10ぷよ目「ライジングコメット!」


「うーへー」
「さて、通してもらうよ!……上空を」
「え?」
まあ、いつも通りに勝利。
言うが早いか、私は空へ飛びだした。
これなら文句あるまい!
ただ、問題は
「うーん、何かもう正直クルークなんてどうでもよくなってきた」
と、やる気が消失してきたことかな。
ま、探すけど。
それにしても空をふわふわ飛ぶって気持ちいいね……
「ふみゅ……ふわふわ〜」
私は力を抜き、気ままに適当に遺跡を目指す。
うん、普段豪速球状態だから分からなかったけど凄く楽しい。
そんな貴重なリラックスタイムに、今あまり見たくない姿が目の前を横切った。
いや、レムレスとかではなく。
「うげっ、先生……」
「探しましたよ、フェノさん」
アコール先生だった。
『探しましたよ』ってまさか……
「ま、まさかこんな時に抜き打ちテストですか!?」
アコール先生は微笑み、こう答える。
「正解です」
ええええええええ!?
いや予想はしてたけどつい最近テストというか対戦物凄くやってますよね!?
「先生、私結構先生と対戦してるんですし実力は分かりきっているのでは……」
「テストはテストですよ」
あ、駄目だ。これ回避できない。
先生本気っぽいし。
「ちなみに先生、今日のぷよ勝負で先生に勝った人は?」
「確か……そういえばまだ居ませんでしたね」
やっぱり?
まあ本気の先生にはなかなか勝てないだろうね。
私も正直ちょっと不安。
やるしかないけど、さ。
「さて、取り敢えず勝負させて頂きましょうか」
私がそう言うと、アコール先生はいつもの微笑みを見せる。
「そうですね。手加減は無くて構いませんよ」
「臨むところです!」
叫ぶと共に、またぷよが落ちはじめる。
レッツ……ぷよ勝負!!


「あらー、負けちゃったわね」
「だから甘く見ないでって」
か、勝った……一応勝った!
勝ったけどボロボロだ!
「あー疲れた。十連鎖積んだ直後に五連鎖は間違いなく致死量ですよね先生」
「何事にも臨機応変に対応する力は必用ですよ」
いや、それちょっと話違う……
ま、いいか。疲れたし!
「それはともかく、よくできました。これからも頑張ってお勉強して下さいね」
「あ、はい!」
そう言って一礼すると、アコール先生は別の生徒の所へ行ってしまった。
なんというか……もうクルークの捜索明日でいいよね?
いや、探すけどさ。
……何気に振り向くと遺跡がすぐそこにあるっていうね。
「全く、レムレスにも結局会えなかったし、あちこちでぷよ勝負させられるし、よく考えたら遺跡のクルークって嫌な予感しかしないし。もう今日は厄日だよ!」
本当に何なんだろ、今日って。
ただクルークを探しに来ただけなのに……
「そうだね〜僕も最悪な一日だったよ……」
「ですよ……え?」
だ、誰!?
いや声で予想は出来てるけど!
振り返ると、そこには存在感の消えかけたレムレスの姿があった。
ああ、見つかったけどこの状況は逃げたい。
「わ、レムレス……何があってそんなボロボロに?というかどうやって私を探したんですか」
またぷよ勝負、とか無いよね?
「僕も今日は色々な人とぷよ勝負してね……フェノの場所は声で分かったよ」
あ、そうなのか。
……そんなに声、大きかった?
「それはご愁傷様で……ちなみに私の所へ来た理由はやっぱりケーキ?」
レムレスはこくん、と頷いた。予想はしてたけど。
製菓用品も揃えてあるし、作ってあげようか!
「了解です。じゃあちょっと待ってて下さいね」
「うん……」
私はそう言い、予め作っておいた最低限のものと材料をバッグから取り出す。
ホイップクリームの量を通常の1.5倍にしただけあって仕上がりは結構大きい。
「ん、サンシャインレイ!!」
作ったクリームを光と一緒に一気にスポンジに塗る。というか被せる。
果物とデコレーションはサンシャインレイで包んで盛って……
「……はい、サンシャインレイ式デコレートケーキの出来上がりー!」
「わあー……」
私が正面を避けると、レムレスは貪るように食べはじめた。
どんだけ餓えてたんだろ……
「す、凄い食べっぷりですね」
「甘い……甘い甘い甘い甘い!」
見ての通り砂糖中毒、か。
……仕方ない、ありったけの材料で頑張ってみようかな!?

少女製菓中...
Now Eating...

「ふう……フェノのケーキ、とっても美味しかったよ」
完食。
結局、用意した材料、ケーキはすべて使い尽くしてしまいました。
……うう、私も食べたかったな。
「自分で作るのもいいけど、やっぱりたまにはフェノのお菓子もいいね」
レムレスは満足気に微笑み、こちらへ振り向く。
「あれ、結構前に他の人が作るより自分がで作るのが一番いいって……」
そう言った瞬間、レムレスにそっと抱き寄せられる。
ちょちょちょちょ、近い近い!!
「フェノのお菓子を食べると、なんだか元気になれる気がするんだ。……他の人のとは別格、だよ」
そ、そーなのかー。
私はなんとなく嫌な予感がしてレムレスから離れる。
これがクルークに見つかったとしたらどうしようか。
ちなみにどうやら彼の魔力はお蔭様で完全復活したらしく、魔法でマシュマロを作って味見をしていた。
そりゃ、ウェディングケーキ5コも食べたらそうなるよね。
それにしてもお腹すいてきちゃったな……
「フェノも甘いもの食べたくなってきちゃった?」
「ふぇ?」
甘いものというより単にご飯が食べたいだけなんだけど……
朝食も昼食も食べてないし。
「いいよ、お返しにフェノにも甘〜いお菓子をどうぞ」
「え、いや、別にいいですって!」
どうやら拒否権は無いようで、レムレスは適当にいくつかのぷよを取り出す。
そして、その上で杖を振るとぷよがゆっくりと小さくなっていき……
……グミに変わった。
「凄い……グミになってる!」
「ちょっと前に試作品として作ったんだ。まだ誰にも見せてないけれど」
グミはいい感じにぷよの特徴を捉えていて、甘い香りがした。
レムレスはそれらを手早くラップで包み、私に手渡す。
「さあ、どうぞ」
「あ、ありがとうございます!」
グミはひんやりと冷たく、いかにもぷよっとした感触がする。
一つ赤ぷよを取り出して口に入れてみると、林檎のような味がした。
歯ごたえもしっかりぷよっていう……
「わ、美味しい!」
私は思わず満面の笑みになった。
レムレスのお菓子は食べた人を笑顔にする。
いいな、そういうの。
「よかった、喜んでもらえて」
「レムレスのお菓子って、人を幸せにするチカラがあるんですね……羨ましいです」
「でも僕はまだまだだよ。もっと頑張って、皆が幸せになれるようにしたいな」
レムレスはそう言っていつもより優しく微笑んだ。
皆が幸せになる、ね。
「出来ますよ、きっと。レムレスなら」
「ありがとう」
レムレスはさっきよりも笑顔で言った。
ほっこりするなあ、この状況……って、あれ?
そういえば何か忘れているよう、な……
「あーっ!!クルーク探すの忘れてた!!」
「え!?」
そうだった!
遺跡に来た理由はクルークを探すためでレムレ……あーもうどうでもいい!!
「ごめんなさいレムレス!先を急いでいるところだった気がするので失礼します!」
「え?……うん、気を付けてね!」
ひいいいいいいい、何か空がうっすらと赤くなっちゃってるよちょっと!?
私は猛ダッシュで遺跡の中へ走った。
「……どうしよう、もう僕のものにしちゃっていいかな」
何を自分のものにするんだか。



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