「ねえ、ナマエ」
「ん?」
「キミっていつも本ばかり読んでいるね」
「あんただってそうじゃん。その赤い本ばかり」
「いや、そうだけど……」
図書館の隅、お互い一定の距離から近付くことも離れることもなく。
彼と私はただ本から目線を動かすこともなく淡々と話していた。
……パーソナルスペースを守りながら話していると、なんとなく近寄ってみたくなる。
一週間もこの調子で話し続けているんだ。そろそろ心を許したっていいじゃんないか。
そうは思ったものの、彼が私をどう思っているかは流石に分からない。
故にいつまで経ってもこのまま、ただ見えない境界線を越えずに話していた。
ああ、もう少し近寄れるようになりたい。
「……クルーク、いい加減飽きないの?その本」
「飽きるわけがないじゃないか。この本はとっても面白いしボクに力を与えてくれる」
「何その本。ちょっと貸してみな、燃やしてあげる」
「燃やされてたまるもんか。これはボクの本だ」
「冗談だって。あと正確には図書館の本ね」
なんとかして近寄るタイミングを探ってみるものの、どうしても普通の会話で終わってしまう。
室内だから寒くないし暗くないから怖くもないし、理由が皆無だ。
だけど、どうしてもこの距離感をなんとかしたい……!!
……はあ。
ため息を吐き、高ぶるだけ高ぶったこのよく分からない感情を落ち着ける。
まあ、いずれどうにかなるんだろうけど。
どうにかなるんだろうけどさあ……
なんか悲しくない?
「……やっぱり仕方ないのかな」
「何が仕方ないんだい?」
クルークはいつもと変わらぬ様子で私に問う。
やっぱり奴は本から目線を移さぬまま、いつも通りに話しているのか。
まあ、いいんだ。話せるだけ。そう思い込んでおこう。
「なんでもない。ちょっと悩んでただけ」
「キミが悩む?珍しいね」
「珍しいとは失礼な。……否定はしないけど」
その悩みの原因は今頃嫌味ったらしい笑みを浮かべているんだろう。
本から目線を移し、目の前に居るクルークの顔を見れば……あれ?
クルークが居ない?
「あ、あれ、クルーク?」
「うひゃひゃひゃひゃ!ナマエ、ボクはここだよ」
「へ!?」
背中に何かが触れる感覚。
私はそれに引き寄せられ、捕らわれる。どうやらそれは誰かの腕のようだった。
紫色の袖と大きめのブラウス。これに当てはまる奴はあいつしか居ない。
でも、それはつまり私がクルークに抱きしめられているということで……!!
「うわばばばばばばっ!!なっ、なななななにするのさクルーク!放して!放してよ!!」
「いいのかい?キミはこれを望んでたみたいだけど」
「だだだだだっ、誰がこんなこと望むもんですか!私はせめてもうちょいクルークと近付きた……あ」
背後のクルークの口元が歪んだ気がした。
乗せられたね、完全に。
顔が熱い。顔というかなんかもう体全体が熱い。それから鼓動がすごい加速してる。
ちょっと待って、ここまで近付きたいとは誰も言ってないよ?
「やっぱりキミは面白いね、ナマエ。いいよ、お望み通り今日からこのクルーク様とずっと一緒に居させてあげるよ」
「あのー、クルークさん確かに私はもう少し近付きたいとは言いましたがこれは近すぎやしませんでしょうか」
「ボクがしたいからいいんだ。それになんだかんだ言って喜んでるんじゃないのか?」
「……」
否定できない。
反論する術が無くなり、手に持っていた本を落とす。
クルークは小声でうひゃうひゃ笑いながらさらに抱きしめる力を強くした。
なんでこう極端なんだろ、この人。
もしかして計算?
「ナマエ」
「何さ」
「もう、ボクの居ないところで本なんて読むなよ」
「はいはい」
まあ、別にいいんだけどね。
確かに恥ずかしいけど嬉しいし。
私は満足そうに笑い続ける彼に向き直り、静かに抱きしめ返した。
すると笑う声が止まり、クルークの肌が熱くなる。
……お返しだよ。
やっぱり、彼に接近するならもう少し何か考えた方が良かったと後悔。
まあ、最終的にあっちから接近してくれたから別に良かったんだけどね。
……………
なかなかオチが付けられず後半グダグダしてしまいました。
でも書くのはすごく楽しかったです。
さあ、ということで次しょうりん任せた!
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title bkm?
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