11ぷよ目「受け入れるも、運命(さだめ)」


「ひいいいいいいい……」
暗くなってきた夜空の下に佇む、アルカ遺跡。
正直色々と怖いんだけど……
「れ、レムレスも引っ張ってくればよかったな」
声は一応出るけど、かなり震えすぎている。
うう、今回はかなり怖いや!
「く、クルーク……何処なのさー」
私はレムレスから貰ったグミを一つ口に含む。
温かい気持ちになって、すこし不安が和らいだ。
まあ、少しだけだけれど。
「……ひっ」
夜の遺跡って何その肝試しスポット。
というかこれでいきなり声が聞こえなんてしたら悲鳴あげるよ!?
……うん、早く見つけよう!
私は少しずつスピードを上げ、競歩で中を歩く。
あいつのことだから絶対地下室だよ……!
「本当に今日じゃなくてもいい気がしてきたんだけど……あ」
そういえば暗闇が怖いなら魔法使えばいいんじゃん。
「えーっと……サンシャインレイ!!」
唱えた瞬間、まぶしい太陽の光が辺りを照らす。
これを少しずつ調整して……これで問題無いね。
後はあいつの近くへ行けば魔法が勝手に消えるかあっちが話しかけてくれるだろうし。
私は少しほっとして先を急ぐ。
どうせ地下室に居るんだろうけど……
このシチュエーション、思い当たるところが幾つかあるんだよねー。
もう嫌だよ、あれ。
可能性凄く高いけど。
「むう……あ」
そうこうしている間に地下室へ続く階段が目の前に現れた。
勿論、そこには結界が張られている。
最近地味に学校でも結界魔法使ってるしクルークの結界ならいいんだけど……
私は悪寒を走らせながら地下へ歩いた。


「まだか……あいつはまだ来ないのか!?」
『お前……いい加減ボクの身体を返してよ!』
ああ、うん。
ですよねー。
何か今回クルークが凄く喋れるようになってるけど……
あやクル。
彼の姿は紅く変化していた。
「……身体を返す訳にはいかんな。私はあの者を我がものにする必用がある」
『そんなのフェノがなる訳ないさ!このボクでさえフェノを振り向かせられないんだから!』
「それはお前だからこそ、ではないのか?」
『ちが……』
うわあ、これ一体どのタイミングで入ればいいんだろう。
無言タイム?今?
いいや、飛び込んでしまえ!
「そこまでだよ、あやクル」
「なぬ!?」
私は部屋に飛び込み、部屋の封印魔法を急いで解く。
助けにきた、って言ってもいいのかな?
「やっぱりね。薬を作っても図書館には居ないわ置手紙に居場所は書いてないわで苦労したんだよ?こんなに心配させて……覚悟は出来てるんだろうね、クルーク」
私は本の中の魂に向かい、微笑みながら言う。
やっぱり、あやクルは蚊帳の外だった。
『フェノ……』
「ここまで心配してくれる人が居ることを幸運に思いなよ。レムレスもフェーリもアミティも見向きもしない、このままだったらどうするつもりだったんだか」
まあ、私も正直置手紙さえ無ければ助けに来なかったんだけどね。
私があやクルに向き直ると、彼は恨めしそうにその本の魂を見つめていた。
「やはりお前はこの者にしか興味が無い、か。……何故、私を見ようとしない?」
「単純な話だよ。私はいつも通りっていうのが大好きなの」
私は本にゆっくりと近付きながら言う。
「確かに、たまには異変があっても楽しいと思うよ。でも眠い眠い言いながら朝食を作って、何かあったらぷよ勝負で決着をつけて、学校で勉強をして、帰りには電車でアミティと話して」
話すたび、その一つ一つのシーンが脳裏に過ぎる。
「で、休みの日にはクルークに邪魔されながら実験をして、たまに花畑に寝転ぶ。確かに退屈かもしれないけど、私はそれが大好きだから」
そして本の前で止まり、あやクルに向かい笑った。
「そしてその日常にはクルークの存在が欠かせないんだ」
あやクルは益々悔しそうな顔をして本を睨んだ。
クルークは怯え、滝汗を流している。
『フェノ、凄い怒らせてない?』
「うん、怒らせてるね」
あやクルは手を伸ばせば届く距離で、いつもより興奮した様子で問う。
「お前は……お前は私が嫌いか」
答えは勿論、真逆の話。
「嫌いじゃないよ。私はレムレスもフェーリも、勿論あやクルも嫌いな筈がない。だけどクルークは一番傍に居る存在だから」
今の話は確かにあやクルの存在をかき消していた。
でも、あやクルも確かに私の『日常』の一つ。
だからといって立ち位置を交換したり、クルークの存在を消す訳には、いかない。
「おのれ……」
「さて、これでもまだ文句ある?……一戦交えてもいい、クルークを返してもらうよ!」
私はあやクルと互角になるよう、グリモワールを取り出す。
今回は本気だよ……魔法も遠慮なく使う!
「どうやら本気のようだな」
「うん。問答無用でぷよ勝負だ!!」

――スーパーノヴァ!!

――ハイドレンジ……小癪な真似を!?

――ふはははは、私に本を持たせるとこうなるんだよ……まだまだ行くぜ!!

――ぐぬぬ……!!

正直、この勝負の最中の記憶は全然なかった。
本を使ってテンション上がってたからかな?
ま、勝てたからいいんだけどさ。
というかあやクルが実は手抜きだった疑惑。

「さて、約束どおりクルークを返してもらおうか」
『わあ、本当に勝った……』
「ぐぬぬ……」
そして、我に帰った今。
本を消し、あやクルに向かって封印魔法を掛ける。
そういえばこういう戻し方もあったね。うん。
「次こそは……覚悟していろ」
その言葉と共に、本とあやクルが煙に包まれた。
これで一件落着……かな
「……フ、フン。ボクを助けに来るなんて、君は本当に物好きだね。ボクならあんなのに完全に乗っ取られる前に戻ったのに」
「あんな状況になっててよくそんな事が言えるね……って、私も凄いこと言っちゃったか」
『その日常にはクルークの存在が欠かせないんだ』
あの時は普通に言えていたけど、今思い出すと鼓動が反応する。
あれ、私ってクルークのこと好きだったっけ?
気持ちいいような苦しいような感情に、私は一瞬困惑した。
まあ、別にいい……訳ないか。それにあやクル達のこともあるし。
それにしてもようやく平和に戻れるって嬉しいな……
「あ」
安心した途端、私は足元から崩れ落ちた。
あはははは、ちょっと力を使いすぎちゃったみたいだね。
「だ、大丈夫!?」
「そうでもないかも。このまま回復するまで待ち、かな」
私は苦笑いして僅かに動く手でシュシュを外す。
ポン、という音と一緒に再びあやクルが飛び出てきた。
「何故また私を呼び出したのだ……」
「あー、シュシュ外せば少しくらい力戻るかなって思って。立ち上がれなくなった」
彼はそれを聞いた途端怪しく笑い、「なら、私がお前を運んでやるぞ」と言った。
力さえ元に戻ればそれでいいんだけど。
「……ま、いっか。じゃあお願い」
「ま、待て!……その、フェノはボクが連れて帰る!」
あれ、何かこれ別の話になってない?
「お前なんかにフェノは譲れんな。私が運ぶ」
「いや、本の中の魔物であるキミの方が信用できないね。ボクが運ぶよ」
「私だ」
「ボクだ」
「私だ」
「ボクだ」
「黙れ」
「「ごめんなさい」」
って違う違う。
私はゆっくりと立ち上がろうとして、あやクルにふらりともたれ掛かる。
あー、やっぱ立てない。
「あやクル、後は頼んだ。もう身体に力が入りません」
「なっ、なんでコイツなんかに!?」
戸惑うクルークを無視して、あやクルは私に軽くキスをした。
もう勝手にして下さい。煙も出ません。
「うあー……」
なんか、すっごく眠いし何より力が出ない。
もう寝ちゃおっかな……!?
「……あれ、今誰か居たね。私の監理する世界での此処に」


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