7ぷよ目「永久に輝く不可視の月」



「んー……」
開始から三十分。
早速手が止まった。
「ここのコンデンサって0.01μF?それとも0.1μF?」
極性は無いからまだ楽なんだけど間違えたら絶対壊れるよ……
基板にメモされた通り計算をするも、どうも抵抗値と合わない。
まさか抵抗自体が違う?
「参ったなー、トランジスタでもぶっこむ?」
でもレギュレータを既に差し込んであるから今更な話だし……むう
「うん、大人しく回路組み直そう」
まだまだ時間は掛かりそうだね。
私ははんだごてを濡れたスポンジの上に置き、溜め息を吐いた。
……あれ、今爆発音しなかった?


クルークside
読書に集中出来ない。
ボクというこのなんでもできる秀才が居るというのに、なんでフェノは三人を受け入れたんだ?
フェノの相方はこのクルーク様こそ相応しいのに。
……もしかしてフェノはボクを好きなのか!?
そうだ、きっと照れ隠しなんだ。ボクに気持ちを見透かされないようにしてるんだね?
そんな必用無いよ。ボクはキミだけのものなんだからね?
うひゃ、うひゃひゃひゃひゃ……
「……りすくませんぱい、彼は一体」
「気にしちゃ駄目だよりんごちゃん☆」
おっと、笑い声が漏れてたか。
フェノがボクと付き合ったらどうなるかなー?
告白の言葉は何だろう?
一旦妄想が始まるともう止まれない。
ボクがまた色々なことを考え出したその時――
「あ」
――ドカン。
爆発音と共に無数の薬と試験管、ビーカーが吹き飛んだ。
……けど、割れない。
「割れていない……どういうことでしょう!?」
間違いない、フェノの魔法だ。
「多分フェノが掛けた魔法だね。フェノの魔薬は唯一無二だから気を付けた方がいいよ」
ボクがそう言うと赤いツインテールの子が「なるほど!」と頷いた。
それと同時に鍵部屋のドアが開く音がする。
……終わったね、キミ達。


フェノside
「お前らあああああ!」
鍵を開け、部屋に飛びこむ。
魔法が間に合ったから良かったけどさあ……
「フェ、フェノールフタレインさん!?」
「いやフェノでいいから。それよりこの惨状は何!?」
私は落ちたフラスコを指さして言った。
ああ、そういえば実験失敗の爆発でこっちに飛ばされたんだっけ。
……はあ。
「フェノ君、これは……」
「うん、材料から見て『光の水』の実験だね。こんな実験で失敗する人初めて見た」
まあ、確かに一歩間違えれば爆発だもんね。
だからといって……ま、いいや。
「クルーク、そこの棚からマギア酸とフェノリア取って」
「え?」
クルークはきょとんとした顔をする。
どうやら場の空気を読んでいなかったようで。
「クルーク、早く!マギア酸とフェノリア!」
「あ、うん!」
人に指示するのってなんだか慣れないけど仕方ない。
ふと、りんごが話し掛けくる。
「な、何を始めよんですか?」
それに対し、私は微笑みながら云う。
「実験再開、だよ」
さて、ラジオを作るにはさらに時間を掛けなきゃいけなさそうだね。
私はクルークが取ったマギア酸を手に取ると、三角フラスコに注ぎ始めた。


「うわ……何か時間おかしくない?」
どうやら私達は気付くと眠っていたようで。
りんご達のことも夢かと思いきやそうでもなかった。
「おはようございます……あれ、この時間は一体!?」
りんご達も流石に驚いていた。
うん、私も知りたい。
「予想からして加熱後の三十分で寝たのかな。やけに時間掛かってたし」
というか実際そうじゃないかな。
ああ、朝の癒しの時間が……
「りんご達は何か朝食の希望ある?」
「んー……特に無いかな☆」
うわば喋った!?
まぐろ君はそう言ってけんだまの手入れを始めた。
特に無い、か。
じゃあ久々に十界のメニューとでもいこうかな。
「了解。それじゃ、人間界らしくカレーライスで!」
「「\わあい!/」」
お、おお?


「あやしい影?あやしいクルークじゃなくて?」
「いや、そんな間違え方しないって。何か黒くて変なのが……」
朝の準備時間。
私とアミティは何時もどおりどうでもいいい話をしていた。
でも、今日の話はそうでもないかもしれない。
というか普通に違う。
「そっか……でも正体が分からない以上私もなんとも言えないかな」
「むう」
アミティはがっかりしてしまったようだ。
それにしても、あやクルにりんごにあやしい影。異変起きすぎじゃない?
「現時点では情報が少ないし十界の奴かもしれない。今は放っておこう」
「……うん」
私はそうまとめたものの、アミティも私もどうも釈然としなかった。
なんとなく感覚的には分かるんだけど……
「さて、今日のテストは……あれ、アクティブルールとペアぷよ?」
「ええっ!?私アクティブ苦手だよー……フェノ教えて!」
「分かった、その代わりペアぷよ教えてね!」
話題を一転させ、暫くその話は放置する。
でも、もしそのあやしい影が何か異変を起こすようなら……
……。


「おはよー……」
「おっはよー!!」
アミティと一緒に教室へ入る。
テンションの差が明らかにおかしかった。
アルルはそんな私たちに気づき、ドアまで走ってくる。
「おはようアミティ、フェノ!……二人共何かテンションがおかしくない?」
「うん、おかしい」
「そうかなー?確かにフェノはいつもより元気じゃない気もするけど」
アミティはそう言ってにっこり微笑んだ。
うん、気がするじゃなくて明らかそうだからね?これ。
「あー、何でこんなにテンションダダ下がりなんだろう」
「今日も張り切ってぷよ勝負、頑張るぞー!!」
「わ、わあ……」
アルルはそう言って苦笑いした。
これおかしいよ。絶対。
張り切りまくっているアミティを尻目に、私はふらふらと自分の席へ歩く。
そして机に持っていたカバンを置くと、椅子に座って机に突っ伏した。
ああ、考えることが多過ぎて困る……
そういう時に限って、奴は私の前に現れた。
いや、前というか近く。
そして
「やあ、おはようフェノ。ボクに一番最初に話し掛けられるなんて光栄だね」
と私に言った。
まあ、私は軽く上の空だったけれど。
自分はこれからどうするべきなのか。
よく考えればクルークの告白にも答えなければならないし。
やることがまた一つ増えたね……
「あれ、フェノ?フェノ!?……反応無しか」
相変わらずクルークの言葉は頭に入らない。
まずは順序を作ろうか。
あやしい影は後回しして、時間の掛かりそうなりんご達についてを最優先しよう。
で、クルークのことはその間に片付ける。
それからこれから起こるであろう異変は……
私が考え始めた瞬間、ぱっと視界に光が差し、目の前にクルークの顔が映る。
そして、ゆっくりとそれは近付き――
「っ!?」
唇は、触れ合った。
それと同時に騒がしかった教室が静かになる。
え、何?この空気。
物凄く寂しい。誰か助けて。ただしクルークを除く。
クルークは暫くして唇を話すと「ボクの言葉に反応しないと、こうなるからね」と耳元で囁いた。
途轍もなく悔しいのは気のせいじゃない。
何か身体も熱くなってきたし。
周りに見せびらかすように頭を撫で回されるのが気に食わなくて嬉しいってどういうことなの。
私はそれを避けようと身体を引き、立ち上がる。
するとあろうことか奴は私を抱きしめ……首筋、あやクルが残した位置と対称の場所に歯形を残した。
その瞬間、かなりの女子から興奮した「キャーッ!!」という感じの声が上がる。
もうやめてください。あやまりますから。
「……痛い」
「キミはボクのものだからね」
クルークはそう妖しく笑った。
そして
「ボクがキミの思っている以上にキミを好きだってこと、思い知らせてあげるよ」
とまた囁き、自分の席に座った。
いや、隣の席なんだけど。
……どうでもいいけど、首筋が凄い痛い。
あやクルに刻まれた歯形が、甘く疼いた気がした。



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