いよく振り返り、ぐっと言い詰まった顔をした。私は今この状況に恐怖を抱くよりも、夜兎工生が襲われていたという情報に驚愕する。もしかして神威さんに関係あるんじゃ。

「……ああ、そうだ。夜兎工の学ランだとわかりゃ無闇やたらに襲いかかってくる集団が出てな」
「だっ大丈夫ですか!? 被害とか!」
「……。ここ二週間で十四人はやられた。番長が筆頭に主犯を捜してたが……チィ、捕まるなんざ」

なるほど、だから神威さん最近忙しかったのかな。嫌われたわけじゃないとわかってほっと息をついた。ってのんきだな! そんな問題じゃないよ今!

「あの男共はさっき、アンタ見て見つけたっつってたな」

じろり。縛られたままあぐらをかく呂薄さんに、頬をひきつらせながら私も後ろ手に縛られたまま正座した。

「知り合いか」
「そんなわけないです……」
「夜兎工を襲うアイツらがアンタを狙った。人質以外のなにものでもねェな。ヤツらは番長を潰そうとしてる」

……なんか前もこんなことあったな。武闘大会の時だ。捕まって、人質取ったから負けろって神威さんは迫られて。
でもあの人は来なかった。そういうのは面倒だから、だったら私なんていらないって言った。別にそれを咎めるつもりはない。だって私も私で男嫌いとか言いながら男に助け求めるだけだったし、神威さんは正々堂々喧嘩がしたかったんだもんな。

「俺はアンタごときが人質になるとは思えねェな。ったく……番長もなんでこんな女……」

だから今回だって、神威さんは私のことなんて気にせずあの男たちを潰したいがために喧嘩するのだろう。

「私もそう思います」

うん、だから私ここにいても意味ないし、むしろ巻き込まれてボコられるの嫌だし神威さんの迷惑になりたくないし、帰ろう。
立ち上がり、後ろ手に縛られていたロープをするりと手首から抜く。「!?」呂薄さんの目が飛び出した。

「なっなんで縄抜けできんだァ!」
「神威さんに教えてもらって……」

銀行強盗に遭った日、帰り道でちょこっと教えてもらったのだ。まさか再び役に立つ日が来るとは。
大方呂薄さんも縄抜けはできるだろうが、縛り方が私よりも頑丈だから難しいかもしれない。なにかロープを切れるもの……と周りを見渡して、目が合った。目と目が合った。倒れている女の子と。

「!?」
「お前らアホの知り合いアルか」

倒れている女の子は苦々しげにそうつぶやいた。呂薄さん同様がんがらじめに縛られている彼女は、世にも珍しい瓶底メガネをかけている。こ、この制服は銀魂高校の……。頭の飾りで団子にくくられているが、どうにもあの髪色に見覚えがありすぎる。

「そっちのデカブツは夜兎工のやつアルな。……お前はどうしてここにつれてこられたネ」
「え、っと」
「そのデカブツに巻き込まれたアルか?」
「い、いやあ……あなたは?」
「私は神楽ネ」

ふんぬっと言って彼女は縛られていたロープを千切った。ぎょっと目が見開く。なんだ今の信じられない光景は!

「わ、私は透里です」
「透里か。透里はどうしてここに連れてこられたアルか。私の予想じゃあのバカ兄貴を油断させるために私はここに連れてこられたと思ったアル」
「……バカ兄貴?」
「神威っていうヘラヘラしたバカネ。知ってるアルか?」

んなわけねーアルな、透里みたいな女の子とバカ兄貴が関わるなんて信じらんねーアル。
神楽ちゃんはよっこらせ、とそこに寝転がって酢昆布をポケットから取り出した。えっと……せ、整理が追いつかないんだけど。え、なに、妹? あの神威さんに妹いるの? 驚きすぎて笑顔が固まったままぽろっと言葉が洩れた。

「私、神威さんと友だちです」
「……」
「……」
「え?」
「友だち」

すごい、この女の子が神威さんの妹さん。確かにちょっと似てる。髪色とか目とか肌の色とか。驚きが一周回って喜びに変わる。興奮してガン見していれば、神楽ちゃんの瓶底メガネが少しずれ落ちた。




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