世界とは時に残酷な


――ナマエが消えた。レムレスはその言葉を何度も反芻する。
嫌だ、嘘だ、頭の中で色々な感情が交錯する。
理解したくない。もう聞きたくない。だが脳裏に焼き付かされたその言葉は何度も頭の中で繰り返される。
彼は、足元から崩れ落ちた。

「レムレス!?」
「……」

ナマエ、どうして君は僕を置いて。レムレスの顔から表情が失われたのを見てクルークも動揺する。常に微笑みをたたえる余裕たっぷりのレムレスがどうして──と。
無理もなかった。彼は少し前から彼女に告白をしようと作戦を練っていたのだ。
そう、ナマエに惚れていた。彼は彼女を好きになってしまっていた。……これは、その矢先の出来事だった。

「ナマエは、何処へ行ったの、ねえ、ナマエは……」
「れ、レムレス!落ち着いて下さい!」

レムレスは相変わらず虚ろな表情で呟く。
こんなに弱ったレムレスを見るのは、何年も彼の下で修業を積んでいたクルークにとって初めてのことだった。
あんなに強いレムレスがいとも簡単に壊れてしまうなんて──、そんなに彼女はレムレスに大きな影響を与えていたのか、とクルークは僅かな憐憫と嫉妬心を抱いた。

「……分かりませんけど、多分りんご達みたいにどこか別の世界に行ってしまったのでは?」
「そんなことはない、と思うな。だってナマエは確かにそこにいたんだ」
「でも、現に彼女は何の前触れもなく突然消滅したんですよ?やっぱり異世界に消えたとしか……」
「無いよ──あるはずがない」

レムレスは断固といった口調で、彼の考えを破り捨てる。
確かにそうかもしれない、一瞬でも思ってしまった自分がとても憎く感じた。
彼女の魔導の波はまだ僅かながらここに残っている。ともすれば、ナマエはまだこの世界に居るはずだ。このプリンプタウンの何処かに。彼は再び箒に跨り、浮かび上がる。

「ま、まさかレムレス」
「決まってるでしょ?僕はもう、ナマエ無しじゃ生きていけない」

……気をつけてくださいね、とクルークは悲しげな声で呟いた。
無意識に依存してしまったものは、もうどうしようもない。確かに依存からいい加減抜け出す必要はある。だが突然自分の前から消え去ってしまうのは流石に納得がいかない。
せめて、もう一度だけでも会いたい。そして、自分の全てを彼女に告げなければ。
彼女がもしこの世界に居ないとしても、それでも。
彼は、強く誓った。

「……クルーク。もしかしたら僕はずっと帰ってこないかもしれない。フェーリを頼んだよ」
「え――」

返答を聞く前に、彗星の勢いで一気に高度を上げる。
目指す場所は何処でもない。ただ、自分の感じる場所へ。


――待ってて、ナマエ。
僕は必ず君を見つけてあげるよ。
寂しがり屋の君のこと、僕が必ず守るから。
昼だというのに、一筋の蒼白い光が彗星のように輝いていた。


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