5ぷよ目「Scarlet-Moon-Night!!」



「らふぃー……な……」
これは幻聴かな。
それとも幻覚かな。
でも、確かに声が聞こえた気がした。
「ラフィーナだけじゃないよ!」
「フェノ!目を覚まして!」
今度は、アルルとアミティの声。
ねえ、これ、まさか。
もしかして――
「チッ……邪魔が入ったか」
「ラフィーナ、アミティ、アルル……!!」
私は涙を拭き、三人に駆け寄る。
来てくれて本当に良かった……!
「助けに来て差し上げましたわ」
「フェノは大切な親友だもん!」
「クルーク、よくもフェノを……!」
私もなんとなく笑顔になる。
本の中の魂が少し嬉しそうだった。
「結界壊すの大変だったよ……フェノの石が無かったらここに来れなかった」
「まあ、勿論異変が起こるくらいなら私達も本気をお出し致しますけどね」
アルルとラフィーナはそう言いながら力を失った石を取り出した。
ああ、私の力もたまには役に立ってくれるんだ。
――そんな少し柔らかくなった空間に、あやクルの怒号が響く。
「小癪な真似を……その者は私のだ!」
おおこわいこわい。
でも、もうさっきまでの私とは違うよ!
「断わる。それならぷよ勝負で勝ってから言いな!」
私はそう言って気力を全身に溜める。
そして、三人にこう叫ぶ。
「アルル、アミティ、ラフィーナ……少し力を借りるよ!」
「「「OK!」」」
アルルの青、アミティの赤、ラフィーナのピンク、私の白。
四色の光があやクルの周りで躍る。
「行くよ……」
私が小さく声を掛け、三人が手を乗せる。
光はみるみるうちに強くなり――
「封印させてもらうよ……『ウィス・アトラヘンディ』!!」
「ぐわああああああ!!」


「んー……あ、あれ?」
気が付いた時には、クルークは元の姿に戻っていた。
どうやらどうにかなったらしい。
……どうにかなったらしいんだけど口の中にあの感覚が残っててすこぶる気に入らない。
もうやめてくださいあや様。
でも一番言えるのは……
「元に戻ってくれて、本当に良かった」
急に愛しさがこみ上げてくる。
良かった。本当に良かった。
物凄く奇跡だったけどね。
ご都合主……いや、なんでもない。
……その時、ようやく事態が収まったとのに、また不吉な声が聞こえた。
「くっ、あと少しだったというのに……」
どういうことなの。
ちょっと前まで聞きまくってた声が聞こえてるんだけど。
き、気のせい……だよね。
「四人とも、そろそろ起きて」
私が苦笑いしながら言うと、アミティの目がゆっくりと開く。
「あれ、クルーク元に戻っ……あれ?」
そして、ラフィーナとアルルも同様に目覚めては言葉を止める。
「ね、ねえフェノ……」
「大丈夫私は何も知らない聞いていない見ていない」
「ふぇ、フェノが壊れた……」
うん、分かってる。
でも現実逃避させて。
「サーサンニントモカエロークルークハワタシガヒキズッテモッテイクカラ」
「そ、そんなに逃避したくなることなのこれ?」
そりゃあ逃避したくなるよ。
だって、だってさ。
誰が信じる?
「クルークが……クルークが二人いるなんて信じられっかあああああああああ!!」
私が叫ぶと、驚いたクルークがようやく目覚める。
「え?ボクが二人?」
と寝ぼけた声で呟く。
そしてあやクルの姿を見て
「うわあああああっ!?」
と驚いた声を上げた。
……うん、予想通り。
「な、なんでこんなことに……」
「多分私が持ってる増幅力のせいかな」
私は虚ろな目のまま呟く。
ああ、もう嫌だ。
「そうか……では私はフェノとこの者の力がある限り肉体を持って行動できるということか」
「または乗っ取るか、だね」
アルルが付け足して言った。
そんなこと言ったらはら人絶対常に乗っ取るよ……!!
「フェノ……後でこの者を消してからじっくり染めてやる。それまで覚悟しておくがいい」
「ぼ、ボクを消すってどういうことだ!?」
ほら。
またあやクルを止めるとか無理だよ。
あれ、でも確か魔力が無いと肉体が持てないんだよね?
ということは……
「なるほど……リミッターさえ付けていればこいつは出てこれないってことかな」
私はシュシュを付けていないことを思い出し、ポケットからそれを取り出した。
途端、あやクルの顔色が悪くなっていく。
「ふ、封印するのだけは止めてくれ!」
「わあ、物凄く抵抗してる……」
流石に可哀想だと思ったのかアミティは苦笑しながら言った。
うん。でも容赦しないのが私なんだ。
「へえ、封印が苦手なのか……てい」
「ぐぬわあああああああああ!!」
容赦無し。うん。
私は笑みを崩さぬままシュシュを手首にはめた。
そして、あやクルの消滅。
「う、うわあ……」
「あの変態どうにかしないとねー。クルークはこれに懲りたら禁忌なんて犯さないように」
「わ、分かってるよ」
クルークはむすっとした顔で言った。
ちなみに直後に
「可愛いかったな、乱れたフェノ」
と小声で呟いたのが聞こえたのは言うまでもない。
「……さて、いい加減帰ろうか」
「「「「うん!/ええ!」」」」


珍しく一人きりの空間。
私は鍵部屋で一人、何故か笑顔で倒れていた。
今日は、クルークについての考えごと。
「クルーク、ねえ」
性格は嫌いではないし、むしろ好きな方。
不器用なのが何か……可愛い。
あやクルにならない限り被害もあまり無いし。
ただ……
「孤独、ね」
人の心なんて、誰も読めやしない。
だから、人は簡単に相手を裏切る。
そういった人間を私は地獄界と修羅界で散々見てきた。
でもそういった硬質で残酷な十界とは違い、ここでは誰もが素直で優しい。
温かな魔道界。
私は、ここの人なら信じられる。
きっと……ね。
「……さて、そろそろ寝ようかな」
私は十時を少し過ぎた時計を見て呟いた。
クルークはまた読書中なのかな。
大きく伸びをして立ち上がり、鍵部屋の扉にパスワードを入力する。
「Ph-24feno、っと」
ガチャン。扉のロックが外れたことを確認し、私は外に出た。
クルークは予想通り例の本を熟読していた。
「あ、フェノじゃないか。考えごとは終わったのかい?」
「うん、そんなに問題無かった」
私はそう言いながら寝室に向かう。
クルークは時計を見て「げっ、もうこんな時間!?」と驚いた声を上げていた。
読書してると凄いスピードで時が過ぎるよね。
「ねむ……クルーク、あんたまだ本読んでる?」
「そうだね。この孤高の天才であるボクが勉強しないとでも思っているのかい?」
クルークはそう言ってにやりと笑った。
キミとは違うんだよ的なことを言われてる気がするのはなんで?
「そっか。でも記憶の整理のためにも睡眠は必用だよ」
ま、別にいいんだけどね。
取り敢えず寝室のドアを開いてすぐに布団を敷き、そのまま滑り込んだ。
あ、ドア閉めてない。
「まあいいか……やっぱねむひ」
どうせクルークも寝るだろうし別にいいよね……
私はシュシュを外し、時計の上に乗せた。
それからもう一度布団に潜る。
んー、もふもふ。
「あったかい……それじゃ、おやすみー」
私はそう呟いて、すぐに深い眠りに落ちた。
さーて、明日はどんな奇想天外な日になるのかな……

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