25ぷよ目「封じられた記憶」


あやクルから離れ、封印の書を読み進める。
彼も現代の本に興味津々のようだった。
……さっきから思うんだけど、これは歴史書なのに自分とよく似た少女の記述がやたら多い。

『紫色の大悪魔、醜い彼に友人ができた
十界の主と名乗り、実際にその力を持つ謎の娘
彼女は未来からやってきたそうで、それが魔物ではなく少年の姿に見える、と彼女は言った
それは一体何故なのか、私達には分からない
もしかしたら彼女は幻覚を見ているのかもしれない
彼女はこう言った
「彼に似た紅い少年が私の近くに居る、そいつと関わりがあるのかもしれない」と
この本に封じられたのは紅い魂のみ、もしかしたらそれはこの本の中身かもしれない
我々がこの魔物を封印したのは、はたして失敗だったのか
どちらにせよ、今では知る由もない』

という、一節。
そして極めつけは――
「……!?」
――『Her Name is Pheno.』の文字。
「どうした」
「いや、なんでもない」
見間違いかと思ったけれど、そうでもない。
私のスペルと完全に一致している。
どういうこと?
「あやクル、過去に私を見たことってある?封印される少し前」
「1000年は前の話だ、覚えていることなどあまり無い」
だよね。
物凄く釈然としないけど……
よく見ると、そこに予言ともとれる文章が記されている。

「She came from the future,It was his only fliend.」
『彼女は未来から訪れた、彼の唯一の友人だった』
「At the sight of his being sealed,she just wept」
『彼女だけは彼が封印される姿を見て、涙を流した』
「Now,I wonder if she has it.There is no reason for us to know you've sealed him...」
『今、彼女はどうしているのだろうか。彼を封印してしまった私達には知る由も無い……』

なんでこの項だけ英語なんだろ?
中途半端な知識を持ったものに読ませないため?
……私を庇ってくれたのか、それとも単に書きたかっただけのか。
あるいは、何かの魔術が組みこまれているか。
だとしたら勿論、ただの英文が魔力を持つ訳じゃない。
予想からして古代タトゥーンダの魔法文学によるもの――ああ、もっと勉強しておくべきだった!
「うう、クルークでも連れてくるべきだったかな……」
呟いた途端、あやクルが読んでいる本から顔を上げ、
「何故あいつを呼ぶ必用がある」
といきなり口を開いた。
いつもより低い声……うん、完全に怒ってるね。
「な、なんでもないよ。ただ適当に言ってみただけ」
「怪しいな。歴史について分からないことがあるなら私に聞け」
「だから本当に違うんだって」
冷や汗が首筋を伝る。
あやクルは私を一睨みし、ようやく読書に戻ってくれた。
クルークは見ての通りナルシストで性格もきついけれど、その分魔力や知識は郡を抜いている。
というかあいつのことだから解読くらいしてあるだろうね。
……あれ、待って。
だとしたらなんで私にこの項のことを教えてくれなかったんだろう?
あいつがこのくらいの文章を読めないはずがない。
だからこそ?
物凄く悩んでいた丁度その時、閉館のチャイムが鳴り出した。
「うげ、もう閉館!?」
「そのようだな。その本とここに置いた本は貸出手続をしておけ」
「え!?ちょっと待って今日袋もってきて「頼んだぞ」話聞け貴様!!」
後半声違いになりながら叫ぶも、彼は話を聞くことなく本の中に消えていった。
残されたのは、合計30冊の本と結界と、私。
「はあ……」
仕方なく結界を解き、30冊の本を魔法で持ち上げる。
あくまさんに怒られるんだろうな、絶対。


「ただいまー……」
疲れすぎた身体を引きずって、机にぺたりと倒れこむ。
大量の本をこんなに長時間持ち歩くのは流石に疲れるよ。
「フェノ、そんなに疲れてどうしたんだい?甘ぁいチョコレートでも食べる?」
レムレス、相変わらずですね……今だけは流石に食べたいです
口をパクパク動かしてみるも、声は出ない。
声を出すのも気だるいってこういうことなんだね。
レムレスはチョコレートを作りだし、喋れなくなった私の口に押しこんだ。
甘い。疲れは吹っ飛ぶけどあんまり食べると気持ち悪くなりそう。
「ありがとうございます……死にかけてました」
「だね。久々に僕のお菓子を食べてくれて嬉しいよ」
レムレスは甘く微笑み、さらにチョコマシュマロとあめ玉、クッキーにビスケットクレープソフトクリーム、といきなり大量のお菓子を召喚した。
甘ったるい匂いが部屋に広がり、頭がクラクラしてくる。
「さあ、召し上がれ♪」
「私を殺す気ですか」
これを全部食べろなんて言われても絶対大人数じゃないと無理だよ。
「遠慮しなくていいよ。疲れた時には甘いものが一番でしょ?」
「だからといってこれは流石に……」
引き攣った笑顔でレムレスを見つめるも、彼は私がこれを食べるのを物凄くワクワクしながら待っているようだった。
うん、助けを求めても無駄みたいだね。
完全に手詰り状態だったその時、研究所のドアが開く。
「ただいまー」
クルークの声だった。
ドアはまだ開いてるし多分レムレスの注意は少し引けたはず……!!
私はその半開きのドアに向かい、例の本を持って滑り込む。
「てええええい!!」
「あれ、フェノ!?」
逃亡。
後はどうにかなる、よね?
私は外へ出て、真っ先に遺跡へと突っ走った。


「――天絶結界」
チョコ作りの時に使った、五重の遮断結界を作る。
今日はあやクルが居る故、正式には四重だけどね。
「これでよし。出てきていいよ」
そう呟いて本を開けば、紅い魔物が姿を現す。
「やっと二人きりか。……あの魔導師、頭が可笑しいのではないか?」
「うん、今回ばかりは同意するよ」
でもレムレスはああ見えて実は凄い人だからね。
苦笑いしながら、再び予言の項を探す。
あやクルもそんな私を見て、持ってきたもう一冊の本を取り出して読み始めた。
……予言、ね。
過去のものはどれもこれも当たっている。
なら、未来の予言も勿論当たる筈。
現在の予言を確かめると、静かに次のページをめくる。
そして私が見た予言は――
「!!」
「どうした?」
衝撃のあまり、本を落とす。
どういう、こと?
「……っ」
信じたくない、そんな結末。
あやクルは私に駆け寄り、強く手を握った。
「恐いなら安心しろ、私が居る。……それとも、私が恐いのか?」
ゆっくりと首を横に振る。
読まなければよかった、残ったのはただの後悔と謎の罪悪感。
私があやクルに抱きつこうとした瞬間……
「フォレノワール!!」
レムレスの声が響き、結界が割れる。
彼は私に向かい、にこりと微笑む。
「フェノ、いきなり逃げるなんて酷いよ」
あやクルは私の手をより強く握り、一歩前へ出た。
その紅い瞳は、レムレスを鋭く睨んでいる。
「何をしに来た」
「そんなに怖い顔しないでよ。……キミを、封印しにきた」
「「!!」」
封印……?
正気なの?レムレス。
というか話が全然掴めないんだけど!どゆこと!
「何故、その必用がある」
「キミが、元々本のなかに居るべき存在だからだよ」
「そうだけど、なんで今更……」
レムレスは一瞬だけ悲しそうな顔をして呟く。
その瞳は、とても彼のものとは思えないほど冷たい。
「クルークがキミの封印を解いてからキミは身体を手に入れた。今でもそれは分裂したまま、ここにある。それはフェノの魔力に比例して、今では制御をしても外に出てこれるようになっている。このままでは危険なんだ。肉体を持つべきでないものがそれを持つのは……」
確かにそれには一理ある。
でも、あやクルは元々ただ本を読んでいるだけの魔物だったんだよ?
脅威なんて……
レムレスは私の心を読んだのか、首を横に振る。
「それに、このままではクルークに影響を」
「黙れ。それ以上何か喋るようなら殺すぞ」
あやクルが口を挟むと、彼は深く溜め息を吐いた。
そして、大きな杖を取り出す。
二人とも……戦わないでよ。
「フェノ、離れて。彼を本に閉じ込める」
「嫌です。あやクルを封印なんてさせません」
分かってる、今の私がレムレスに勝てないことも。
でも、護りたい。
私の大切な友人だから。
「私があやクルの檻になる。何が起きたって全て私の責任、そんなこと分かりきっています」
「フェノがそんなに責任をとる必用は無いよ。それに、彼は『居てはいけない存在』なんだから」
そんな筈ない。
じゃあ、なんであやクルはここに居るの?
どうして私を護ってくれるの?
居てはいけない存在なんて、無い。
私はあやクルの前に出て、化学と魔法で作った盾を作る。
「――あやクルは、私が護る!」
「フェノ……!?」
「……そっか」


――紅い闇を包む、輝く天の川。
彗星には、それは何に見えたのだろうか。
これも運命、フェノが見た予言の一つ。
『解き放たれた紅は、ただ静かに消えました
封印主の彗星と紅の主は喜びましたが、それと同時に大切なものも封印してしまったことに気付きました
しかし、二人にその封印を解く力はありません
残った彗星と紅の主は、ただそれを消してしまったことに絶望していました』


暗転。
強い光が溢れると共に、私の視界は闇へ。
封印、されたのかな。
「……」
暗い、というより黒。
魔法を使ってみるものの、そのエネルギーはすぐに昇華して消えてしまう。
「ブライト、ブライト、ブライト……ミミミミルヒシュトラーセ!!」
強化しても、残るのは微かな黄色い火花。
無から有は生み出せない、か。
「フェノ、無駄な足掻きはやめておけ」
「……あやクル?」
ふと、聞き覚えのある声がする。
大きさからしてそんなに遠くない。
あやクルの傍へ行きたい一心で、魔力の波を見つけ出す。
クルークとは違う、紅くて黒い波動。
居た!
「あやクル!」
ここが本の中、どこもかしこも真っ暗で方向感覚が狂ってしまいそう、というか狂ってる。
それでも走れるのは、ただ無意識に握り締めたクルークのネックレスが微かに引力を作ってくれているから。
あっちのラピスラズリは今頃どうなっているのか。
――そんなことを考えているうちに、大きな紅が横たわっているのがみえた。
「あやクル……大丈夫?私はここに居るよ」
「大丈夫な訳が無いだろう」
あやクルの声は、絶望しきったものだった。
途方もない時間の間ずっと一人でここに居たら……無理も無いよ。
あやクルは悲しげな瞳で私を見て、ゆっくりと立ち上がる。
「どうだ、これが私の世界だ。闇の前に光など存在できない、完全な世界」
「私にとっては最悪の世界だね」
シュシュを外せば強行突破はできる。
でもそんなことをしたらあやクルと本が消滅してしまうことになる。
そんなの、嫌だ。
あやクルはそんな私を考慮してか、頷きこう言った。
「……フェノ、お前は『過去』へ行け」
「え?」
あれ、これ考慮……してくれてるの?
なんで過去?
「ストップ、なんで私がそんな場所に?」
「書いてあっただろう、予言に。……心配するな、お前が私にしたことは全て記憶となる。それなら私も退屈せずに済むだろう」
えー、そういう理窟なの?
でも、ここでじっとしているよりはいい、のかな。
あやクルが物凄くやりた気だし。
「時間旅行は若干の危険がある。覚悟はいいな?」
「拒否権は無いんでしょ?いいよ」
彼は微笑み、こちらに向かい左手を広げる。
特殊な魔法だからか、それは昇華せず目の前で大きくなっていく。
「……行ってこい」
「OK」
私が頷いた瞬間、それは空間の捻れとして広がり――

………………………
次過去編ーと言いたいところですが飛びます。がっつり飛ばします。
いやなんというか某サイト様とくだりが若干被ってるんですなこれが
しかも一部は若干どころではなくモロである。悲しい

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