23ぷよ目「緑と青の交差」


「んー……」
朝。
日曜日の朝は何を考えることもなくぼんやり過ごすことができる。
私は珍しくそのゆったりとした朝を迎えていた。
……隣には、クルーク。
メガネを外したそいつは、優しい寝息をたてながら眠っていた。
いい加減、新しい布団買おうかな。
「ふあ……なんか可愛いなクルーク」
でも、たまに添い寝するのもいいんじゃないかな。
あったかいし、何より相手より早く起きればこいつで遊べるし。
「……フェノ、ボクさっきから起きてるんだけど」
「え!?」
ただ、問題はそれがバレた時。
クルークは目を覚ましていたようで、さっきの言動は聞かれてしまったらしい。
相変わらずこの朝の始まり方はどうかと思う。
たまにはいいんだけどね。
「さて、どうしてこのボクに可愛いなんて言えたのかな?」
「ひっ」


「謝るから許してよ……」
「嫌だね。この未来の大魔導師クルーク様にそんなことを言うなんてありえない」
「ねえ私十界の主というか今既に流星の魔導師なんだけど」
どうやら私の話は聞いてくれないらしい。
言い合いになると必ず折れるのは私なので、溜め息を吐くだけで我慢してやる。
こういう争いは嫌いだしね。
「それよりクルーク、今日は私とプリンプを適当に歩かない?暇だし、デート代りに」
「!?」
今度はクルークが驚きのあまり机に頭を強打する。
さっきからリアクション激しいね。
私の口からデートなんて言葉が出るとは思わなかったのかな?
「ってて……びっくりさせるなよ」
「私の方がビックリしたよ」
私のリアクションは薄かったけど。
……見えてなかったから関係ないか。
ただ、あのクルークが驚いてああなった場面を改めて想起すると、顔がにやけてしまう。
「クルークが、ね」
「そ、そんなに笑うなよ!」
無理な注文だね。
私がクルークの言葉を無視して笑っていると、段々彼の笑顔が黒くなってきた。
「……キミはそんなにボクに縛ってほしいのかい?」
「へ!?そんな訳無いよ!」
スイッチ入りました。
というか入れてしまいました。
今日は一体どんな罰が下るのか……
「ふん、今日はずっとボクの近くに居ることだね。もし10m以上離れたら……」
「ごめん、今日は最初からそうするつもり」
「え?」
思ったより軽い罰で、私はまた噴き出しそうになる。
人の話聞いてなかったのかな、クルーク。
「だって……さっき言ったじゃん。『デート代わりにプリンプを歩く』って。それなのに10mも離れるのは流石に無いよ」
「……」
私を困らせるつもりが逆に笑われてしまい、クルークの顔はみるみるうちに赤くなっていく。
たまにはこんな感じで弄るのも楽しいな。うん。
「……フェノ」
「ほ?」
顔を真っ赤にしたクルークは、ニヤリと妖しく笑い魔法を呟いた。
「ウィス・アトラヘンディ」
「え、あの、クル……わわっ!!」
クルークの本気魔法、意味は引力。
私はクルークに引き寄せられ、自動的に顔が近付く。
うん、ごめんて。
許してください。真面目に。
「……フェノ、後は分かるよね」
「わーい」
棒読みでそう呟いた直後、クルークと私の唇が重なる。
予測可能回避不可能ってこういうことだよね。
あやクルが近くに居なくて良かった。
もし居たらハイドレンジアどころじゃないよ。破壊魔法で最悪研究所が……
……なんでこんな冷静で居られるんだろう。慣れた訳ではないと思いたいんだけど。
「っは。分かった、私が悪かったよ。いい加減許して」
「ふん、これ以上ボクを怒らせたら……分かってるよね」
最近、こいつがあやクルに似てきた気がする。
命令してきたりとか、色々と。
「まさかこれがあれと同一とか……無いよね」
「何言ってるんだよいきなり」
……うん、そう信じたい。
信じたいんだけど今クルークの瞳の色が赤かった気がするんだよね。
気のせい?うん、気のせい。絶対気のせい。
だって今はあやクルがクルークの体に干渉している訳でもないし、肉体は分離されてるから侵食することも出来ない筈だし。
それに、それだけは絶対に嫌。
あやクルにあんな言葉言った上に戦ったんだよ?それと付き合うなんて無理、合わせる顔が無い。
何より、私はクルーク本人が好きなんだから。
それだけは許せない。許してたまるものか。
「フェノ?」
「なんでもない。ちょっと考え事っぽいものをしてただけ」
私は微笑み、もう一度クルークの瞳の色を確認する。
綺麗なエメラルドグリーンをしていた。
「さて、今日は何処まで行けるかなー」
まだクルークしか居ないリビングで、一つ大きな伸びをする。
まずは商店街にでも行ってみようかな。


「ヒャッホウ!!」
「イヤッフゥ!!」
「せーので!」
「華麗に!」
「「ペア・連鎖!!」」
もはや定番と化したこのやりとり。
クルークを放置して、私はアミティとはっちゃけまくっていた。
いや、正確にはクルークを待っている、かな?
さっきプリサイス博物館に本を返す→借りるの手続きをしに行ってしまい、それを待っているところだった。
「やっぱり楽しいね、皆でお出かけって!」
「クルークも私も研究所によく引き篭もってるからねー」
だってレムレスが離してくれないんですもの。
いつもの光景を思い浮かべ、私はクスリと笑う。
フェーリが乗り込んできたらどうなるんだろう。やっぱり戦場と化すのかな?
「アミティもたまにはうちに来なよ?彗星の魔導師さんが大量のお菓子を取り揃えて待ってるから」
「うん……って、レムレスまで居るの!?」
「テレポート魔法覚えてから毎日朝と昼休みと放課後に来るようになったよ」
アミティは苦笑いして「そりゃ、大変そうだね」と呟いた。
大変だよ。お蔭様で昼ごはんは自分だけお弁当(レムレス製)だし、授業が控えてるのに研究所へ連れて行かれそうになるし。
最近は外出のし過ぎで補習食らって昼にこっち来るのは週3回に減ったけど。
……それでも多いって。
「で、クルックー……じゃなかった、クルークはまだ来ないの?」
「クルックー!?ま、まだじゃない、かな」
クルックー。
クルークって言おうとして間違えてしまったものの結構いいかもしれない。
確か十界に居たね、クルックーって鳴く鳥。
鳩、だっけ?
「待たせたね……ってあれ、アミティが何でここに!?」
「あ、クルックー!早く行くよ!急いで!」
「クルックーって何だよ!」
失礼な、と言われる前に私はアミティと一緒に走り出す。
目的地はおしゃれコウベさんの店、色々なものが売っている雑貨店だ。
「さ、行こうか」
「うん!」
「ちょっ、待ってよ!!」


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