光と闇に隠された


「……」

白と黒だけの世界。色を失ったそこにいた彼女もまた、例外ではない。
そこは、かつて楽園だった場所。少しずつ、だが確実に崩れていく、彼女だけの。

「大丈夫、もうすぐ終わる。……何もかも、何もかも」

願いにも暗示にも似たその悲しげな声は、何のために呟かれたものなのか。
世界は、ただ悲しいくらいに輝き続けるだけだった。



「グラッサージュ」

杖に光を集中させ、甘い香りを纏わせながら魔導弾を幾つも飛ばす。
邪魔なものをとにかく全て蹴散らしていく。目的地はサタンの城だった。

「ナマエ……」

彼女の形見、向日葵の雫のお返しに貰った向日葵をモチーフにしたペンダント。
彼女が遺したそれは、彼の手の中に強く握りしめられていた。
こうしないと落ち着かない。一週間もお預けを食らっていたので今日は久々にナマエと会える日だった。だが折角楽しみにしていたところで、その大事な彼女は何処にもいない。
このままでは僕は──彼は先ほどよりも飛ぶスピードを速めた。
どうしてだろう。どうしてナマエは突然僕を置いて。
疑ってしまう心を抑えながら、ただ只管に。
――数刻し、彼はようやく魔王の城へ辿り着く。
が、周囲にはいかにもな雰囲気を持たせるためか強い嵐。しかしそれはあくまで魔導によって作られたものだ。

「……甘いね」

彼は箒を仕舞い、代わりに取りだした杖をトン、と地面に付ける。
魔導力の押し合いの始まりだ。しかし彼の力はいつもより強く、それをあっけなく退ける。魔導は感情とほぼ比例して強くなったり弱くなったりする。今のレムレスはただ『彼女を護りたい』一心。見かけだけにとらわれた面白半分の魔法に勝てない筈など、全くもって無かった。

「ふう」

ため息を吐き、手元の杖を消す。
休んでいる暇など無い。はやくナマエに会わなければ。そして、思いっきり抱きしめてあげなければ。
彼はそう思いながら、静かに城の扉を開けた。

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