均衡を保つ程度の


「……だが、ただの友人とみている訳では無かったな。常に無表情で冷静を保っているはずのあいつがお前の話を始めると何故かよく笑う」
「確かに最初のナマエはずっと無表情でしたね。表情が豊かになったのはつい最近のことです」
「だろう?……さて、そろそろ話を戻すぞ」

サタンの微笑む目つきが、再び鋭いものに変わる。

「まずは奴の能力から教えるべきか。見ればわかると思うが一つは花を操る能力。だがそれ以外にももう一つ……主にこの世界にとって重要な役割、能力がある」
「重要な……」
「ああ。――裏と表の均衡を保つ能力」

裏と表の均衡?サタンの言葉を反芻する。
表はこの世界、裏は彼女の世界か。そう仮定すると確かにその意味が分からなくもない。

「でも……その能力と紅い向日葵に何の関係が?」
「あの向日葵のような花は本来裏、根の世界にのみ生えるべき植物だ。こちらの世界で何かある度裏の世界に瘴気が起きる。それを奴の能力で具現化、無毒化したものが――」
「あの紅い向日葵、と」
「そういうことだ」

サタンの話はまだ終わらない。
つまりナマエは裏の世界の主であり、この世界との均衡を保つため向日葵を咲かせていた。しかしある異変、エコロの襲来で外界が莫大なエネルギーを消費し荒れたことにより裏の世界の瘴気吸収が抑えられなくなった。
その結果、彼女は外界に出て瘴気を回収しては普通の向日葵に無理矢理変え、世界の裏表が崩れるのを避けたのである。
最も……普通の向日葵に変えたといっても、実際は紅い向日葵を幻覚によって黄色に見せていただけなのだが。
取り敢えずここまでは理解できた。だが話をさらに戻して現在に至らせると余計に理由が分からなくなる。
その紅い向日葵がこちらの世界にあってはいけない理由は分かった。それが何故彼女が消えることに繋がる?

「……で、サタンさん。正直今までの話と現在の話の繋がりが掴めないのですが」
「まだ分からないのか?」

はい、言った瞬間サタンはとうとう崩れ落ちた。
そして呆れたような顔をして笑う。

「その向日葵が外に出てくるということは、奴の世界が大変脆くなっていることを意味する。さらに奴は裏の世界の主、この世界に来ては裏の世界が暴走し崩壊する可能性がある。それはつまり……」
「……彼女もこの世界に居てはいけない存在?」
「やっと分かったか」

はい、やっと理解しました。レムレスは苦笑いを浮かべ、すぐに深刻な顔になる。


自分が愛したのは愛してはいけない存在。
この世界に来た理由はごく単純であり、夏にのみ現れるのは身体に負担が掛かる故。
そして本来ならこちらに来るのもやっとで、ろくに動くこともできない。どうりていつも体力が無かったはずだ。
けれど、それでも彼が来る度笑顔で出迎えてくれて、魔導の練習や出掛けに付き合ってくれたのは――。



「……ありがとうございます、サタンさん。どうやら僕はその裏の世界に行かなければならないようですね」

それは紛れもなく、好意。
ああ、どうして僕は今まで気付けなかったんだろう。レムレスは強く後悔する。
彼女も自分と同じ想いを抱いていた。そうだ、だからあんなに彼女は自分と一緒に居て、自分だけに笑顔を見せてくれていたんだ。
鈍い痛みが胸に走る。けれども不思議と辛くは無い。

「……正気か?奴は裏の世界の主だからまだこちらへ来ても一応生きていられただけであって、貴様が裏へ行って生きて帰ってこられる保証は無い。そもそも――」
「いいんです。僕には一つ、彼女に言い忘れたことがある」

最初より想いは強くなった。もう我慢はできない。
今すぐ彼女の元へ行きたい。そして伝えたい。
――愛してる。
自分もナマエも、互いに同じ感情を持っていることを。
後戻りはできない。こちらに二度と戻ってこられないかもしれない。
それでもいい。――彼女の世界が見たい。一緒に居たい。抱き締めたい。もう、彼は止まらなかった。

「止めても無駄のようだな。だがレムレス……お前がその気でも世界が耐えてくれるか分からない」
「……え?」

サタンは目を閉じ、レムレスに背を向けて言う。

「ナマエが長い間居なかったことで裏の世界は暴走し、既に崩れ始めている」




それは、ナマエが死に始めていることと同義だった。


………………………
なんかどこぞのポケモン映画みたいになってる
けど気にしない。別世界設定好きです

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(9/17)
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