第六章「答えを」



……放課後を告げるチャイムが鳴り、彼と彼女は立ち上がる。
目的地は、図書館だ。

「……ナマエ」
「うん」

教室を出、ゆっくりと階段を下りていく。
理由は魔導の勉強が二割、彼女の記憶を探すことが七割。
残りの一割は、彼女達の持つ理由ではない。
……なら、誰が図書館へ行くのを望んでいるのか。
間違えてもレムレスではない。

「ナマエ、辛くないかい?」
「なんで?」
「皆に悲しい顔をされることだよ」

クルークだって悲しい顔をしてるじゃん。
その言葉は喉で詰まり、声にはならなかった。
彼女にとってそれは確かに辛い。
しかし、いつまでもそれでノイローゼになる訳にはいかない。
彼女が敢えて心を読むことを選んだ理由は、彼女自身を強くするためだ。
それを知っていたのか無意識に感じたのか、ナマエはそのままでいた。
……慣れなければならない。
そのためには、いちいち辛くなることなど許されない。

「別に。もう慣れたから」
「慣れたって……」
「いいの。昔の私のことは何も知らないけれど」

彼女の言った言葉の意味が、クルークには難しく感じた。
分かるようで分からない。曖昧だ。
それは昔の彼女と同じでもあり、なんとなく懐かしくなる。

「何かあったらボクに言えよ。この天才クルーク様が守ってやる」
「……ありがとう」

彼女は少し考え、素直に頷いた。
軽く微笑むその姿を見て、クルークの顔はまた赤く染まる。
抱きしめたい。
目の前に居るその少女は昔よりもずっと華奢で大人しく、か弱い。
守りたい。もう一度、彼は強くそう思った。
そして同時に、自分の憧れの人から隠し通して見せる、とも。
それは彼にとって大きすぎる覚悟だった。
でも、構わない。
彼が『自分がナマエに恋心を持っている』と悟ってしまったからである。
一度始まるとどうしようもなくなる。
中毒症状は起こすし常に傍に居ないと安心できない。
でも。だからこそ。
もう離れることは許さない。

「……レムレスになんか、渡さない」
「?」

ナマエには聞こえぬよう、小さな声で彼は決意した。
しかしそれは、すぐに壊れることになる――。

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