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快晴の学園祭日和。太陽の日差しが眩しい。そんな光の中でも神威さんはいつもの番傘を持って、堂々と立っていた。隣には真紅の中華風花嫁衣装を身に纏う宝条院さん。なんとも美男美女の組み合わせ。そしてお互いが中華な格好してるからか、さらに華やかってか。まさにカップルってか。

「あらァ、番長またいーい女を手に入れちゃって」
「……」

呆れたため息を洩らした阿伏兎さん、その隣で眉を寄せる私。
『ただいまよりカップルイベント開始いたしまーす』放送が校庭に響いた。ここから見える神威さんと宝条院さんは、なにやら笑顔で話していた。ほーう、すでにもう仲良くなったようで。

きっと彼らは優勝するんだろうな。なんてったって神威さんだもんね、彼に成し遂げられないことはないんじゃないかと思うよ。ペアになって出れないのはちょーーっと寂しいけど、まあ神威さんが楽しければそれでいいんじゃないかな、うん、そう……私も楽しむだけだし?

「阿伏兎さん、無理やりペアにしちゃってごめんなさい」
「そう言うんなら後で番長に弁明してくれよォ」
「弁明ならこっちにしてもらいたいくらいですよ」

ざ、と足を前に出す。こちらに気づいた神威さんが少しばかり驚愕に顔を変えた。

「透里、出るの? 阿伏兎と?」
「はい。神威さん」

ぴっと伸ばした人差し指を彼に向ける。眼光を強くして睨めば、神威さんはすぐに元の笑顔に戻った。

「もうあなたに一喜一憂させられるのはこりごりです。この際だ、絶っ対勝ってやる!」
「へェ、俺に挑もうっての?」

くっそーなんて高圧的な態度だムカつく! 残念だったな神威さん、このイベントは拳の力だけじゃないのさ! 喧嘩以外興味ないあなたには乗り越えられない関門がたくさんあるのだよ! 精々首を洗って待ってなハーッハッハア!
なんて不良の番長に言えるわけもないので、早々に阿伏兎さんのもとへ戻った。あー怖かった。宣戦布告ぐらいしないとこの後も怖じ気づくからね私はね。

「神威さん、あの子は貴方と一緒に組みたかったんじゃなくて? よろしいの?」

ふと聞こえた凛とした声に振り返る。袖で顎を隠しながら宝条院さんが神威さんに顔を寄せていた。

「こうでもしないとアンタは靡いてくれないだろ。それに、アンタだって俺が必要なくせに」
「もう、意地悪なお人ですね」

和やかな会話が耳に入る。バチッ、私と目が合うと神威さんはにっこり笑って手を振ってきた。なんたる余裕綽々な。わなわなと拳が震える。

「あの嬢ちゃん、ミスNO.1なんだって? さすが番長だァな」
「……男って、友だちよりも初めて会う美人を取るんですね」
「アァ? あー……まあ、美人とちんちくりんのどっちかっつったら」
「ちんちくりん!?」
「いやいや、世にはネーちゃんみてぇな子を好きな輩もいっぱいいると思うぜ」
「へたな慰めしないでください!」
「いくら俺でもネーちゃんは慰め物にゃあならねーよ。タイプじゃねェし」
「セクハラか!!」

女はすーぐセクハラっつーから! と大声で愚痴吐き出した阿伏兎さんを遮るように、『それでは一本目! 運勝負!』と放送が入る。ステージ上にペアの一人が集まる。私も向かった。

一本目の運勝負、くじ引き。引いたくじに書かれた番号がスタートの順番数となる。あらかじめ受付した時に引いたくじを持って、堂々と開いた。一緒に覗き込んだ司会者がワッと声を上げた。

『1番! 広崎さんチーム1番にスタートです! さっそく行ってください!』
「よし、阿伏兎さん行きましょ!」
「運良いなァネーちゃん」

カップルイベント参加者の間を縫い走り、第二関門へと向かう。途中、神威さんとすれ違ったため、いっと歯を見せてやった。しかし怖くなったから急いで逃げ去る。

阿伏兎さんと走りやってきたのは多目的室。机が並ぶそこに、冷や汗をかいている阿伏兎さんと共に座った。二発目の関門、知力を要する計算問題だ。
解いている間にも後続がどんどん入ってくる。急いで解き終わり、阿伏兎さんの様子を見てぎょっとした。

「阿伏兎さんもしかして」
「ええーと、はちさんにじゅうし はちしにじゅうはち」
「32! 計算苦手なんですか!」

がくり、机に手をつく。そ、そうだ、確かに補習の日に必死こいて勉強してたよね。勉強苦手かあ……そっか。
はっ、と前を見る。次々と計算を解いて教室から出ていく参加者。そしていつの間にか来ていたのか、神威さんと宝条院さんが二人そろって審判に計算用紙を提出していた。

「お先に、アホ共」

ひらり手を振って宝条院さんと出て行った神威さん。青筋が立った気がした。

「阿伏兎さんー!」
「わァってるっての! ったく、余計なことに巻き込みやがってこのすっとこどっこい!」

阿伏兎さんがようやっと解け終わった時には、24番に落ちていた。急いで校庭に向かう。第三関門は跳躍勝負だ。
校庭にはコケシ型のインフレータブルバルーン(ドーム式)があった。バルーン内部は窓の付いた空気圧式のトランポリンで、よくフェスタとかにある子どもが遊ぶあれ。
中に入ると、すでに参加者が飛び跳ねていた。それ以上にカラーボールが送風によってあちこちを舞う。

『三発目は跳躍力を必要とする! 大量のカラーボールの中でも、六つだけBB弾が入ってるボールがあるので、それを取って出てきてくださーい! 六組しか出れないので急いで急いで!』

トランポリン内に立っているだけでも、送風によって多くのカラーボールが当たってくる。この数百個ありそうなカラーボールの中から六つ選べなんて、しかも早いもん勝ち。
こけしの内部を見上げれば、上部では神威さんが跳んでいた。衝撃に口が開く。トランポリンの壁に手をついて、そしてまた反対側の壁に跳ぶ間に何個ものボールを取っていた彼。人間業じゃない。
躊躇ってる暇ないな、私も早く探さなきゃ。周りの参加者もぴょんぴょん跳ねて空気中のカラーボールを取っている。

膝を曲げてタイミングよくジャンプすれば、二個ほど手に取れた。振ってもBB弾の音は鳴らない、これじゃない。こんな多い中から六つ探せなんて無謀な。

「あったァ!」「こっちも!」しばらくすると次々とBB弾入りのカラーボールを見つけて参加者はトランポリン内から出ていく。う、焦るな。見上げたが、まだ神威さんは探していた。
飛び跳ねを止めずに続けていれば、カツカツと小さな音が聞こえたような。これだ、とボールに手を伸ばすが先に身体が落ちる。あー! 届かなかったか!

「う、わ」
「っと、危ねェなァ」

着地に失敗してよろめけば、背中を支えられた。振り向けば顎髭の阿伏兎さん。やる気のない目だが、怖さは感じられない。神威さん以外の男とこんなに近くまで接したことはなかったから、一瞬息が止まった。

「あ、ありがとうございま」
「よせ照れんなよォ、俺までむず痒くナアッ!」

ゴツゥ、とてつもない音を立てて阿伏兎さんの頭にカラーボールがめりこんだ。
投げられた先を見て、ヒッと声が漏れる。トランポリン内の上部で壁に付きながら、神威さんがものすごい笑顔で見下ろしていたからだ。や、殺られる。

動けずに固まっていれば、神威さんは上から着地し、宝条院さんに呼びかけてトランポリン内を出て行った。
こ、怖かった。殺気が充満したような胸騒ぎがしたよ。見つかったのか、カラーボール。

「痛ってェな……おいネーちゃん、俺らも出るぞォ」
「え、でもまだ」

阿伏兎さんは呆れたように笑いながら一つのカラーボールを手で揺らした。カツカツ、BB弾の音。それはさっき神威さんが投げてきたボールで。
く、悔しい、わざとではないにしろまた神威さんの手を借りたことになるとは。
ビュンビュンカラーボールが飛びかうトランポリン内を阿伏兎さんについていくように出て、そして第四関門に足を速めた。

言い知れぬ複雑な心境で体育館に急ぐ。着いた所は暗幕によって閉じられていた。

『四発目は恐怖心を調べまーす! 超怖いで有名なウチの特大お化け屋敷を抜け出してくださーい』

体育館全体に広がるお化け屋敷。演劇部や先生たちも協力してると噂の本格派だ。
ギャアアと既に先に行ったカップルの悲鳴が聞こえる。しばらく止まり、阿伏兎さんと共に中に入った。

もちろんのことだがお化け屋敷の中は真っ暗、おどろおどろしい冷気と音と悲鳴が渦巻く中、私たち二人は颯爽と歩く。お化け役が出てきてもノーリアクションで歩く。

「あのォ〜、普通ネーちゃんぐらいの女の子はお化け屋敷に怖がるもんじゃねぇのォ?」
「いやあ、ジャイ子たちに何回もお化け屋敷連れてかれて」
「……ああ、確かにあの子たちは平気そうね」

暗いけど通路に少しの明かりはある。慣れてるものの、驚きがないわけではない。けれどそんなことより神威さんのことでモヤモヤするのだ。
阿伏兎さんも阿伏兎さんでまったく怖がっていない様子。

うーん、阿伏兎さんか。

今までちゃんと話したことないけど、私よりも神威さんを知ってるんだよね。男だし同じ不良だし、ずっと一緒にいるし。
私はまだ神威さんとの付き合いが浅いからわからないけど。

「阿伏兎さんは、神威さんがこのイベント楽しんでると思いますか」
「あぁん? そりゃァ、つまんなそうにゃ見えなかったが」
「……」

神威さんが宝条院さんとカップルイベントに参加することになって、一番最初に感じたのは虚無感だった。
喪失感とも言うのかな、大事な友だちが友情よりも彼氏を優先した時のなんとも言えないアレ。おかしい、ジャイ子に彼氏ができた時は心から祝えたのに。
しかしイベントが過ぎていくうちに頭が冷えた。私はそれこそ神威さんの彼女じゃなくて友だち。神威さんが楽しいなら。

「それならいいですっ」

ふん、と鼻息が洩れる。斜め前を歩く阿伏兎さんから、呆れたような笑いが聞こえた。そして次には頬を引っ張られる痛み。

「よくねェだろーが」
「いてて」
「ダチが楽しんでても、テメェが楽しんでなきゃ意味ねェんじゃないのォ?」

むに、とつままれ放される。お化け屋敷の青白い光が阿伏兎さんのだるそうな目を照らした。
不良でも、こうやって言葉を交わせば意外と怖くない人も多いんだよね。気遣うような言葉に笑みが洩れる。

「私も今楽しいですよ、お化け屋敷だってわりと怖いし。阿伏兎さんいるし」
「だぁから、俺のタイプじゃないから口説いても無駄だってーの!」
「口説いてないです……」

話しながらもサッサと進めば、怖がってるカップル何組か抜かすことができた。そのまま勢いよく(阿伏兎さんはやる気なく) 行くと、また悲鳴が近くなる。チャンスだ、このまま抜かしてしまおう。

そして広い間に出る。手術室だった。
暴れるベッドの横でキャアキャア泣き叫んでいた人を見てぎょっとする。宝条院さんだった。しゃがみこんだ彼女は、同じくしゃがみこんでる神威さんに抱きついていて。

「キャアアまたお化け!」
「え、ああ、違うヨ。あれはさっきの俺の」
「もうイヤァァ」
「うーん、困ったな。阿伏兎、手伝って」

宝条院さんはクールビューティだがホラー系は苦手だったらしい。泣きながら神威さんにしがみついている彼女、そんな彼女を引き剥がそうとせずにこちらを向く神威さん。おっかしいな、また苛立ちが募ったんだけど。

「ば、番長楽しんでるみたいで良かったじゃん?」
「あーそうですね楽しそうでなによりです行きましょう阿伏兎さん」

阿伏兎さんの腕を引いてさっさと先を急ぐ。「透里」すれ違う時名前を呼ばれたが、睨みで返事して歩を進めた。




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