向日葵の意味


「――レムレス。貴様はあいつの正体をしっているか」

サタンの手は離れ、扉が閉まる。
辺りには何も見えない。何かがそこにあるという気配も感覚も、何も掴めない。
ただ、魔王の足音が部屋に響くのみ。

「正体?……確かナマエは人外だと」
「ああ。確かに奴は妖怪だな」

サタンは何の躊躇いも無く云う。
やはり彼女は物の怪の類だったのか。あの強すぎる力からして予想はできていたことだが。

「……ナマエは昔、別の世界で生きていた」
「別の世界……プリンプやアルル達の居た世界以外の?」

サタンは頷く。どうやらまだレムレスにも知らない世界があるようだ。
確かに彼女の話は生粋のプリンプ(正確にはその隣町だが)の住人である彼には理解しがたい話が多かった。
妖怪という時点で大体の予想はついていたものの、まさか本当だったとは。

「奴はその世界を支配する程の強力な力を持っていた。……いや、当然か。奴はその世界を創った張本人なのだから」

サタンの話は続く。

「しかし奴はそこに動物を創造せずにただ花を咲かせ続けた。荒らす者の居ない花畑。それは大層美しかったそうだ。――が」
「……何かあったんですか?」
レムレスの問いに頷き、サタンは少し躊躇うようにして口を開く。
「私がカーバンクルちゃんとアルルを探しにここへ来ようとした時……誤って奴の空間を一緒に持ってきてしまったらしい」
「は、はい?」

……それは、レムレスの予想を裏切った答え。
まさか自分があの二人に会いたいがためにわざわざ空間を繋げてくるとは。彼は言葉を失い、天井を仰いだ。

「それ以来、奴はこのプリンプに住むようになった。あの空間は自分の所有物故にいつでもワープできると言っていたからきっと人の居る世界へ行きたかったのだろう。変わった者だな、ナマエは」

レムレスは黙ったまま静かに頷く。
……ところで、何故自分達はこんな話をしていたのだろうか。ふと疑問に思い話を辿る。

「……あの、なんでこんな話に」
「先ほど言った通り、奴の話だ」
「いや、そうですけど」

サタンは一瞬だけ目を見開き、「……そうだったな。重要なのはここからだ」と真剣な声でまた一つ呟いた。
最初からそこだけ教えてくれればよかったのだが、そうは行かなかったのだろうか。

「……冗談は程々にしよう。数ヶ月前、黒い影によって異変が起こされただろう?」
「え?……ああ、はい」

先ほどの話は冗談だったのか。それにしては随分とよく出来ていてふざけた冗談だ。
――レムレスはため息を吐き、脳裏の記憶を想起させる。
黒い影の異変。それはナマエと会う少し前にあったエコロと名乗るそれがサタンの体を乗っ取り、プリンプを破壊(?)しようとした大事件のことだ。ある意味それにより少し前にまた飛んできたりんごやまぐろ達も元の世界に帰ることができ、奴も無事去って行ったのだが……

「あの後、確かに黒い影の影響はプリンプから綺麗さっぱり無くなった。……が」

サタンは浅いため息を吐き、暗い空間に花の幻影を映し出す。それは揺らめき、やがて向日葵へと変化した。
でも、それは何かが違った。普通の向日葵よりも、とても紅い。レムレスは困惑する。紅の向日葵など見たこと無ければ聞いたことも無い。だが、その目の前にある幻影の向日葵は確かに紅色をしていた。
――何故だろう。一瞬だけ心臓が強く鳴った気がした。

「奴が向日葵を咲かせる意味、聞いたことは無いか」

向日葵を咲かせる意味。レムレスは脳裏に焼き付けられた彼女の声を思い出す。
……聞いたことが無い。聞く訳が無い。自分は彼女が好きでただそれを育てていると思い込んでいたからだ。
それに、違和感なんて――。

「……っ、」

そうだ。彼女が向日葵を咲かせているのを見て、何故自分は不思議だと思わなかった?あんなに黄色い、いかにも目立ちそうな花畑が広がっているのに何故か周りに知られない理由も、一人であんなに広い面積の花畑に一人で居ることも。
そして、もう一つ。これはたった今出てきた疑問だ。
見たことも聞いたこともない、この紅い向日葵に――


どうして、『見覚えがある』?

prev next


(7/17)
title bkm?
home





×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -