33ぷよ目「先にやりたいことをやっておけ」


「へえ、最近の魔導師って大変なんだねー」
「レムレスもそんなに忙しいくせに、よく毎日研究所に来れるよ」
クロマージュを読み紅茶を飲みながら呟く。
平和な日々がそろそろ終わる。
だから、最後に何かしておこうかな、と。
たかが異変ごときで、確かに私もそう思った。
でも――胸騒ぎがするんだ。気を抜くと自分が消えてしまいそうな。
「さて、今日は何をしようかな……思い残すことが無い程度、って言っても特にやりたいことは無いんだけどね」
「それならボクと一緒に出掛けないかい?プリンプランドのチケット、ラフィーナから貰ったんだ」
「プリンプランド?……ああ」
クルークはそう言って桃色の紙を二枚取り出す。
プリンプランドとは最近できたいわゆるテーマパーク、遊園地のことだ。
なんでラフィーナがそんなもの持ってたんだろう。アミティと行くつもりだったとか?
「それはつまり、クルークとデートってこと?」
「べっ、別にいいだろ!?毎回毎回アミティやレムレス達が邪魔してくるけど、こういう所なら……」
「はいはい。いいよ、一緒に行こう?」
確かに否定はしない。
最近は特に色々あって二人っきりになれる場面がとんでもなく少ない。
その分、たまにはそういう所にも行きたいしね。
「それにしても珍しいね、クルークがそんなのに食いつくなんて」
「勘違いはするなよ。ボクはキミと一緒に居たいから……」
「もういいよ。それより、行くならいつ行くの?」
「いつ行く、って……」
クルークは天井を見上げ、少し考えた。
私もクルークと同じように考えてみる。
……異変的にも今日しかないよね。
「今日、だね」
「うん」
準備面倒なんだけど……まあ、いいか。
私はまだ眠るりんご達の横を通り、自分の寝室へ静かに走った。


「わー……」
「流石オープンしたて、凄いことになってるね」
研究所から飛んで20分のところに、それはあった。
やけにキラキラ輝いて見える、大きな大きなテーマパーク。
……凄い。それ以外に言葉が出ない。
「とんでもない場所に来ちゃったね……人も凄い多いよ」
「手を繋いでいれば問題ないだろ?」
「まあ、確かにそうだけど」
そんなにサラッと言われましても。
クルークはニヤリと笑って私の右手を掴み、そっと指を絡める。
所謂恋人繋ぎ。どこで知ったんだこんなの。
「これで離れたくても離れられない」
「言い方がなんかアレだけど取り敢えずありがとう」
まあ、ふらふらしやすい私ならこれぐらいされなきゃね。
一応気を付けてはいるけど、やっぱり興味を引かれると無意識に走り出す癖は直らない。
……あ、いい加減何か乗りたいもの決めようかな。
「ところでクルーク、こういうところだったら何に乗りたい?」
「え?そうだな……って知的なボクがこんなところで自ら遊びたい訳ないだろ!?」
「じゃあなんで私を連れてきたの?」
「それはキミと二人っきりになるためであって、ボクが遊びたいんじゃない!」
クルークは何故かムキになって言い、顔を赤くする。
だから魔導書持ってきてなかったんだ。
確かにあの本があったらあやクルが出てくるからね。
……でも、二人っきりにはなれなさそうだよ?
「じゃあさ、すっごく言いにくいんだけど」
「なんだよ」
私はクルークと反対側、ゲートの方を見て指をさす。
そこには、とっても見覚えのある赤とピンクと緑が居た。
アミティとラフィーナ、それから……レムレス。
「……え」
クルークは見事に石化し、何も喋らなくなる。
開園したてのテーマパークなんて、そりゃ少しぐらい人と被るよ。
でも、だからってなんであの三人?
「あ、おーい!フェノー!クルークー!」
「ひいっ、気付かれた!逃げるよクルーク!!」


クルークの手を離さないよう強く握り、パーク内を突っ走る。
例の彗星に捕まらないよう、久々に本まで使って。
それでも間に合いそうにないから浮いた。というか飛んだ。
今日は箒を持ってきてないみたいだしどうにかなると思ったからだ。
でも私は忘れていた。
……相方が実は高所恐怖症だということを。
ということで、
「私を置いていくとはいい度胸だな、クルーク」
「フェノ、いきなり逃げるなんて酷いよー」
「二人共、フェノから早く離れてください!」
「あやクルさーん、何勝手に覚醒させようとしてんの」
捕まりました。
そして安定の混沌。
この三人(特に緑と紅)と皆で仲良くテーマパークとかほぼ無理だって。
……やりたいことを今のうちに、の筈だったんだけどね。
うーん、こいつら鬼だ。
「残念だったね、クルーク」
「本当だよ。しかもわざわざその本を持ってこられるなんて……」
その本、あやクルの入った本のことだ。
今では私とそれが近付くだけで中の人が出てくる。
なんと恐ろしいことだろう。個人的な意味で。
「フッ、こいつは私のものだ。人の所有物に勝手に触れるな」
「何言ってるんだよ!?フェノを好きになっていいのはこのクルーク様だけだぞ!?」
「言い争っちゃってるね。じゃあ、今のうちに何か乗りにいこうか♪」
「ひいいいっ!助けてアミティ!ラフィーナ!というか色々とストップ!!」
涙目で元凶を見つめると、それは「あはは」と冷や汗をかいて苦笑した。
後で覚えてなよ……アミティ!
「三人とも、ここはテーマパークだよ。戦争するならせめて外でやりな!楽しむために来たんじゃないの!?」
「でも、クルークとそっちの魔物さんは少なくとも楽しむ気は無さそうだけど」
「あれは単なる馬鹿だからどうだっていいんです」
『馬鹿』という言葉に反応したのか、二人がほぼ同時にこちらへ振り返る。
あ、墓穴掘った?
「……貴様、今なんと言った」
「フェノ。いくらなんでもそれだけは聞き捨てならないな」
「うげ……ってか二人とも一応馬鹿といったら馬鹿でしょ!なんでTPOの一つや二つ守れないのさ!」
イラリ。
この二人をビッグクランチで消し去ってやろうとする衝動を抑えつけ、ギリギリで作った笑顔で彼らを見つめてやる。
……正確には睨んでる、が正しいか。
「クルーク、あやクル。これ以上私を怒らせない方がいいよ。……後で裏へ来い」
「「……」」

なんというか、私はちゃんとしたデートをすることができないのだろうか。
泣きたい。



……………………………
そして私はちゃんとした文が書けないのだろうか。
泣きたい。

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