13ぷよ「不吉の予兆」


「フェノ、フェノ?フェノ。フェノ!フェノ〜」
いや呼びすぎだろ。
あの空間が消えると同時に、私は現実に引き戻される。
この声……あれ、もしかしてレムレス!?
「こ・ん・に・ち・は♪」
「ひいいいいいい!一体いつどうしてここに入ってきたんですか!?」
目を開けてみれば、予想通りレムレスの顔が映る。……ドアップの。
そりゃ誰だって驚くよ……ああこわい
「そんなに驚くこと無いのに……今日はフェノのお見舞と、とっても素敵な話があるんだよ」
「へ?」
きょとんとする私に、レムレスはさり気なくお菓子の詰め合わせを渡す。
何でこういう時でもこの人は微笑んでいるんだか……
「あの、病人にお菓子ってどういう組み合わせですか」
「お菓子って意外と栄養があるんだよ。……ほら、カップケーキ食べさせてあげる」
「自分で食べれるからいいです」
レムレスの手を払い、詰め合わせの中からそれを取り出してみる。
触ってみると、出来立てのようでまだほんのりと温かかった。
「今日、学校で作ったんだ」
「調理実習、ですか」
学校……あれ、そういえば今何時?
ふと時計を見れば、時間は3時を回ろうとしているところだった。
うん、そりゃレムレスも帰ってくるか。
私はカップケーキを頬張りながらこくりと頷く。
「美味しい?……熱かったりしない?」
「大丈夫ですよ。味はレムレスが作った時点で完璧ですし、温度も良い具合に冷めてくれてます」
「それなら、よかった」
彼はそう言って甘い微笑みを見せる。
ああ、なんだろうこの和む空間は。
心なしか食べる度にだるさが消えていくような感覚がした。
……ふと、レムレスがついさっき言っていたことを思い出す。
「ところでレムレス。先程素敵な話があるって言ってましたけど……一体何の話なんですか?」
「あ、そうだったね」
レムレスは思い出したように頷き、一呼吸置いて答えた。
「なんと……フェノが、僕の学校に三日間だけ通えるようになりましたー!」
「え!?」
驚くあまり、一瞬カップケーキを落しそうになる。
え、あの、どういうこと?
「い、一体どういう風の吹き回しなんですか!?」
「あれ、知らないかな?年に一度のトレードスクールの話」
「トレードスクール?」
……ああ、あったねそんなやつ。
確かこっちの学校の成績優秀者とあっちの希望者が学校を交換するという。
でも、去年はクルークでさえ行けなかったのになんで私が?
「魔力は十二分強くて、ぷよ勝負は僕と互角に戦える。トレードスクールじゃなくて本当に来てもらいたいよ」
「いや、まだそこまでの実力は……ああ、そういえばこの前証明されましたっけ」
レムレスはこくりと頷く。
なるほど、それで選ばれたんだ。
レムレスもこれでも彗星の魔導師、それと互角ってとんでもないことだよね。
しかもそいつが下位の学校に通っているときた。
そりゃ勧誘されてもおかしくないよ。
「来てくれないかな?一人くらいなら誰か連れてきてもいいし、ね?」
「それならクル「但し、女の子じゃないと駄目だけどね」え……」
え、クルークは連れていけないと?
だったらアミティ以外の選択肢が……
いや、リデル達も居るか。
「……分かりました、明日の放課後までに考えておきます」


「というのが昨日あっ「えええええええええええ!?」最後まで言わせてよ」
うん、予想はしてた。
アミティとラフィーナが物凄く反応してる。
勿論クルークも。
「凄いよフェノ!トレードスクールに行けるなんて!」
「本当!私もよりトレーニングを重ねなければなりませんわね!」
あれ、そんなに凄いことなの?
苦笑しながらも一応相槌だけは打っておく。
「それで、今日は一緒に行く相方を探さなきゃいけないんだけどね……」
私の言葉に、背後のクルークが反応する。
何してるんだこいつ。
「へえ……ちなみにどのあたりにするつもり?」
「うーん、それならアミティにしようかな、と。……だって相方は女子限定って言われたし」
「ええええええええ!?」
後ろのメガネが意気消沈すると同時に、アミティが驚きのあまりか突然叫んだ。
耳痛い……
「あわばばばばば。……でもアミティは私と仲もいいし、いきなりとんでもない魔力を出したりするでしょ?そういうのを調整したりするのに丁度いいかなって」
「確かに、同意見ですわね」
ラフィーナも私の言葉に頷く。
というかアミティ以外の女子は流石に連れて行けない。色々な意味で
「ちなみにそれって一体いつ行くの?」
「え?ああ……分かんない。ただ、早くて来週くらいかな」
明日からっていう可能性は……無い。と思いたい。
確かに今日火曜日だけど。
「そっかー。じゃあそれまでに少しでもぷよ勝負できるように頑張ろうね!」
「うん!」


放課後、学校終了直後。
「……フェ、フェノ」
「ん?何さクルーク」
隣の席のクルークから、ふと呼び止められる。
朝からかなり元気無かったけど大丈夫なのかこの子。
「その……せ、せいぜい頑張ってきなよ」
「え?ああ、うん」
クルークは少し顔を赤らめ、寂しそうな顔をしていた気がした。
なんとなく話を続けたかったけれど、直後にアミティが私に向かって突っ込んでくる。
「フェノー!!一緒に帰ろう!!」
「ぐはっ」
お願い、いきなり突っ込んでくるのだけはやめて。冗談抜きで死ぬから。
「アミティ……私を殺す気か」
「ご、ごめん!」
アミティは苦笑しながら私から離れる。
結構痛いんだよ、これ。
そして、私達の状況を暫く見て驚いたように言う。
「あれ、もしかしてクルークと話し中だった?」
「気付かなかったの!?」
いやいや、物凄く分かりやすいシチュエーションだったと思うんだけど……
クルークの方に視線を戻すと、彼は既に教室のドアから廊下に出ていた。
そして最後に
「……ボクのことは気にしなくていいよ」
と哀しそうな顔で言ってドアを閉じた。

――なんでだろう。
   胸が、痛い。

「……フェノ?」
「い、いや、何でもない……よ」
私は無理やり笑顔を作り、アミティに微笑む。
初めて見た、クルークのあんな顔。
何であんな顔をするかはいまいち分からないけど、クルークを無性に抱きしめたくなった。
昨日の夢の中の私なら、どうしたかな。
「クルーク、追いかける?」
「……いいよ。帰ろう」
私は弱虫だ。
クルークを追いかけられなかった。
アミティは不安そうな顔をして頷き、私の手を繋いだ。


*クルークside
ボクは夢中で廊下を駆ける。
昨日のレムレスは、本気だった。
『ごめんね、クルーク。フェノは僕が貰うよ』
『え、なんでいきなり……』
『好きになっちゃったんだ。本当はクルークの手助けをするつもりだったんだけど……ね』
『そんな……でもボクも譲る気はないですよ。それにフェノとレムレスの繋がりは浅いじゃないですか』
『そう思うでしょ?……実はね、明後日から三日間フェノはこっちの学校に来るんだ。その時フェノは寮に宿泊する。後は分かるよね?』
『……!!』
明日からの三日間、フェノがどうされるかは分からない。
……もし、フェノがレムレスのところへ行ってしまったらどうしよう?
ボクはどうすればいい?
研究所に居ても空気が悪くなるだけだ、でも無性にフェノの傍に居たい。
それにレムレスとの交友関係も保ちたい。
でもボクにはどうすればいいか分からない。
『精神はまだまだ子供だね』って何回かフェノにも言われてたっけ。
こんなに秀才でも、こんなにフェノが大好きでも、どうしようもない。
……一体、ボクは何をすればいいんだろう。

廊下を駆け終わり、ピロティに入る。
ボクはそこでふと空を見上げた。
――空には、鴉が一羽だけ羽ばたいていた。

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