15ぷよ目「勉強とは投げ捨てるもの」


「ばたんきゅー」
「ですよねー」
授業を一通り終わらせた後。
アミティは机に突っ伏し、いかにも疲れきった様子で居た。
「案外簡単だったけど、やっぱりアミティにはちょっと苦しかったかな」
「うん……」
アミティはかすれた声で言った。
「どうする?Bクラス行く?」
「ううん、授業はフェノと一緒に受けたい」
いや、ついていけない授業を聞くのは無意味だと思うけど……
いいのかな、それ。
私は机の中の荷物をまとめて鞄に入れながら思う。
この極めて魔力の強いクラスでも、レムレスの実力は明らかに群を抜いている。
そりゃクルークも憧れるしフェーリも好きになるよ。
とはいえ、やっぱりあやクルの本来の力よりは流石に弱いけど。
なかなか本気出してくれないし。
「さて」
鞄に全ての荷物を入れ、教室を見渡す。
殆どの人がすぐに寮へ行ってしまったこともあり、アミティ以外の人の姿は既に消えていた。
……そう、『人の姿』は。
「レムレス、一体いつまでそこに居るつもりですか」
「えっ!?」
「えっ?」
アミティとレムレスはそれぞれ別の意味で驚いた声を上げた。
そして、彼は姿を現す。
「流石フェノだね。バレちゃった」
「わわ、本当に居たんだ」
アミティは顔を上げ、もう一度驚く。
「まあね……あんなに一緒に居ればそりゃ気配くらい覚えます」
私はマシュマロを口に含むレムレスを見て小さく溜め息を吐いた。
「フェノ、どうしたの?」
「なんでもないよ……はあ」
まあ、どう見ても何かありそうだろうけど。
何気に教室の時計を見ると寮の門限まで10分をきっていた。
「あれ、そういえば寮の部屋割りはどのような感じで?」
「部屋割り?それなら二人一部屋で……確か僕の部屋と隣の部屋がそれぞれ空いてるよ」
レムレスはそう言って一瞬だけ私を見た。
隣の部屋か……ううん、どっちにしよう?
「レムレス、私とフェノで部屋を使うことはできないの?」
レムレスは少し考えて「多分無理かな。原則生徒の部屋に泊まることになってるから」と答えた。
アミティと私だったら一番気楽なんだけどね。
「……じゃ、フェノ。部屋へ行こう?」
「え、ちょっと待ってくださいまだ部屋割り決めてないですよ!?」
すると、アミティは苦笑しながらこう言った。
「わ、私は他の生徒さんの部屋に行くよ」
アミティ、それは私の状況をどう思って言ってるのかな?
レムレスと同室なんて嫌だよ?恐れ多過ぎて一番何もできないんだよ?
それでも私はレムレスとくっつけと?
……うう。
「アミティ、部屋交換し「さ、二人共。行くよ」人の話聞いてええええ!!」
私はレムレスにずるずると引きずられ、寮へ連行された。


「ただいま♪ここが僕の部屋だよ」
「お邪魔します……」
レムレスについていき、辿り着いたのはこれまた大きい校舎。
中の部屋は二人で生活するのに丁度良い広さだった。
私はテンション0のままレムレスの部屋に入り、そのまま立ち尽くす。
「どうしたの?フェノの部屋でもあるんだからゆっくりくつろいでもいいんだよ?」
「そ、そうですけど……」
正直、レムレスと狭い場所に二人きりはかなり緊張する。
今までは広い場所だし屋外だったりクルークが居たりしたけど、今回は誰も居ない。
しかも今回は今までと違い相手側の世界。
こんなところで流石にくつろぐ馬鹿ではない。というか恐れ多くてくつろげない。
レムレスはそんな私を見ていきなり小さなパフェを作り始めた。
甘いお菓子の匂いが、部屋一杯に広がっていく。
「フェノ、怖くないよ。傍においで」
そして、レムレスは私に優しく手招きする。
私は半ば押し切られるようにして、ゆっくりとレムレスのところへ歩いた。
足が、震える。
「ちょっと緊張しちゃったかな?……さ、パフェをどうぞ」
こくん、と頷き、差し出されたパフェを受け取る。
レムレスはそれを確認すると、貰ったものと同じパフェをもう一つ作って食べ始めた。
私もスプーンを受け取り頂上のソフトクリームを口に含む。
……レムレスのお菓子の味だった。
甘くて優しい、ふんわりした味。
思わず顔も綻んで笑顔になる。
「美味しい……」
「やっと笑ってくれたね」
レムレスはそう言って私の頭をそっと撫でた。
おかしいね、私ってこんなにまったりした性格だったっけ……
でも、たまにはいいかな。
私は「なんとなく、安心しました」と言ってまたパフェを食べ始めた。
魔法は掛かっていないのに、癒される感じがする。
パフェを食べてる最中に思うのも何だけど、和むや……
「……ごめんね」
「へ?」
レムレスはふと何かを呟き、食べかけのパフェを机に置く。
そして……いきなり私を強く抱き締めた。
クルークもレムレスも、私は抱き枕じゃないんだってば……ってはい!?
「れっ、レムレス!大丈夫ですか!?というかなんでいきなり!?」
「ダメ、だね。フェノが足りない」
どういう意味ですか!?
というかパフェまだ食べきってないしまったり気分ブチ壊しだし!
私はなんでこうも毎度毎度よく分からないことに巻き込まれるのさ!?
……ふう、落ち着いた。
「でも、なんでいきなりこうなるんですか……」
レムレスは戸惑う私に「フェノからも抱き締めてくれないかな」と囁く。
答えてくれる気配は無さそうだ。
私はレムレスの背中に手を回し、静かに抱き寄せる。
「こう、ですか?」
「うん。ありがとう」
レムレスは幸せそうな声で言った。
なんだろう、アミティ達以外とこうするのって初めてだな。
彗星の魔導師とは言えど、やっぱり私達と同じ。
優しい温かさがカーディガン越しに伝わる。
……なんだろう、この胸騒ぎ。なんだか苦しいや。
でも、凄く気持ちいい……
「レムレス、もう少しだけ……このままで居てくれますか」
レムレスは微かに笑い、
「いいよ」
と答えた。


「ありがとう、フェノ。これでやっとしっかり力が使えるよ」
「え、それなら早く言って下さい!力の増幅が目的でしたら直接渡しましたよ」
私がそう言うと、レムレスは首を横に振る。
「違うよ。確かにそれもあるけどね……」
「目を閉じて」と言われ、咄嗟に目を閉じる。
すると刹那、唇に何か柔らかいものが触れるのを感じた。
その感触が消えてから目を開けると、そこには勿論微笑むレムレスしか居ない。
「フェノ、キミが好きなんだ」

レムレス、あなたは私をどんだけ困らせれば気が済むんですか。

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