32ぷよ目「誰がそこまでしろと」


「……え?」
「へ?」
「あれ?」
目が醒めると、姿が変だった。
見馴れた私の革靴、クルークみたいな黒いのズボン。
濃い紫のベストの裾にはフリル、胸もとには青のリボンと銀色の時計がつき、髪は茶色く染まる。
そして極めつけは、『彼』のマント。
……えーっと、こういう時って何て言えばいいのかな。
あ、そうだ。
「なんじゃこりゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


まず記憶を整理するよ。
@過去へブッ飛ばされあやクル(紫)に殺されかける
A喧嘩してなんか仲良くなる
Bあやクルの誕生日になる
C懐中時計を買って城に戻るとあやクルが消えかけてた
Dちょっと前まで号泣してた
Eなんかおかしい←今ここ
え、ちょ、ちょっと待って。これってどういうこと?
「フェノが……」
「あいつみたいに……」
なんで?どうして?どうしてこうなった?
私なんか悪いことしたっけ?
『気付いていないのか』
「うぎゃー!?」
よく分からない声を上げ、その場を数歩退く。
え!?え!?ちょっと待って!?
今あやクルの声が頭の中に直接響いてきたよ!?
「どうしたのフェノ!?」
「えーっと、なんというか……その……」
口をパクパクさせている間に、スッと意識が遠のくような不思議な感覚がする。
……あれ、これってもしかして。
「ついに……ついに我が本物の体を手に入れことができた!」
『いやそれ絶対違うからああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!』


暗転二度目。
とりあえずあやクルの解説によると、最後に受け取ったあの紫色の光が私と共鳴して謎の一体化を果たしたそうな。
器は一つだけれど、二つの魂を絶妙なバランスで支えているからなんとかなったそうです。
解説を受けても分からないってどういうことなの。
ちなみにパニック起こしてちょっと暴れたら元に戻りました。
……なんだろう、この疲労感。
「あー、ローズクウォーツがアメジストみたいってか完全にアメジストになってる」
「え!?こいつ、よくもボクのフェノを……」
「フッ、過去の私でさえ貴様に惚れるか。もうクルークなどに渡しはしない」
「それよりどうするの?これ」
三人共考えていることが見事にばらばらだね。
というか話聞いてる?
私も全然噛み合ってないけど。
「……よく考えたら声もかわってたし、普段はあやクルが操りそうで絶対嫌だ」
「あれ、気付いてなかったの?……うん、僕もフェノには元のままで居てもらいたいな」
「それはボクもです。フェノを独占するのはボクの特権ですからね」
レムレスも懲りないね……別にいいけど。諦めてるし慣れたし。
でも確かにあやクルに乗っ取られたらそれはそれで厄介だけどね。
そこは同感。
私も頷き、溜め息を吐く。
「それにしても力が溢れていたな……あれが貴様の力なのか?」
「制御するくらいだからそりゃ強いよ。頼むから暴走は止めてよね」
あやクルがこの力使ったらタトゥーンダの二の舞かもしくはプリンプ軽く支配しちゃうから。
……十界の主の力なんだから当然か。
ああ怖い。
「そんな事になれば、止められるのは貴様のみだな」
「一応そうなるけど、そんなことしたら最悪阿鼻叫喚に送るよ」
ただ器を共有してるから奪い取ればいい話。
というかそれ以前に乗っ取らせない。絶対。
「……ところでフェノ。後で話があるんだけど」
「クルークを持っていっていいのなら」
「そういう話じゃないよ」


「それで、話とは?」
「実はね……フェノが居ないうちに、あの影が動き始めたんだ」
「え?あの影、ってエコロのこと?」
「エコロ!?……それがあの影の名前?」
「まあ、うん」
レムレスは神妙な顔をして頷いた。
Wクルークを放置し、今の私達は鍵部屋に居る。
だからあいつらが反応する話も一応できるんだけど……エコロが動きだすってどういうこと?
あいつは記憶を失っていたはずなのに。
「経緯をなるべく詳しめに教えて貰えませんか。物語の流れがあった方が整理が効きます」
「分かった。じゃあ、最初にね……」
話を纏めると、どうやらアコール先生と話して以来、至る所で目撃情報があったらしい。
ここまでは私も知ってるし、何も問題は無かった。
ただ、その後だ。
エコロはそれからサタンの存在を知り、何らや企み始めたらしい。
何をするつもりなんだ……
それからアルル曰くサタンも挙動不審になり、間違いなく何かが起こっていると思われたらしい。
そりゃ、流石に気付くよ。
「なるほどね……でもエコロは人を楽しませ、自分も楽しむのが目的だと」
「うん、僕も無理矢理ぷよ勝負させられたからね。だからこそ嫌な予感がするんだ」
何回も何回も立て続けに異変が起こっているのに……
まだあるの?
いや、異変っていっても完全にレムレスやクルークに振り回されるだけなんだけど。
今回は大規模に振り回されそうだ。
「むう、そろそろ現状維持では辛くなってきましたね」
「うん。でもちゃんとメンバーは集めてあるでしょ?」
「一応ですけどね……」
メンバーとは結構前……クルークやフェーリとペア勝負した時からある程度選んでいた人達。
私の陣営からはクルーク、アミティ、ラフィーナ、シグ、そしてアコール先生。
レムレス陣営は……フェーリは確定でいいだろう。
それ以外は正直分からない。
「フェノもそろそろ覚悟しておきな。光の賢者としての威厳を忘れないように」
光の賢者。
そのワードに反応し、私は大きく退く。
「そっ、その言い方は止めてください!確かに私は代々そう呼ばれていますが50代目は呼ばれる資格がありません!」
その二つ名は十界の主として仏道を学び、その中でも特に強い力を持つ代に贈られた名。
仏学を学ばず魔導に逃げだした私が、それを名乗る資格なんて、無い。
「資格が無い、って何を言ってるの?『フェノ』は確かに『光の賢者』だよ?」
「だからそんな訳――」
レムレスは微笑みながら私の唇に人差し指をあて、塞ぐ。
そして彼は涼しい顔をしたまま、もう一度口を開いた。
「賢者、ってどういうことか知ってる?確かにその意味もあるんだけどね……『魔導を操る者』って意味もあるんだよ」
「へ……」
「キミは極めて強い魔力を持ち、魔導を使いこなしている。十分、立派な賢者様だよ」
レムレスのそう言った顔は、とても優しかった。
冗談ではない。この人は本当に私を賢者だと思ってくれている。
このまま否定し続けても多分彗星の魔導師の権力で認めざるを得ないざろう。
なにより、その称号を持たなければならないのが『私』だ。
……決まりだね。
「分かりました。……では、私は今から50代目光の賢者になります」
私が頷くと、彼は今の何倍もの甘い甘い微笑みを浮かべた。
「よくできました。じゃあ、賢者様がこれからしなければならないことは?」
「勿論……」
私の目指す先は一つ。
――異変から、この世界を守ることです


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