序章1「アミティとクルークと研究室」





「フェノ!早くおいでー!!」
「待ってよアミティ!私そんなに速く走れない!」
とある日の午後。
いつもどおり授業が終わったから私の研究所へ走っていた。
「わー、それにしても今日はぷよ勝負の申し込みが少ないから楽だねー」
「そうかな?わたしは楽しいけど」
アミティはそう言って微笑んだ。
私はもう暫くやりたくない……かな。
当分は。
「さて、そろそろだよね」
「そうだね。はあ、また居座ってるのかなあいつ」
私は苦笑しながらアミティのやけにニコニコした顔を見た。
最近あいつの話するとこの子決って笑顔になるんだけどどういうことなの。
「うん、いるんじゃないかな。クルークのことだし」
「ちょっ、その名前を私の前で言わないで!」
アミティは「てへ☆」とまた笑う。
もうやだこのアミティ。
「……あー、入る気無くした」
「ご、ごめんって」


「失礼しまーす!」
「ただいまー」
ま、結局は入るんだけどさ。
入り口から大体徒歩三十秒であいつの存在に気付く。
「あ、やあ。フェノとアミティ。僕の素敵な研究所に――」
が、華麗にスルー。
「え、あの、ちょっと!この僕をスルーするなんてどういうことだ!?」
「あんたなあ……ここは私の管理下だからね?」
私が呆れたように言うと、クルークはキリッとした顔で席から立ち上がった。
「なら、ぷよ勝負で勝った方のものにすればいいじゃないか」
「頼むからもう帰って」
アミティが空気になってるし。
取り敢えずそこに置いてあった魔道書を持ち、適当に魔法を探す。
「えーっと……あ、テクトニック!!」
「え、待ってまだ何も(ばたんきゅー」
テクトニックってこんな強かったっけ?
というかよく見たらクルークの魔道書じゃん、これ。
「う、うわあ……強いねフェノ」
「そうでもないけどねー」
大体本の力だろうよ。
「いてててて……フェノ、君はなんでそんなに強いんだよ」
「多分天性だよ」
「天性……?」
大体は。
というかクルークは何で実力が自分より上だと分かりきってる相手にも小ばかにした態度をとるんだろうか……
なんか気に入らない。何か私には特にくっついてくるし。
「フ、フン……そうだ!今度またやりたい実験があるんだ。それに付き合うなら許してやってもいいぞ!」
いや、個人的には出て行ってほしいんだけどな。
「ま、いいや。アミティ、実験室行くよ」
「え!?」
「あ、ねえ!待ってくれ!」


パスワードロックのかけられた、とある大きな部屋。
私はそこのロックを解除してその奥へ足を踏み込んだ。
「わあ……いつ見てもすごいね、フェノの実験室!」
そう、そこは大きな実験室だった。
……なんでこんな壮大っぽい感じで話してるんだろ、私。
「まあ私の実験には大体科学と魔法が必用だからね」
「へえー……」
私はそう言いながら魔薬を棚から取り出した。
そういや月の石と太陽のしおり、あと星のランタンで確かクルークの本の封印が解けるんだっけ?
どうでもいいけど。
「そういえば、最近よく月の石が無くなるんだよね。パスワードが漏れたとか?」
「え、月の石……は、知らないな」
だよね。
使い道あんまり無いし。
「ま、いいや。それより今回のテーマは魔法でぷよは作れるのか、だからね」
「魔法で!?できるのかなあ……」
理論上は出来る筈。……うん。理論上は。
「取り敢えず百聞は一見にしかずということで」
アミティと私は距離をとり、手に力を込める。
行くよ……
「「アクセル!/ブライト!」」
瞬間、息を合わせて飛翔する。
そして、地面に向かって――
「「アアクティーナ!!/ササンシャインレイ!!」」


「はあ、疲れた〜」
「お疲れ、アミティ」
実験を始めて大体五時間くらい。
結果、魔法の組み合わせによってはできるらしいです。
「ふわぁ、何だかすっごくねむいや……」
アミティはそう言って机に突っ伏した。
「此処で寝たら風邪引くよー」
「わかってるよ……ぐー」
あ、駄目だこの子。
完全に寝てる。
「確かにいきなりこんなことしたら流石のアミティでもきつい……よね」
実際私も眠いし。
「んー……」
ま、布団があればいいかな。
私はアミティを布団のある部屋まで引きずると、自分も倒れるように眠った。



……ん、これは起きたのかな?
の割りに景色が研究所と全然違うんだよね。
身体もあんまり動かないし。
そんな不思議な空間に、ローファーの足音が響く。
「やっとこちらへ来たのか」
「!?」
誰?
声は微かにクルークに似ているけど――!!

――現れたのは、クルーク。
いや、でも、何かが違う。
一言で表すなら、『紅い』。
「貴方は誰なの?」
「私?私はクルークだ」
彼は自分はクルークだと名乗る。
違う、何か違う。
一人称も言い方も。違いすぎる。
……もしかして。
「違うね。クルークはそんな言葉遣いはしないし、何よりその本から出ている魂が違う!」
そう、最悪この結論に辿り着く。
何でこうなったのかは分からないけれど、少なくともこの人はクルークじゃない!
「フッ……バレてしまっては仕方ないな」
『彼』は妖しく微笑むと、私にさらに近寄った。
「ああ、私はお前が思っているように……」
いつの間にか、私のすぐ近くに彼は居た。
「――私はあの本の魂だ」
そう言うが早いか、私はその魂の結界に完全に包まれた。
何?この状況。
取り敢えずこいつの名前は……
ええい、面倒だからあやしいクルーク、縮めてあやクルと仮定しておこう。
「どうやら私はお前に惚れてしまったようでな。試しに夢の中で会わせてもらった」
えっ……
一体どんな魔法を使ったのか。
「って違う違う!何でいきなり初対面の人に好かれなきゃいけないのさ!」
「初対面?……私は本の中からお前を見ていたしお前も見えていた筈だが」
いや魂の状態でしか見たことないから何とも。
「……というか魂の状態でも一応周りは見えるんだ」
「ああ、それにこの者もお前を好いていたからな」
どうりて最近クルークと話す時変な視線を感じると思った。
というかさり気なく変なこと言ったような。
「でも、悪いけどクルークになんか興味無い。例えそれが別のものに変わってもそれは変わらないよ」
「……そう、か」
私があやクルを振り切ると、彼は妖しく微笑む。
そして――

――私を、強く抱き締めた。
「……ッ!」
苦しくて、でも、気持ち良くて。
温かいクルークの体温が伝わってくるのを感じた。
「ちょ、いきなり何を!」
「お前を抱き締めているだけだが」
いや、それは分かっているけれど……
このままクルークの中に融けてしまいそうで、少しだけ怖くなる。
それを悟ったのか、あやクルはそのまま私の顔を胸に埋めた。
――鼓動が、早い。
「早い、か?これが私の本心だ」
「……」
つられて私の鼓動も早くなっていく。
顔は真っ赤なのかな?
何というか、心の底からポカポカする感じ……
「――お前の心は、必ず私が頂く」
この言葉を最後に、私は何故か意識を失った。




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