第十一章「絶望の悪魔」


ひやりとした空気が肌に触れ、彼女は少しだけ震える。
見上げた先に、巨大な彫刻。
暗くてあまり見えないが、それは魔物のようだった。

「これ、は」
「私の過去の姿だ」

彼は淡々とそう呟く。
――恐ろしい。
彼女は訝る。何故こんなに恐ろしく感じてしまうのか。
それだけではない。
悲しみ、苦しみ、全ての負の感情が大きな波となって彼女に襲いかかるのだ。
『連れて行かないで』
一瞬聞こえた気がしたその小さな声は、誰のものだったのか。

「……っ」

耐えられなくなり、ぎゅっと目を閉じる。
すると、今度は何処かから雨音が聞こえ出した。
どれだけ私に恐怖を植え付ければいいのか。
彼女は紅のマントを握りしめ、さらに震える。
冷たい空気、負の感情を与える彫刻、降っていない雨の音。
どれも美しく素晴らしいのに、恐ろしい。

「今の貴様には刺激が強すぎたか……これが私の感じていた世界だ」
「……この、全てを」
「そうだ。恐ろしいだろう?」

彼女は何も言わず、こくりと頷く。
こんなものを見せて何の意図があるのか。
ナマエはまた訝るが、そんなことを考えている暇は無かった。
……目を開けることも、何かを聞くことも、感じることも出来ない。
それ自体も恐ろしいことだったが、彼女は簡単にその「盲」を選んでしまった。

「其処に居るのが怖いのならば、私が貴様の手となり足となろう。……私に依存しろ。私の力なら貴様を守るなど容易いことだ」

甘く囁くその悪魔は、ナマエを紅いマントで包む。
勿論、今の彼女は頷くしかないだろう。
しかしそれは罠だ。
其処は確かに恐ろしい、彼に依存せざるを得ない。
だからといって外の世界が恐ろしい訳ではない。
紅はそれを知っている上で、彼女に囁いている。
ナマエは頷こうとするも――

「そこまでだよ、魔物さん。また誰かを引き込もうとしてるんだね」

それは、何者かの声で阻止された。


………………
奥儀「ゴリ押し」
いやごめんなさい本当に。

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