34ぷよ目「異変解決の賢者」


――フェノちゃん、フェノちゃん!
なに?……ってどこここ!?
――ここはボクが作った世界だよ。綺麗でしょ?
いや、確かにそうだけどさ……違う。何で私がここに連れてこられたの?
――わはははは!それはねー、フェノちゃんに力を貸してもらいに来たんだ
うわあ、嫌な予感がする。異変の肩代わりなんてお断りだよ
――えー?
そんな顔しないで。……じゃあ、せめて理由を教えて?ものによっては許可するから
――いいよ!それはねー……


「え?」
目を開く。
そこはいつもの研究所だった。
当たり前といえば当たり前だけど……
「……」
目覚めが最悪だ。
まさか夢を乗っ取られるなんて思いもしなかったよ。
しかも肝心なところで起こして……!
……はあ。
それにしても随分と大変なことになったみたいだね。
理由は聞けなかったけれど、多分タチの悪いものだろう。
あーあ、今回ばかりはもしかしたらシュシュを外して世界ごと抑えることになるかな?
そんなことしたら私も……
いや、いいや。
「……さて、出撃準備といきますか!」
傍らに置いた紫色のマントを羽織り、クルーク達の部屋へ急ぐ。
さあ、異変の最終章の始まりだ。


「……ほう、ついに我が妃になる覚悟を決めたか」
「馬鹿クル。魔導の威力を上げるのと身を守るためだよ」
仕度をしながらいつも通りの漫才も続ける。
ああなんて適当なんでしょう。もうちょっと危機感持とうよ。
今更な話なのかな、これも。
正直もうちょっと……いや、いいや。
「本気みたいだね、クルークもフェノも」
「うげ、レムレス……まあ、十界の主としてここを守り抜く義務がありますから」
「ボクはフェノを護る。ただそれだけです」
クルークはそう言って私の手を握る。
レムレスは珍しく私に抱きつくこともなく、ただクルークの瞳をじっと見つめていた(ように見えた)。
なんだかんだ言って成長したよね、こいつも。
あやクルも良い具合にクルークの壁になってくれたし、私に大切なことを教えてくれた。
覚悟はできている。
もう怖くないよ、二人とも。
「……さあ、行こうか」
「「「はい!」」」


――夢を、見る。
起きているはずなのに、不思議な夢を。
白昼夢、と言いたいけれど残念ながらそうではない。
異空間に連れてこられているんだ。
「やあ、フェノちゃん」
こいつによって。
「……エコロ。一体何をしようとしてるの?」
「皆にもーっと楽しくなってもらうための計画だよー!直前までフェノちゃんにも言えないなー」
「さっきと言ってること違う……」
「わははははー、ひーみーつー」
目の前の影は、楽しそうに、どこか悲しそうに笑う。
時の旅人であり、影である。
つまり実体を持たなければ完全な存在意義を持たない。
下手をすると自我さえも曖昧だ。
……だから、それは何かそこにいる意味を持とうとそれを探そうとする。
例えば、あやクルの存在する意味は誰かに認められること。
こいつにとってそれは人の笑顔、楽しさ。
「ねえ、エコロ。ひとつ聞いていい?」
「なーに?」
「……辛くない?そうやって無理に明るくしているの」
エコロは何も答えなかった。
笑顔のまま、何も。
その表情は、やはり悲しげだった。
――気付くと、その夢は段々と崩れ始める。
もう、終わりなのか。
「あれー、もうおしまい?」
「みたいだね」
単直にそう答えながら、「天井」を見上げる。
それはすでに崩れ、黒い空が浮いているだけだった。

「じゃあね、ちょっとおかしなお城で待ってるよ」

最後に聞こえたその声は、いつものエコロとは違った気がした。


「……アコール先生」
「残念ながらこの先へは行かせませんよ」
夢から醒め、クルーク達と走った先。
すぐ目の前には城、しかしその入り口にはアコール先生が立ちはだかっていた。
取り敢えずあやクルを本の中へ消し、すぐにその下へ。
理由は分かっている。
それでも。
「通して下さい。私にはこの異変を止める義務があります」
「今回の異変はあまりにも大きすぎます。フェノさんを行かせるわけにはいきません」
先生の顔は険しく、本気で行かせる気が無いらしい。
「行かせてください……ボクからもお願いします」
「……それでも通す訳にはいきません」
クルークと二人で頭を下げるも、やはり先生には通じない。
私の力は確かに強い。
先生はそれを分かっている。
でも、やっぱり生徒を危険な目に会わせるのには気がひけたのか。
勿論諦める気は無いけれど。
「私は十界の主、いざという時にも覚悟はできています。それに不死身故、どうせすぐ帰ってきますよ」
「それでも駄目です。力を利用されたらどうするんですか」
「なら、ボクがフェノを護ります。……お願いします、先生!」
あくまで折れる気はない。
私たちは、どうしても行かなければならないから。
力づくでも……この先へ行かなければ。
ただ、問題はその方法。
自分の実力を証明するか、それとも――
「先生、一線交えていただけませんか。手加減はいりません」
つぶやいたのは、クルークだった。
先生と勝負して勝ったことなど一度もなかったのに。
「ちょ、クルーク……」
「……本当にいいんですか?」
「はい。覚悟はできています」
彼の瞳はとても真っ直ぐで、真剣に先生を見つめていた。
本気だ。
ナルシストでもドSでもない、純粋なクルークの眼だ。
「フェノ、キミは後ろで見てな。このボクの活躍する姿を」
――刹那、容赦のない魔導バトルが始まる。
ぷよ勝負というより、完全に魔導バトルだ。
私とクルークが一度やりあった時と同じくらい、光と熱が飛び交う。
「我に力を!我に力を!ウィウィウィス・アトラヘンディ!!」
「パルティシオン!」
マントを羽織っているおかげでこの程度の魔導は結界で簡単に弾ける。
でも……
「……クルークさん、息がだいぶ上がっていますね」
「まだまだ……これからですよ!!」
正直、見ている方が辛い。
体力を消耗させ、力尽きていくクルークの姿を見るのが。
でも、彼は私に向けて「心配ない」と微笑んでくれる。
苦しい。
力を持つ故の苦しみ、ってこういうことだったんだ。
助けられる力は充分に持っている、でも助けることはできない。
こんなにもどかしい気持ちは初めてだ。
「……ぎゃほん!!」
そんなことを言っている場合じゃなかった。
彼はとうとう吹っ飛ばされ、大木に体を強くぶつけてしまって。
……やっぱり、先生には敵わないか。
「クルーク!」
「ごめんなさいね。やはりここを通す訳にはいきません」
ここは私が戦うべき……なのかな。
でも、クルークが体力を消耗しきったこの状態で私まで力を使うのは流石にまずい。ほぼ確実にこの城の中で全滅する。
じゃあ……どうすればいいのさ!?
肩で息をするクルークから目を覆い、なんとか作戦を練ろうとする。けど上手く練られない。
……もう、駄目なのかな。
諦めかけたその時――

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