14ぷよ目「光の賢者」


朝、いつもは大体眠っている時間帯。
「ヒャッホゥ!!」
「ヒャッフゥ!」
「行くよ!せーので!華麗に?」
「素敵に?」
「「ペア連鎖!!」」
見れば分かる通り、私達はテンション最高潮で空を飛んでいた。
だって、テンション高くしないと眠気にやられるし。
「さーて、地図によるとあと3キロだね」
「ふええ、まだそんなに飛ばなきゃいけないの!?」
仕方ないじゃん、あの学校隣町のくせに異常なほど遠いんだもん。
そりゃクルークも外泊するしレムレスも道に迷うよ。
「むう、隣町は隣町でも遠いね」
「うん。予め良さげな交通機関を造っておくべきだった」
「え、つ、造るの!?」
「あれ、造らないの?」
確か空を飛ぶ車とか自転車とかなら簡単に造れる筈だよ。
問題は材料費とかが嵩むことかな。片付けにくいし。
「今更言っても遅いか。……さて、時間もないしそろそろ加速するよ!」
「え!?ちょっと、待ってよ!!」
身体的な持久力は皆無だけど、魔導力の持久力は無限に等しいからね。
私はアミティの手を引っ張り、一気にスピードを速めていった。


「到着!!」
「ばたんきゅー……」
あれ、アミティが死んでる。
私は目を回すアミティを抱き、ゆっくりと地面に降り立った。
やっぱりあのスピードはやりすぎだったかな?
「アミティ?アミティ?」
「うーん、くらくらー」
あ、駄目だこの子。
取り敢えず変え忘れた校章付きヘアゴムの羽を彗星に付け替え、アミティにもそれっぽい場所にワッペンとしてくっつけておく。
流石に赤ぷよ帽子の羽を付け替えるのは気が引けるからね。色々な意味で。
付け替え終わるころにはアミティも段々と元に戻り、なんとか立てるようになっていた。
「はあ……ビックリしたよフェノ!もうちょっとゆっくり飛んでくれないと本当に死んじゃうよ!?」
「ごめんって。でも流石に時間が無かったからさ」
私はそう言ってアミティの頭を撫で、校門の結界をつつく。
「あれ、入れないの?」
「いや?……ただセキュリティ万全だな、と」
校章さえ付けていれば一応問題ないってレムレスが言ってたはず。
私は少しだけ緊張しながらゆっくりと結界にめり込んでいく。
別にこのまま突っ込んでも問題ない気もするけど。
「よし、入れた!アミティもおいで」
「え、あ、うん!」
私が入りきったことを確認し、アミティも私と同じように静かに進入する。
これで問題なし、と。
「わあ、大きい学校だね……」
「そりゃ、エリート学校ですから」
言いながら、大きく伸びをする。
下手すると天界の総合学校と同じくらいなんじゃないかな、これ。
「そういえば、なんでフェノはそんなに頭もいいし魔力も強いのにこの学校に通わないの?」
ふと、アミティが私に問いかける。
理由は……あれ、なんでだっけ?
「ああ、そういえばなんでだろうね」
「え!?」
随分と曖昧な答えに、アミティは拍子抜けした。
正直理由なんてあったっけ?
「理由は覚えてないけど、やっぱり初めに会ったのがクルークだったし。何より楽しそうだったんだ」
「へえー……ってことは、もし初めに会ったのがレムレスだったら?」
「それは分かんないね。もしかしたらあの頃の私だったら最悪亡き者にしてたかもしれない」
私は苦笑しながら言う。
あの頃の私は人間不信だったからね。
一昨日の夢が脳裏で蘇り、なんとなく微笑ましい気分になる。
その時、何故かいきなり誰かに話しかけられた。
「あの、すみません!」
「ほ?」
振り返ると、同学年っぽいここの生徒さんだった。
……何でそんなに畏まった態度なんだろう?
その理由は、次の言葉で一瞬で理解した。
「あっ、あなたが光の賢者様ですか!?」
「はい!?」
ああ、成る程ね。
でもそれ、結構前に封印した筈なんだけど……
「な、何でその異名を知ってるんですか!?」
「レムレス様が『サイドテールの子は光の賢者様だから、心得ておくように』と」
レ、レムレス『様』?
そんなに慕われてる存在だったっけ、あの人。
「レムレスってそんなに凄い人だったんだ……」
アミティが驚いたように呟くと、彼女はいきなり物凄い形相になり
「レムレス様の名を気安く呼ばないで下さい!」
と叫んだ。
何かの教祖じゃないんだから。
「まあまあ……それより、私を光の賢者って呼ぶのは止めませんか?出来れば名前で呼んで頂いた方が嬉しいのですが」
「あ、はい!えっと……」
って名前は聞いてないんかい!!
「フェノ、でいいです。堅苦しいので様とかも無しで」
「それはできません」
「本当にお願いします」
というか今思ったんだけど何で私一人の生徒さんとだけ凄く話してるの?
アミティが空気になっちゃってるし。
それに、それよりもう少し大事なことが……
「……あ、教室とかの話レムレスから全然聞いてない」
「え」
瞬間、私達は凍りついた。
詳しいことは当日にって言っておきながら……
居ないじゃん、レムレス。
「レムレス探しだね、アミティ」
「うん」
棒読みで言いながら、途方に暮れたような感覚に陥る。
今ならシュシュ外して捜索魔法とか使えない?
そう思っているうちに、なんとなく甘い香りが漂ってきた気がした。
探す前に来てくれたみたいだね。
「前言撤回、かな」
予想通り甘い香りの正体はレムレスのようで、お菓子をばら撒きながらこちらへ向かってくるのが見えた。
なんだろう、物凄く逃げたい。
「あ、レムレス様!」
「アミティ、私逃げてもいい?途轍もなく逃亡したい」
「だめだよフェノ!」
うん、分かってる。
分かってるけど何か激突されそうな気がするんだ。
もしくは何らかの方法で倒され「フェノー!!」ぐぼあ!!
「「!?」」
うん、突っ込んできた。
私はレムレスに激突され、大きくバランスを崩す。
そして、転倒。
「ごめんね、ぶつかっちゃった」
「今随分と派手にやりましたよねレムレスさん」
レムレスは相変わらず微笑みながら私の上から退く。
私は私で立ち上がれないんですけど。
「あれ、フェノ?大丈夫?」
「他人事じゃないんですから。一時的に立てなくなっただけなので問題ないです」
アミティは形相を変えて「ええっ、大丈夫!?」と私を持ち上げて立たせた。
ごめんアミティ、それ墓穴掘ってる。
「いたたたたた、アミティさん無理矢理立たせないでまだ治癒魔法使ってない」
「あ、ごめん……」
レムレスはこの一部始終を見ると、何を思ったのかいきなり私を抱え上げた。
浮遊感と共にレムレスの顔が近付き、驚きのあまり硬直する。
「これなら、足に負担を掛けないよね?」
「い、いや、そうですけど今度は心臓に物凄い負担が……」
混乱する私に、レムレスは何も言わずに甘く微笑んだ。
なんでそんなに満足そうな顔してるんですか。
「……レムレス様、それよりもお二人に伝えなければならないことがありますよね?」
と、そこに先程の生徒さんがレムレスに突っ込む。
ナイスフォローです。
「ああ、そうだったね。確かクラスの話をしてなかったんだっけ」
「はい」
だって『詳しくは当日、何か質問があれば後日ね』って言われたのにその当日が翌日だよ。
聞けるものも聞けないって。
「えーと……この学校にはS、A、Bの三種類のクラスがあって、それぞれ別の授業を受けているんだ。それらは能力別に別れていて、Sが最高クラスだよ」
SとAとB、か。
能力別に分けられるのって結構嬉しいよね。
レムレスはそれからアミティを見て、少し心配そうな顔になる。
「フェノは間違いなくSクラスで確定なんだろうけど、アミティはどこに入りたい?」
「え、私!?」
ああ、そういえば。
アミティは困惑した顔で私を見た。
同じクラスなら私が教えるから問題無さそうなんだけど……
「アミティ、授業に私の解説を入れれば分からなくはないよね?」
「え?う、うん」
アミティはゆっくりと頷いた。
解説さえすればいいのなら、Sでもまあ問題無いよね!
「ということでレムレス、私とアミティはSクラスへ行きます!」
「え!?……そ、そっか」
レムレスは何故か残念そうな顔をしていた。
なんで?
「じゃ、僕もSクラスだから一緒に行こうか」
「あ、うん!」
レムレスは話題を転換し、左の校舎へ歩きだす。
アミティもそれについて歩いてきた。
……あれ、そういえば私、抱き上げられたままだよね?
「レムレス、そろそろ降ろしてください!もう治りましたから!」

レムレスはやっぱり何も言わず、ただ嬉しそうに微笑むだけだった。

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