2ぷよ目「鎖」




「ん、朝……」
気持ちいい朝日が研究所を照らし、目が醒める。
そして一番最初に見たものは……
「ク……クククククルーク!?」
「え?……うわああああっ!?」
クルークの幸せそうな寝顔だった。
彼は慌てて膝をどかし、私も即座に起立する。
何だったのさ、今の状況。
「く、クルーク!何で!?私膝枕なんてしてたっけ!?」
「そっそれは机に突っ伏すよりはボクの膝で寝てもらう方があったかいし何より……とにかく、ボクに膝枕で寝させてもらったんだから感謝しなよ」
えー……
まあ、夢から察するに私を助けるためだったんだろうけど。
「うん。ありがとう、クルーク」
今日は本気で感謝するよ。
私がにっこりと微笑むと、クルークの頬が赤く染まり、
「なっ、やけに素直だな……」
と呟くのが聞こえた。
……実は優しいんだね、クルーク。
「フ、フン!それより学校の準備だ。今日はボクが朝食を作るからキミはそこで待っていなよ」
「あれ、本当に珍しいね」
何でこんなにデレてるんだこの子。
「その代わり、今日の放課後はボクと一緒に遺跡に行かせてもらうよ。強制連行だ」
……そうでもなかった。
「はいはい。まあ今日は空いてるから別にいいよ」
私はそう言って鞄に色々なものを詰めこむ。
ってあれ、何でここにグリモワールがあるんだ?
「私のグリモア……まさかクルークが読んだわけじゃないよね」
私はその本が私以外に開かれてないことを確認すると本を棚の奥に押しこむ。
すると桃色の液体の入った小瓶が落ちてきた。
「ん、惚れ薬まだ余ってたのか。この前結構作っちゃったし誰かに分けてあげようかな」
そう言った時、一瞬だけクルークの野菜を切っている音が止まった気がした。
何?もしかして誰か好きな人居るの?
「……へえ、クルークも人を好きになったりするんだ」
「そんなんじゃない!ただ、何かの研究に使おうと……」
「クルーク、それ最低な人がやることだよ。しかも動揺しすぎて嘘バレバレ」
「なっ……」
クルークの言葉が詰まる。
ああ、やっぱり。
「……ま、私が知る由も無いしこの先は聞かないでおくけど。後は行動パターンから分析すれば問題ないしね」
「……」
クルークは何も答えなかった。
いつもやられっぱなしだしたまには仕返ししてもいいよね?
そう思うとなんとなくスッキリしたような気分になった。
「ま、誰でも生き物である限りそういう感情は捨てられないしねー」
うん、一応は。
実際に愛情を受けずに育った人は曲がった人格を持ったりとか色々あるし。
「そうだね。ボクのような天才であっても実験のことだけを考えることは出来ない」
また、クルークの手が止まる。
そのままこちらへ歩いてきて……

……強く、抱き締められた。

「フェノ、キミのことが好きだから」
瞬間、私の鼓動が止まる。
クルークは傍に置かれた本の魂に見せ付けるようにして……ゆっくりと、優しいキスをした。
そして、腕を解く。
「ボクは本気だよ。あいつにフェノを譲る気はない」
そう言った彼の瞳は真剣で、とても嘘を吐いているようには見えない。
……あやクルが言ってたこと、本当だったんだ。
私は自然と微笑み、何も言わずにクルークを抱き締め返す。
そして
「……返事、少し遅くなるかもしれない」
と呟き、クルークをキッチンへ返した。


「ク、クルークに告白された!?」
「ウンジツハソウナンダヨネー」
私は何枚かの表彰状を持ちながら遠い目をして呟いた。
今は始業式が終わって放課後だから、こんな大きな声を出してもあまり問題無い。
……筈だったけれど、
「それは本当ですの!?」
「その話、詳しく聞かせて!」
うん、ノッてくる人が居るんだよなー。
アルルとかラフィーナとか。
因みにアルルは窓を魔法で開けて入ってきた。やめて。
「アー、ウン。ナンデフタリトモクルノカナーモウシャベリタクナイヨ」
「そんな事言わずにほらほら!告白の言葉は!?シチュエーションは!?」
「あの魂とクルークどっちが好きなの!?」
「三角関係ってどのような感じですの!?」
ちょっ、三人共落ち着いて。
「いやいや、そんないっぺんに質問されても困るから!」
「あ、そっか」
いやそっかじゃないよ。
しかも一番答え辛い質問入ってたし!
「第一、私達は元々仲悪かったのに何でこうなったのかっていうのはこっちが知りたいよ」
「あれ、そんなに仲悪かったっけ?」
「私にはクルークがあなたを明らかに好いているように見えましたけど?」
「えっ」
そ、そう……なの?
私は普通に嫌がらせ程度としか……
「もしかしてフェノ、全く気付いてなかったの?」
「あ……う、うん」
私は苦笑しながら頷いた。
ラフィーナはそれを聞いて脱力したのか、机にもたれ掛かって崩れ落ちた。
アミティも苦笑いしながらラフィーナを見ていた。
……アルルも、アミティと同じく。
「あれ、そんなに分かりやすかったの?」
私がそう言った途端、ラフィーナは急に立ち上がる。
「あんなの一目瞭然ですわ!貴方はどこまで鈍感になれば気が済むの!?」
「ラ、ラフィーナ少し落ち着いて……」
というか何で私怒られてるの?
「とにかく!貴方はもう少し物事に敏感になりなさい!」
「は、はい!」
何だろう、これ。
まあ、確かに私は半人前だけどさ。
……半人前だけどさ!
「で、今日はこれから暇なの?」
「へ?うん、多分……」
私がそう言った時、朝のあのワンシーンが脳裏をよぎった。
そういえば今日の放課後は何かすることがあったような……!!
「ごめんアミティ!今何時!?」
「え!?今は……1時だよ」
1時って……
「どうしよう、今日クルークに遺跡に行くからついてこいって言われたんだった!」
そう言った途端、ラフィーナの表情が変わった。
「あら、デートですの!?それなら私もついていきますわ!」
へ!?
「いや、ラフィーナそれは流石に……」
ラフィーナをアルルが止めようとするけれど……まずい、時間がない!
「もういいや、ついてきたい人は勝手についてきて!研究所に行くよ!」
「え、ちょっと!」
私は言うが早いか、ポケットに隠し持っていた身体能力を上げる薬を口に含む。
持久力だけは無いんだよね……私!
「待ってよフェノー!」
「え、アミティも行くの!?」
「私も行かせて頂きますわ!」
……ですよね。



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