4ぷよ目「紅き叫びの波動!!」



――コツ、コツ。
ローファーの足音が暗い空間に響く。
階段を降りる度に鼓動が五月蝿くなり、不安が浮かんでは消えていく。
私の不安が当たっていれば、あいつは……!!
「……急ごう」
階段を駆け降りるスピードを少しずつ早めていく。
しっかし、どんだけ長いんだこれ……
でも何か明るくなってきた?
そのまま段々と光が増してきて――

*

階段下、地下室。
「……クルーク!!」
「やっと来たのか……待ち焦がれたぞ」
私は勢いよく部屋に突っ込む。
予想通り、あいつは本に乗っ取られていた。
「……良いな、その表情。私としてはかなりそそられるぞ」
「クルークを返して」
私はあやクルを鋭い口調で突き放す。
残念だけれど、また染められたりする前に止めさせてもらうよ。
止まるわけないし、今のクルークにはむしろS心をくすぐるだけと分かってるけど。
「断わる。折角お前とこちらで会うことが出来たのだ……今のうちに私色に染めてやろう」
「ですよねー」
私はそう言って一歩後ろへ引き、階段から形勢逆転を狙おうとする。
……でも。
「残念だったな、そこには結界が張ってある」
「!?」
あやクルは私の背後で呟き、腕を掴む。
そしてあの夢の時と同じく首筋にそっと顔を近付け……甘噛みした。
「――ッ!!」
痛い。すこぶる痛い。
吸血でもしているのかというくらい何か痛い。
あやクルの口が離れた後には、そこには歯形と痛みしか残らなかった。
「痛たたたたた……何なのさいきなり!」
「私のものだという証を付けただけだ。問題無かろう」
「ありすぎだから。今すぐ消して」
いや、相当きつく噛まれたから簡単に消えないことは分かってるけど。
あやクルはそんな私を気にせず、気品のある微笑みで言う。
「そんなことは今更できぬ。……さあ、それより今宵は私の復活を祝い楽しもうではないか」
全力で断わる。
私は若干の魔力を腕に纏わせ、あやクルの手を振り払った。
そして後ろへ数回ステップし、身構える。
……傍にあるあの本が、クルーク。
「ほう、そんな力を持っているのか」
「生半可な力じゃ敵わないとは分かりきってるから」
ただ、問題は私の魔力増幅の力があやクルに影響するかもしれないことかな。
……もしあやクルにそんなことしたら今度こそ逃げられない。
というか確実に終わりだ。
「まあいい。少しくらい抵抗された方がそそられるからな……意地でも手に入れたくなる」
うん、そうなるか。分かってたけど
「残念だけど私は親友を取り戻しにきたの。……クルーク、あんただよ!」
私の言葉に本の中の魂が反応する。
あやクルは自分が私の興味の範囲外だということを感じ、本を恨めしそうに見つめていた。
「どうしてお前はこの者ばかりを……!」
「いや、単純にクルークが居なくなったら責任取るの私だし」
……。
瞬間、沈黙の時間が流れる。
うん、そういう問題なんだ。済まない。
「そ、そういうことなら問題無い。私が魔法で姿を違うように見せればいいだけだ」
「あ、そうなの?」
ならこのままでも問題……あるね。
「まあとにかく、私はそいつを元に戻さないと気が済まないのさ!」
私はそう言いながら手にエネルギーを溜める。
あやクルのまま放置してると色々危ないからね……!
「そうか……」
あやクルはそう呟き、消える。
あれ、何処?
あやクルを探そうとその場から離れようとして……
――背後から、抱き締められた。
「っ!?」
「なら、やはりお前を私のものにするしかないな」
……振り返ったが最後。
私は反射的にそれを悟る。
「フェノ、こちらを向け」
「嫌だよ。私はあやクルのものになる気はない」
そちらを向かないと出来ないこと、薬か何かと予測。
一応ある程度は抗体でなんとかなるけど相手が相手だから何とも……
「本当に素直ではないな。私の加虐欲をそそるだけだぞ?それに早くしなければ……」
あやクルは耳元でそう囁く。
でも、私は何も答えない。
このまま腕をすり抜けることは難しいし、ここは光の魔法でも使って緊急回避した方が――


――鼓動が止まる。
私の目の前に、あやクルの姿が映る。
どういうこと?
「……我慢の限界だ」
あやクルはそう言った直後、私の唇を強引に塞ぐ。
そして、驚いたまま何の警戒もしていなかったその口の中に舌が入れられる。
……この間、体感時間25秒実時間0.33秒。
抵抗するにも時既に遅し。
気付く頃には私の舌にあやクルの舌が触れていた。
「っ!?」
あやクルは私の口の中を貪るように舐め、染めていく。
厭らしい水音が部屋に響く、でも何故か気持ちいい。
不思議な感覚を受け、さらにそもそも錯乱しかけていた為、どうすればいいか分からなくなる。
……私は完全にあやクルにされるがままだった。
舌が絡み合う度に震える。
もっとこうしていたい。そうとさえ思えてしまう。
まあ、勿論息も続かないもう離れてしまうけれど。
「プハッ……予想通り甘い味だったな」
「……っ」
身体中が、熱い。
あやクルが愛しくてしかたない。
何でだろう。……分からないや。
「即効性の惚れ薬でも使ったの?」
「違う、これは私とお前の魔力が互いを引き寄せあっているのだろう。……さあ、来るがいい」
魔力が引き寄せあう……?
相当なんだね。
確か本心が受け入れていても理性が拒んでいる時無意識に発動するご都合主義な力だっけ。
シュシュを付けようとしても、腕がポケットに伸びてくれないし。

――もう、溺れるしかないのかな。

「……あやクル、私ももう限界だよ」
私の目から涙が零れ、地面に崩れ落ちる。
これが何の感情を表すのか、分からない。
ただ一つ言えるのは……自分が弱すぎた、ということ。
クルーク、ごめんね。こんな馬鹿な親友でごめんなさい。
それから十界の皆にも。
こんなへたれな主でごめんなさい。
本の中のクルークが、私の涙に気付いてオロオロしていた。
私はそんな彼に向かって、静かに首を横に振る。
おかしいね、最初はこいつを消す気で来たのに。
悲しくて仕方ないや。
「……覚悟を決めたか」
私はふらりと立上がり、力ない足どりであやクルの下へ歩く。
そして抱き締めようとしたその時――
「……フェノ、あなたは何をしようとしているのかしら?」


――ラフィーナの声が聞こえた。

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