22ぷよ目「立て続けに起きる異変」


――平和な日々もつかの間、相変わらず立て続けに異変が起こり続けている。
最近、再び各地で黒い影が目撃されるようになったらしい。
嫌な予感がする。
その予感は、最悪の意味で的中していた。
……が、それはもう少しだけ後の話。


「忘れてた……」
2/14(土)。
なんとも平凡な日めくりカレンダーに、はっきりとそう記されていた。
今日は、バレンタイン。
しかもよりによって、今日は年に一度十界への扉が完全に開かれる日だ。
「うげぇ……仕方ないなあ」
扉が開かれるということは、十界と他の世界との行き来が自由になる。
私のように空間を移動する術がない人でも、誰でも天界にいる人等に会うことができる日。
……しかし、それ故に性質の悪い侵入者がまれに十界に転がり落ちてくることがある。
また、その逆の場合も。
つまり、私は十界の主としてそれを事前に防がなければならない、と。
でもプリンプと十界を繋ぐ扉なんてどこにあったっけ?
この世界はまず平和だから侵入者には容赦できないけど。
……毎年毎年配属場所変えるの止めてくれないかな。
愚痴言っても仕方ないけど。
『あやクル、出てきてる?』
取り敢えず適当にテレパシーで名前を呼ぶ。
クルークを起こすと五月蝿いからこの人でいいよね。
『私の眠りを邪魔するとは……覚悟はできているな』
『図書館の使用許可出すから止めて』
よかった、居たみたいだ。
機嫌最悪だけど。
『今日は十界の用事で昼まで帰ってこないら、クルーク達に伝えておいて』
『十界の用事?……私にも行かせろ』
『死ぬ気かあやクル』
魔導に通じる者が十界に行っても害はない。
しかしあの世界では魔法など存在せず、物理的な力しか通用しない。
ゆえに、あやクルはともかくレムレスやクルークが行ったりしたら……。
正確には魔力は使えるものの威力が下がりすぎて見えないだけなんだけどね。
『とにかく、そういう訳だから』
『待て、私をまた本に閉じ込められたままにするのか!?』
仕方ないじゃん、離れざるを得ないんだから。
私はチョコレートに氷の魔法を掛け、例の遺跡へ走った。
……あそこにあればいいんだけどね、扉。


「疲れた……」
余ったトリュフを食べながら、深く溜め息を吐く。
レムレスとクルークとあやクルは家に居るだろうし、これで一応配り終わり……かな。
三時間+残業とふらふら歩き回ってる皆にチョコを配る。
かなりの重労働だよ、これ。
「むう、こういうことならもーちょい早く気付けばよかった……寝惚けていなければあんなザル警備にはならなかったのに!」
「何がザル警備だったの?」
「うわばっ!?」
いきなり誰かに声を掛けられ、思考が一瞬で完全停止する。
何、今の声?
恐る恐る振り返ると、そこには誰も居ない。
ちょっ、真面目に誰の声なのさ今の!!
「わははははー、こっちだよ、こっち」
「え?どこ?どこ!?」
声のする方向を見てみるけど、そこには必ず誰も居ない。
近くに居るのは確か。でも、見えない。
「どこだろーねー?わははははー!」
「笑ってないで姿を……あ!」
視界の端に黒い影を見つけ、私はそれを反射的に掴んだ。
そして、驚いた。
それは彼の影というより……彼『が』影だったからだ。
「あーあ、見つかっちゃった」
「見る方向を先読みしてその死角に隠れる……どうりて見つからないと思った」
まあ、古典的っちゃ古典的だけどね。
「楽しかった。ところでキミはなにしてたの?」
「やることが無くなったので家に帰ろうかな、と」
「食べる?」と取り敢えず余った自分用のトリュフを差し出す。
疲れたときには甘いものでリラックスするのが一番だよね。
「なに、それ」
「お菓子。甘くて美味しいよ……って、レムレスが言ってた。作ったのは私だけどね」
でも私は単純に甘いよりも、少し苦味が混ざっている方が好きだ。
だからココアパウダーはちょっと苦いかもしれないけどね。
「へー。ありがとう」
「あ、粉はちょっと苦いから気をつけてね」
言いながら矛盾してるな、と少し思う。
そしてレムレスの癖がそれなりに移っていることも。
別にいいんだけどさ。
彼は不思議そうにトリュフを見つめ、恐る恐る口に含んでいた。
そして、うれしそうに笑う。
「ほんとだ、結構美味しいや」
「でしょ?」
落ち着いたところで、私からも一つ質問をする。
勿論、彼についてのこと。
「ねえ、キミは誰?」
「え?ああ、ボクはエコロだよ。色々な世界を旅しているんだけど、まだ自分のことが完全に思い出せないんだ」
「まだ、って……もしかして記憶喪失?」
「そうかもねー」
そうかもねって、なんと適当な……
まあ、鬱になってなければいいんだけどさ。
「そういうキミは?」
「私はフェノ、別の世界の主だよ」
十界って言っても分からないよね。
私はそう言って軽く笑う。
「へえー。……ねえ、キミはぷよ勝負ってできる?」
「へ?」
話が飛びすぎてない?
いきなりぷよ勝負とは一体……
「うん、できるよ」
私がそう答えると、エコロはさっきのように笑った。
「じゃあ、一緒に遊ぼうよ!ボク、楽しいことが大好きなんだ」
「た、楽しいこと?」
正直もう疲れたから研究所に帰りたい。
夜の準備もしなくちゃいけないし。
……けど、目の前のこれは簡単には退いてくれなさそうだ。
「いいよ、やろう。その代わり手加減はあまりしないよ」
エコロは満面の笑みでくるりと一回転。
「わははははー!じゃあ、なにはともあれレッツ?」
「ぷよ勝負!!」


エコロは一勝負すると「また遊ぼうね」と言ってどこかへ行ってしまった。
なんとか全勝したけど強いよこいつ……!
で、気が付いたら夕方になったので私は急いで研究所へ。
「ただいまー!遅くなってごめんクルーク!」
「やっと帰ってきたのか!?全く、ボクにこんなに心配させるなんて……」
「ごめんって。……ちょっとぷよ勝負させられてね」
苦笑いしながら迷わず冷蔵庫へ歩く。
お腹が減った訳ではなく、チョコレートを渡すため。
「なっ、ボクをスルーするなんていい度胸だね」
「スルーなんてしてないよ」
チョコレートの箱は……よし、二人分あるね。
フォレノワールも無事そうだ。
冷蔵庫の中から青と赤のリボンの掛かった箱を取り出し、青い方をクルークに差し出す。
「はい。デートにでも拉致りたかったんだけど……ごめんね」
「えっ、あっ、ちょ、フェノ!?」
突然の出来事にクルークは動揺する。
私がカレンダーに目をやると、今日が何の日か理解したようで顔が真っ赤になった。
面白いね、クルーク。
頭が真っ白になったクルークを眺めていると、背後から声がした。
「私を忘れていないだろうな」
低く落ち着いた、威厳のある声。
あやクルだ。
「大丈夫、あやクルのもあるよ」
そう言って先ほど取った赤いリボンの方を差し出す。
クルークのに比べると若干小さい気もするが、気にしてはいけない。
若干特別な仕掛けをしてあるからね。
「さーて、そろそろレムレスも来るころだし、パーティーの準備でもするとしますか!クルーク、りんご達連れてきて」
「あ、うん!」
今夜はたのしい夜になりそうだね。
飛び入り参加も大歓迎だよ!


prev next


(26/36)
title bkm?
home





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -