紅いカードの記す先へ



「……クルーク?」
「フッ、よくぞ来たな。待ち草臥れたぞ」

紅いカードに書かれた場所へ行くと、そこにはクルークが居た。
……正確には彼が持つ本の中の魔物、言うなれば『あやしいクルーク』。
なんでこの人が私を呼び出したのか。さっき抱きしめられたよね?

「なんでいきなり私を……」
「先程は奴が五月蝿くて聞けなかった事があったからな」

紅い瞳を揺らしながら微笑むあやクルの姿は、とても気品があり優雅に見えた。
それは私の瞳を見つめ返し、捉えて離さない。
彼は何も言わず、ローファーの足音を鳴らしこちらへ近付いてくる。

「昨日の深夜……正確には今日か。何故貴様はこの者と接吻を交わした」
「え?理由は、特に」
「答えろ」

落ち着いた紅い瞳が、すぐにシャープに変わる。
その低い声は耳元で囁かれ、心臓に強く響いた。
鼓動が高鳴る。
苦しくて、でもどこか気持ちよくて。
気を抜くと彼に心を奪われてしまいそうになる。そんな感覚。

「理由は分からない。ただ私があいつに見つかったら何をされてもいい、そういう約束だったから」
「……そうか」

紅い瞳が離れる。
同時に顔に集まりかけていた熱が引いていく。
信じてもらえたのか。
そう思い溜息を吐こうとした瞬間――

――キス。
クルークとは対称的な、強いのに優しい。

「あやク……」
「黙って従え」

ふわり。
彼のマントが私を包む。
もう一度交わした接吻はとても甘い、それなのに危険な、不思議な香りがした。
温かい。もっとこうしていたい。
思うがままに彼の背に腕を回す。
少しぐらい、私も攻めたっていいよね。

「……この者とはもう二度とするな。さもなくば」

あやクルはまた微笑み、左肩をそっと撫でる。

「印でも付けさせてもらおうか」




夜は終わらない。
紅の月が消えるまで。

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