六日目「慌てなさすぎなサンタクロース」



「てええええええゐ!!」
「わあ、凄いねフェノちゃん。もうほぼ全部配ったんだ」
「そんなにゆっくり動いたら寒さで凍……ああ、そういやあんた影だったね」

只今12/25日、時刻は午前12時を回っております。
寒い。
なんでこんなに寒いんだろう冬の夜。
しかもこういう時に限ってまだ雪が降ってらっしゃる。素晴らしいよ最悪な意味で。
レムレス製ホットチョコレートが無かったら即凍死だよ、全く。

「さーて、次はクル……うげっ、クルークまだ起きてる!?」
「わははははー、もしバレちゃったらどうなるか分かってるよねー?」
「ううう……」

あと一つのプレゼントと次に行くべき場所、それからエコロを交互に見る。
後ろには影という名の鬼、勿論行かなければならないし行ったら行ったでバレる可能性が高い。
こういう時にとるべき行動は現実逃避かクルークを眠らせる(もうひとつの意味で)のどっちかだと思うのは私だけ?
なんで危険を冒してまでしてあいつのところにプレゼントを置かなきゃいけないのさ……
最後だからって別にラスボス配置しなくていいんだよ?

「さ、行ってきな」
「うーへー」

シグみたいな声をあげながら、仕方なくクルークの家の屋根に降り立つ。
煙突は一応あるけど下絶賛炎上中ってどういうことなの。
燃えろと?私に炎上しろとでも?

「エコロさん、ここのFireplace絶賛Blazingしてるんですけど」
「おお、フェノちゃん英語の発音バッチリだね。成績いいでしょ?」
「ごめんその食いつき方は想定外だった」
「……ちなみにFireplaceは暖炉、Blazingは『燃える』の現在形を意味しているよ!」
「誰に向かって言ってるのエコロ」

どうやらまじめに質問に答える気は無さそうだ。
どうしよう。本気でどうしよう。
火を消す?それとも氷の魔法で冷気を纏いながら降りる?
それともあえて特攻する?テレポート?別のところから侵入する?
最後の2つは完全な安全策だけどこの人が見ている、多分無理だ。
煙突から入らないとサンタじゃないとか言って怒られるんだろうなー……
そう考えると一番いいのは氷の魔法かな?ただ冷気の調節がちょっと難しいけど。
いっそのこと別の煙突作るとかそういう方法もあるよね?

「ねえフェノちゃん、早くいかないの?」
「待って、作戦考えてるから」

隣の影はわくわくした顔で私をじっと見つめてくる。
まさかとは思うけど突き落とすつもりじゃな……
あれ?なんでそんな形容しがたい棒持ってるの?
ちょっと待ってそんな満面の笑みでこっちに近付いてこられても困るんですけど!

「あの、ちょっ、エコロさん何をするつも「えーい!」うわあああああい!!」

……そのまさかだった。突き落とされた。殺す気か。
なんでこう悪い方向にだけアグレッシブなんだこの人は!
私は取り敢えず勢いで浮遊魔法と冷気を纏いギリギリで身を燃やさずに床に転がり落ちた。
体中が痛い。
主に顔。頭から突っ込むのは酷いって。

「ったー……」

とはいえ、一応侵入成功。
それができたからにはプレゼントは置かなければならないし、勿論奴に気付かれてもならない。
出来る気がしないけどね。
暖炉の部屋とクルークの居る部屋はそう遠くないようで、彼の悩む声が割と近くに聞こえた。
わはははは、透明になれる魔法なんて持ってないんだけど。

「……取り敢えず寝室を探すか」

こうなったらもうヤケだよ。どうなってもいいから寝室探そう。
それでプレゼント置いてさっさと帰ろう。そして寝よう。
朝は多分アミティにたたき起こされるんだろうけど別にいい。
なんかもう疲れた。精神的に。
取り敢えずその暖炉部屋を出、クルークが絶賛唸り中と思われる部屋の前を通り過ぎる。
階段を素早く上り二階、寝室と思われるその部屋は運良くドアが開けっぱなしだった為すぐに分かった。

「えーっと……どこに置くべきだろ」

正直クルークが起きてるのにプレゼントを寝室に置くというのはどうかと思うけれどこの際どうだっていい。
そろそろ一時になる頃だろうし早めに帰らないと……!

「そこで何をしているんだい」
「ひっ!?」



――その時、呼吸が止まる。
いつの間にかその部屋には電気が点き明るくなっており、私の姿は目視できるようになっている。
そして明るくなったということは。

「ク、クルーク……も、ももう寝に来たんだ。早いねー」
「……」

苦笑いする私を見、奴は黙って近付いてくる。
ちょっと待って何この気まずすぎるシチュエーション。逃げたい。凄く逃げたい。
後ずさろうともするけれど、後ろは彼のベッドだ。……残念ながら逃げ場は無い。
そもそもここが彼の家である以上逃げきれる自信自体無いんだけど。

「フェノ」
「へ?」

気の抜けた声をあげると、目の前にはクルークの顔。
……近い。そして怖い。
緑色をしたその瞳はただ私をじっと見つめる。表情は無表情のままだ。
冷や汗が背中を伝うのを感じる。まさかこいつを恐れる日が来るなんて。

「キミはサンタクロース代行、ということで間違いないね?」
「え?まあ一応……」

恐る恐る頷くと、奴はニヤリと嗤う。
そして私を一気にベッドに押し倒し、圧し掛かってきた。
……壁に頭ぶつけたんですけどそういう配慮はしてくれないんですか。

「あ、あの、クルークさん?」
「今回はキミが全て悪いんだよ?」
「え?何言って、」

別に私は何も悪い事してないよ。
言おうとしていた言葉は、無理やり押し込まれた。
……唇を塞がれたんだ。よりによってこいつに。
驚いたし抵抗はしたし浮遊魔法や水の魔法も使った。でも駄目だった。
慌てて集中力の散漫しまくっている私に対し、こいつの方がずっと冷静で集中している。
よって今の魔力は残念ながらこいつの方が上だ。そんなのに魔力を封じる魔法を掛けられたらどうしようもない。
用意周到な奴だ。
でもどうしてこうなった。
なんでこの結論に至った。
恋心なんて今後絶対抱かないであろう貴様が。

「……クルークさん、今ならあなたを呪える気がするんですけど」
「呪いたいなら自分を呪えばいいじゃないか」
「自分を呪う、って私何もしてな……」

クルークは睨みつける私に指差し、またにやりと笑う。

「サンタクロース代行はプレゼントを与えるべき人に見られたら……?」
「あ」

……ああ、なるほどね。
って納得するか!!
確かにエコロに言われたよ。
『見てしまった人はその代行に何をしてもいい』とかそれっぽい話を!
されたけどさ……なんでこうなる訳?

「……ふざけるのも大概にしな。あんまりやると」
「ふざけてなんかいないさ。このクルーク様がそんな無駄になる行為をするとでも?」
「今してましたよね、思いっきり」

駄目だ、何を言っても聞いてくれなさそうだ。
物凄く笑いを堪えているみたいだし。
もう、レムレスもクルークも何をするのさ。力尽きるよ私。もうほぼ尽きてるけど。

「さ、フェノ。寝るよ」
「そう?じゃあ私も帰るからせめてその窓開けてくれないかな」
「何言ってるんだい?キミはボクと一緒に寝るに決まってるだろ?」
「は?」

まさかそれも見つかった代償?もう嫌なんだけど。
確かにもうほかに配る人は居ないし眠いけどそれは流石に色々な意味で悪いし。
……言っても意味無いか。

「……分かった。じゃあ私は床で寝るから」
「何言ってるんだよ。キミもベッドで寝るんだ」
「いやベッドで添い寝したら絶対片方落ちるよね。柵無いし」
「魔法で柵を造れば問題ないだろ?」
「うぎぎ」

本当にふざけている。
その時の私にはそうとしか思えなかったし、今でもそう思っている。
でもそれは思い込みであり、本当は彼の好意であったことに後に気付かされた。
でもそれは、ちょっとだけ後の話。

……………
そしてAfterへ。
異常なほどに長ったるい。平常運航です。
やっぱり後半になると疲れて文が不安定になる癖が直らない。

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(7/8)
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