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女友達3人が目の前でキャッキャッ言ってる中、私は身の縮まる思いでその背中たちを見ていた。

女子校の私たちは、出会いがない。特に私みたいな引っこみ思案なんかそりゃもう出会いのでの字すらない。
この文化祭シーズンで「彼氏作ろうぜウオォ!」とうねりを上げた肉食系女子の彼女たち三人に連れてかれ、来てしまった工業高校の文化祭。

ただの工業高校ならまだ私だって「彼氏は無理でも男友達は作りたいな〜…」となる。のだけどもしかしそれでもここは、あの不良で有名な都立夜兎工業高校なのだ。いい噂なんてまったくない。

「姉ちゃんたちかわいいじゃん。焼き鳥一本おまけ」
「えー、どうせなら人数分おまけしてよっ」
「おねがいー」

ノリノリだ、みんなノリノリだ。焼き鳥をもらいながらビクビクと肩が震える。肉食系なくせに天然なみんなは気づいてないみたいだけど、結構夜兎工の男のみなさん私たちのこと見てるんだよ!視線が痛いんだよ!

「じゃあ俺とジャンケンして勝ったらこれあげるよ」
「え、ほんとー?」
「がんばってジャイ子!」

焼き鳥屋さんの男の子たちと盛り上がっているみんなを横目に、私は喉が渇いたためジュースを売ってる店を探す。あ、あった。
友達にすぐ戻ると一言声をかけ、ビクビクしながらも飲み物屋に足を出す。
気だるそうに店番をやっている学生に「あの…」と口を開いた。

「そのお茶ください」
「あー…はいはい」

だるそうに立ち上がった彼のエプロンには「あぶと」と名札が書かれてあった。…ええと、どう見ても高校生には見えない。
そんな彼はお茶を氷水から取り出すと、私にじっと目を合わす。怖さから少したじろぎ、後ろに下がった。

「な、なにか」
「おっぱいプリンも一緒にどうよ」
「は?」
「プンルプルだよォ。俺の好みの大きさじゃねぇけど。姉ちゃんの胸も補えるぜ、なんつって」
「…え、遠慮します」
「あっそォ?」

残念だねェ、と言いながらお茶を差し出してくれたあぶとさんに軽く礼をし、さっさと飲み物屋から離れる。
…なんだったんだろう今の。よくよく考えるとセクハラじゃないか?自然すぎて普通に対応してしまった。しかも飲み物屋の中にいた男の子、あぶとさん以外みんな同じ顔してた気がしたんだけど。なんであんなにハゲた男の子がいっぱいいるの。

工業高校不気味すぎる。ペットボトルのお茶を口に含みながら歩いていると、ワアアと歓声が聞こえて自然に顔がそちらに向いた。

「腕ずもう大会?」

ステージが設置された上の看板にそう書かれていて、そのステージ上には一つの台。それを挟むようにいかにも筋肉が自慢そうな夜兎工生が腕ずもうをしていた。なんて…野蛮なんだ…ステージを囲う観客の歓声のなんと野太いこと。なんか汗くさいニオイもする。

まあいいや私には関係ないし興味ないし行こう。友達がいる焼き鳥屋に振り返った時に、後ろにいた人にぶつかった。飲み途中だったペットボトルは反動で落ちて、その人の靴にびちゃりとかかる。

ひっ。一瞬で心臓が冷えた。俯いたままなため顔は見えないが、これは夜兎工の制服…イコール私は絞められる。

「あー、濡れちゃった」
「すっすいませ…!」
「いいよ別に、詫びに俺のお願い聞いてくれる?」

顔を上げて見た顔は、貼りつけたような笑顔。ピンク色の髪、三つ編みが特徴的の彼の言葉に理解が遅れていると、ガッと腕を掴まれ手を挙げさせられた。

「えっえ?」
「ハーイ、この子がやるヨ」

無理やり手が挙がった私に、バッとステージを囲んでいた観客たちが向く。「おぉっと女子の挑戦者だアァ!」「ウオォ女子キタアアァ!」なにがなんだかわからなくて泣きたくなる私は、あれやこれやとステージ上に上がらされた。え、ほんと、なに、なんなの。

そしていつの間にか目の前には夜兎工生の大男。ニヤニヤしながら私と手を握る。そして司会者の合図と共に、ゴングが鳴った。

なんでいきなり腕ずもうに参加してんの私!
目の前の対戦相手はなぜか私の手の触感を確かめるようにニギニギ揉んでくるし、私なんか楽に倒せるはずなのにゆらゆら揺らすだけで一向に倒そうとしない。
これはまさか…女子と接することが嬉しい…の?自惚れかもしれないけど、いやでも…めちゃくちゃこの人鼻息荒い…。

「ううう」

握ってる手に力を入れ、無理やり自分が負けるように倒れる。ゴングが鳴って、試合終了を告げた。勝者は…と司会者が叫んでる間に急いでステージから降りた。あああもう!なななんだったの!
いまだに注目してくる観客から逃げるように人の波をすり抜けると、ガッと腕を掴まれた。

「ぎゃあああ!」
「意外に頭は良いんだネ、わざと負けるなんてやるなあ」

あああ…あぁ…とエコーになりながら掴んでいる人物を見ると、さっきのピンク頭の笑顔人。
その手を逆に掴んでつめよる。もう必死だ。

「なんだったんですか今の!きっ、気持ち悪かったあ!」
「あの司会者が挑戦者を観客から募集してたから参加しただけだよ」
「私がね!私が参加しましたよね!」
「でもなんだ、やっぱり強いやつじゃなかったんだ」

やれやれ、と言うように息を吐かれても私にとってはなんのこっちゃである。

「うぉーい大将、やっぱここにいたか」
「あ、阿伏兎」
「お、さっきのネーちゃん」

飲み物屋のあぶとさんが人の波をかき分けて出てきた。「なに、挑戦者ならねェの?」あぶとさんの問いに、ピンク頭さんはうんと満面の笑みで答える。

「勝負事で女に鼻の下伸ばしてるやつが強いわけないからさ、時間の無駄」
「あっそォ。俺としてはアイツ気に食わねェけどね。焼き鳥屋の売り上げすげェらしいし」
「阿伏兎のひがみは聞いてない」
「ひがみで悪かったよォ!」

焼き鳥屋で思い出す。そうだ友達忘れてた!待たせてみんな怒ってるよ!
あわててピンク頭さんとあぶとさんに頭を下げて、焼き鳥屋へ足を出す。しかし振り返る。笑いながら首を傾げたピンク頭さんと目が合った。

「さっきはお茶かけちゃってごめんなさい。それじゃっ」

そして背を向け走り出す、と。あー怖かった!男、さらに不良校の男の子と話せたなんて一生の武勇伝だよ!
息切れしながら焼き鳥屋に着く。店前にはみんないなかった。あれ?

「あの…私の友達…テンション高い女三人組知りません?」
「ん〜知らないねェ」

ニヤニヤ、とした下品な笑みにゾワリと恐怖が襲う。あ、あれ…なんでみんないないの。まさか置いてかれた?いやそんなことする子たちじゃない。だったら連絡来るはず。

「どーせ引きずりこんだんだろ?」

いつの間にか隣にいたピンク頭さんにギャアと驚く私。焼き鳥屋さんも「うおわっ神威イイィ!?」と驚いている。
…って、え?引きずりこんだってなに。

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