届かぬ想いを


――レムレスは再び箒に跨り、灰色の空を何も言わずに飛び抜ける。館の中に居た間に天気が急変したのか、気付けば晴れ空は分厚い雲に覆われ挙句に土砂降りの雨が降り注いでいた。

「結構降ってるね……」

彼の深緑色の魔導服が雨に濡れていくが、それを気にしている暇は無い。サタンが言っていたことが本当なら彼女とその世界が消滅してしまうのも時間の問題だ。
呼吸を整え落ち着き、冷静にサタンの言っていたその世界への見えない道を逸れぬよう確実に進んでいく。
何も障害が無い筈の自由な空が、彼には進路が全て決められた迷路のように見えていた。
……いや、迷うことは無いからそもそも迷路でもないか。
どうでもいいことを考えて笑う余裕は正直あまり無い。しかし今は不安で押しつぶされそうな心をどうにかしたかった。
一応、精神的な余裕も物理的な余裕も失ってしまってはこの先が思いやられるのも確かである。

――如何なる時でも冷静に事を対処してこそ一流の魔導師だ。

先生の言葉が脳裏に蘇る。そういえばナマエも何があろうと常に平然を保っていた。

「……よし」

レムレスは深呼吸し想起されたその少女のように冷静に道を見極める。
そうだ、自分ばかりが不安になってはいけない。一番不安で寂しい思いをしているのはナマエなのだから。
落ち着き、改めて自分を取り巻く空気や環境を感じ取る。雨は先ほどと変わらないが、段々と風が出てきたようだ。

「大丈夫だよ、ナマエ。僕がキミを助けに行くからね」

自分を奮い立たせるため、自分のするべきことを呟き再確認する――

「セ・ン・パ・イ」
「っ!?」

その矢先。彼の背後で聞き慣れた声が突如響いた。
低いトーンで囁くような声、そしてこの気配といったら――

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