19ぷよ目「狂え、壊せ、何もかも」


あれから二週間。
研究所の中は、次第に二極化していった。
リデルとクルーク、そして私とレムレス。
それによりクルークと話す機会は段々無くなっていき、私も元気が皆無になった。
魔力が、枯渇している。
力が入らない。
でも、リデルと一緒に居る姿を見ると話し掛けられなくて、胸が痛くて。
お蔭様でちょっと前まではずっと泣いてたけど今では壊れたように笑うようにまでなった。
もうボロボロだよ。
胸が痛いよ。
苦しいよ。
助けて。
でも、この声はあいつには届かない。
もう、何をすればいいのか分からない。
「フェノ……本当に大丈夫?顔色悪いよ?」
「大丈夫だよ。私はそんなに弱くない」
嘘だ。
本当は弱いくせに。
クルークにさえ何も伝えられないくせに。
何を考えればいいのかさえわからないくせに。
アミティは心配そうな顔をしながら私の手を繋ぐ。
「フェノ、何かあったなら言って。私は親友なんだから!」
親友、か。
私はそんなものを作れるほどの人間じゃないよ。
元の世界でもずっと孤独だった私に、そんなものは無い。
甘えては、いけないんだ。
十界の主として。
――夜の公園。
ここはそんな気持ちを如実に表したかのように暗く、恐ろしいほど寂しい場所だった。
「……最近、変だよね」
「へ?」
「何をすればいいか分からなくなってきちゃったんだ。何もかも」
私は虚ろな微笑みで空を見上げる。
無数の星達が空で輝く夜は、ある意味私とクルークの時間。
星の魔法は、こういう時に力がぐんと増す。
「ねえ、アミティ。私と魔法の撃ち合いでもしてくれないかな」
ふと、アミティに問いかけてみる。
「い、いきなりなんで!?」
「ああ、でもそんなことしたら魔力の枯渇している今なら誰にも勝てないか」
でも、それでいい。
いや、それがいい。
力尽きて倒れたら、グリモアで回復すればいいだけだし。
「一回、力尽きたいんだ。それから自分の限界を悟る」
「でも――「協力、してくれるかな」……うん」
私の寂しげな声に押され、アミティはこくりと頷いた。
ありがとう。
「じゃあ、いくよ」
「うん」


暴風が周囲に吹き荒れ、それらが回転し巨大な渦を作る。
私はその中で星を鮮やかに撒き散らした。
「パーティクル!!」
光の粒子が空を舞い、サイクロワールに巻き込まれていく。
十界などでは見られない光景。
「やっぱり足りないね……」
いつもならこの100倍くらいの量だというのに。
クルークの影響って、ここまで来てるんだ。
「ブライト!ブライト!ミミミルヒシュトラーセ!!」
仕方なく強化した天の川の魔法を流し、そこでようやく暴風が収まる。
「ブラストビート!」
「サンシャインレイ!」
そこから、次から次へと魔法攻撃が続く。
反射神経勝負なら得意だよ!
……とはいえ、それなりに疲れてはいるけれど。
まぶしい光の魔法が無数に飛び散らされた後、私は溜め息を吐いた。
息がかなり上がっている。
「こ、これ結構苦しい……」
「うん……」
一旦攻撃を止め、少し会話をすることにする。
勿論アミティが出してきた話題は、私の体調についてだった。
この際、もう言ってもいいよね。
「クルーク、だよ」
「クルーク?」
アミティは頭に?マークを大量に浮かべているようだった。
「なんでクルークがフェノの体調を悪くするの?最近あんまり話してないみたいだし……」
「だからだよ。……なんでかクルークが恋しくて仕方ないんだ」
自分で言ってて恥ずかしいけれど、今なら素直に言える。
そして改めて思う。
『私はクルークが好きなんだ』と。
認めるしかないね、もう。
「クルーク、最近リデルと一緒に居るからね」
「そ。だからムシャクシャしてつい」
クルークは私の日常の三分の一以上を軽く占めている。
それがいきなり無くなるなんてことになったら。
……そりゃ、こうなるよ。
私は地面に座り込み、さっきより深く溜め息を吐いた。
思ってたより魔力消費しちゃってたみたいだね。……もう立てないや。
「ふあー、日常が崩されるって結構な苦痛だねー」
「フェノ、もしかして何かふっきれた?」
「うん、ブレイクダウン」
なんとなく気分は……軽くなった、かな。
私はグリモアをどこからともなく取り出し、ヒールの魔法を掛ける。
「……よし、それじゃあ帰ろうか。ありがとう、アミティ」
「うん!」


「とはいえ、テンションはやっぱり普通未満……か」
「おはよう、ちょっと回復したみたいだね。何かあったのかな?」
朝、リビング(もう諦めた)へ行くと、レムレスは爽やかな笑顔で私の定位置の隣の椅子に座っていた。
ちょっ、私の唯一と化した癒しの時間が……
「……りんご、なんでレムレスがここに居るの?というかナルシスト達は?」
「ああ、それならさっき二階へ。このアヤシイ人は先程瞬間移動か何かで……」
脱力。
あーもー、なんでこうなるのさ!?
りんごの隣に座り、ぺたりと机に突っ伏す。
そんな魔法があったらこの人絶対ここに居候するよ!
「はあ、いっそのこと十界に帰ってやろうかな」
「十界……それって私の世界みたいな?」
「みたいじゃなくてその中だね。どうせならりんご達も帰してあげるよ」
私はそう言って指を虚空に上げ、空間を適当に掴む。
十界とここを繋ぐのも、今では容易いことだしね。
渡る気ないけど。
「……はあ」
レムレスは私の隣に座り、パフェを作りだす。
どうやらそれが今日の朝ごはんらしい。
「朝から甘ったるいですねレムレス」
「フェノも食べる?美味しいよ♪」
「せめてデザートでお願いします」
私はそう言いながらゆらりと立ち上がり、キッチンへ向かう。
なんだろう、嫌な予感がする。

まあ、うん。
厄い!相当厄い!
こういう時に限ってフィーバーテスト、しかも相手がリデルとかどういうことなの。
絶対レムレスに呪われてると見て間違いないって。
「よ、宜しくお願いします……」
「さて、頑張るか!」
勿論クリアはするけどね。
積み方は階段にしようか挟み込みにしようか……
GTRでいいや!
「とはいえ、魔力は相変わらず枯渇してるか」
「?」
うまくできるかは不安だけれど、多分大丈夫だよね。
一つ深呼吸をして、少しでも集中力を高める。
「さ、行くよ!」
「はい!」


それからテストを無事クリアし、適当に授業を受けた。
相変わらずぷよ勝負については簡単だけど、魔導については興味深い授業が多いし。
そして今、私は図書館で宿題を軽く終わらせ、教室へ戻っているところだった。
今日も居るのかな、リデルとレムレス。
「暇だなー」
久々にクルークの実験にでも付き合いたいけど、レムレスが居たらね。
「は……むう」
溜め息を吐こうとして、止める。
これ以上幸運が減ったら絶対天界行きだよ。
……と、色々考えているうちに教室の前についた。
ドアを開けようとするも、中から聞こえる声で手が止まる。
リデルとクルークの声だ。
「クルークさん、最近フェノさんとあまり話してないようですけど……」
「え?……フェノならいいよ。あいつはレムレスと一緒に居るから」
どうやら、私の話題らしい。
ますます入りにくいじゃん、空気的に。
「……フェノさん、寂しそうでしたよ。アミさんも『フェノの魔力が枯渇してる』って」
「そんな筈ないよ。あいつはきっとレムレスのことが好きなんだ」
違う。
逆だよ、クルーク。
私はクルークが好きだよ。頭の中が一杯になって、魔力が枯渇してしまうくらい。
告白の返事はまだ出来てないけど、本当は――
「リデル、よかったら付き合ってくれないかな」
「へ?」
「……本当は、好きなんだ」
あれ、クルー……ク?
突然何を言いだすの?
「そんな、クルークさんはフェノさんが好きって言ってたじゃないですか!」
「でも、本気なものは本気だよ。……キミなら、付き合ってくれるよね」
嘘、だよね。
まさかクルークがリデルが好きだなんて。
そんなの信じたくない。夢なら醒めてほしい。
あんなに一緒に居た時間は?私の答えは?
あの言葉は嘘だったの?
私はなんでここに居るの?
息が苦しくなり、心拍数が跳ね上がる。

――バサッ。

何かが崩れ落ちる音。
同時に身体から全ての力が抜ける。
めまいがして、もう何が何だか分からない。
部屋の中からこちらへ向かう足音が聞こえてくる。
痛い。逃げたい。聞きたくない。
「クルー……ク……」
微かにそう呟いた直後、目の前が真っ暗になる。

そして、意識を失った。



・・・・・・・・・
あー、はい。
熱出しましたww←突然何を言い出す
これと次の章は体調最悪な中で書いたので質が残念なことになってます。申し訳ない!

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