「……また、来たの」
「うん。やっぱりボクはこの世界が一番好きだからねー」
『彼』の目指す、彼女の世界。
誰も居ない筈の崩れかけた空間には先客――黒い影が存在していた。
その影は楽しそうにふわふわと飛びまわり、そして不意に深刻な顔になって言う。
「……壊れちゃうんだね、この世界も」
「ええ。残念ながら私はもう限界らしいわ。やっぱり身体に堪えるみたい」
「二千五百年も生きてるのに無理して自分の対応していない世界に行くからだよ。大人しくしていればよかったのに」
「いいじゃない。どうせあと数百年の命よ?どう使っても私の勝手。……正確にはあと数日、だけれど」
彼女はそう言って立ち上がり、少しずつ色あせていく自分の姿と世界を交互に見つめる。
――このままだともって明日、早ければ今日にでも消えてしまいそうね。
「……珍しいねー。いつもならやっと消えることができるとか嬉しがるはずなのに」
「そうね。いつもの私ならね」
「えー?」
彼女は寂しげに呟き、自嘲的な笑みを浮かべながら茶色く枯れた空を見上げる。
「……まさか私が、もっと生きたいと思うようになるとはね」
目を閉じる。想起されるのは彼と過ごした向日葵畑の日々。
――握りしめられた向日葵の雫が、哀しげに揺らめいた。
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