18ぷよ目「傍にあるものほど」


今日の授業は半ドン、いわゆる四時間授業だった。
けれど、今日の授業は今のところ全然集中できてない。
……クルーク。
信じられないけれど、あいつのことしかほぼ考えられていない。
魔力も、いつもより確実に下がっていた。
「フェノ、さっきからどうしたの?」
「なんでもないよ、アミティ」
クルークに、会いたい。
無性にそんな衝動に駆られるも、今は授業中。
これが最後の授業だけど、帰りの魔力足りるのかな、これ。
「フェノ、本当に大丈夫?」
「大丈夫だって。この私が何かに悩んでるとでも?」
「うん、ものすごくそう見える」
「うっ」
私ってそんなに分かりやすい人だったっけ。
溜め息を吐き、「うん、実はあるんだよね」と呟いた。
勿論アミティは反応するけど、先生からチョークが飛んできたら嫌なので抑えておく。
……クルーク、今頃何してるのかな。
「フェノさん、この場合ぷよはどう伸ばせば連鎖できますか?」
「はい!?えっと……赤ぷよを一度消してから次の次に来る黄色を置きます!」
うわ、びっくりした。
授業、早く終わらないかな。
これさえ終わればすぐ帰っていいって話だったし。
「はあ……」
私はもう一度溜め息を吐き、ぼーっとしながら授業を聞いていた。


――空を駆ける。
一昨日とは違いクルーク不足で身体が重い。
でも、帰らないと奴には会えないからね。
「うー……なんか安定しないな」
「さっき言ってた悩みのせいじゃないかな?」
アミティはそう言いながら私とほぼ同じスピードで飛ぶ。
なんであのメガネが居ないからってこんなに魔力が抜けてるのさ。
ああ、悔しい。
「それにしても空って結構寒いんだね。手袋持ってきてよかった」
「うん、アミティも学習したんだ。……昔は凍傷になって大変だったな」
短時間の移動ならまだしも、一時間以上の飛行は流石に身体に堪える。
風の抵抗を受けない魔法があるならまだしも、何の対策も無しに3時間も飛び続けていれば。
ほぼ確実に……凍死する。
今ではそうでもないけど。
「さて、そろそろ研究所かな?お腹すいたなー」
「そうだね。お昼ご飯作ってくれてればいいけど」
私達はそう言いながら少しずつ高度を下げていく。
……一瞬、背後に微かな気配を感じた気がした
「まさか、居るわけじゃ……」
「え?」
いや、違う。居ない。居ないと思いたい。
魔力が低下している今でも気配の察知くらい元々出来るはずだし。
多分。
「なんでもない。それよりそろそろダイブ行くよ」
「え!?」
言うが早いかアミティの手を繋ぎ、一旦空中で静止する。
そして――
「ダアアアアアアアイブッ!!」
「わああああああっ!?」
赤ぷよ帽を抑え、重力に則って落下する。
ここからはもう早い早い。
猛スピードで空を滑空し――計算どおり、研究所の目の前に到着した。
そして、死にかけのアミティを横抱きにして扉を開く。
「ヒャッホーウ!!帰ってきたぜええええ!!」
「フェノ……テンション……高いね……」
どやあっ。
でも満面の笑みで開いたものの……
正面の部屋、誰も居ないんだよね。
「って誰も居ないんかい!」
寂しいので、一人で突っ込みをいれてみる。
余計寂しくなったけど、気にしてはいけない。
私はすぐに靴を脱いで奥の部屋へ入る。
「りんごー!クルークー!帰ってきたよー!」
――そこで、私の心臓が止まった。
なんで、リデルがここに居るの?
それから……クルークがなんでその隣に居るの?
「あるぇ、リデル?」
「フェ、フェノさん……」
「フェノ!帰ってきたんだ……」
私は適当な愛想笑いをして、その場をしのぐ。
クルーク、いきなりどうしたのさ?
私とアミティとフェーリ以外の女子には特に興味が無かったのに。
正直に言うと……


胸が、痛い。


それから、クルークは私にあまり関わらなくなった。
離れたくない。
そう思った時に限って、相手は離れていく。
いや、くっついてくる魔導師なら一人居るけど。
「フェノ、今日は何がいい?ケーキ?パフェ?」
「いらないです。甘いものは食べたくないので」
「どうして?甘いものを食べれば悩みも少しは軽くなるよ?」
「だからこそです。……少しぐらい、自分を戒めないと」
彗星の魔導師。
レムレスはあの時普通についてきていたらしく、今ではべったり。
でも力量は釣り合わないし私は常に上の空。
……いや、若干影響は受けているけど。
「フェノ、僕じゃだめかな?」
「何がですか」
「何、ってキミの恋人」
「はい!?」
驚きのあまり、フリーズしそうになる。
そんなにさらりと言うことなのかな、それ。
「どうしても嫌なんだ。フェノが誰かのものになるのが」
レムレスはそう言って私に微笑みかける。
瞳が見えることは、ない。
「私は誰のものでもないですよ。誰のものでも」
「今は、でしょ?僕は本気だよ」
こういう時って、誤魔化すか折れるか折るかのどれかしか無いんだよね。
ちょっと面倒だな……むう。
「大好きなんだ、フェノ。甘い甘いお菓子よりも、ずっと」
「うー……」
ああ、もう。
「……レムレス、これ以上私を壊して何がしたいんですか?」
「え?」


私はもう、完全にリデルとクルークについてのことしか考えられなくなっていた。
クルークが好きなこと、最初は否定していたけれど……
――案外、本当なのかもしれない。

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