第四章「君のための」



――暗い森に、緑色の人影。
彼は、『今日も』其処に居た。

「ナマエ……」

淡く呟くは、愛しい彼女の名。
そこは彼女と彼が最期に居た場所だった。
どうして最後まで彼女は自分を頼ってくれなかったのだろう。
クルークやフェーリのように、もっと甘えてくれてよかったのに。
……甘えてほしかったのに。
思いは募る。だが、もう彼女は其処にはいない。
桜の消えた、冬の寒空の下には。
あの時、止められたはずだ。
自分なら気付けたはずだ。
なのに、何故止められなかった?
自己嫌悪に陥るが、答えは出ない。
出せるはずがない。
彼女を『殺した』のは、紛れもなく彼なのだから。

「……センパイ、また此処に居たんですか」

ふと、背後から声がした。
振り向かなくても正体は分かっている。

「フェーリ。追ってこないでって言ったよね?」
「そんなに悲しそうなセンパイを放っておけません!」

可愛い後輩が、自分のために必死になってくれている。
彼の胸は強く痛んだがその傷は二度と癒えることはないのだ。
……例え彼女を見つけられたとしても、それはもう『彼女』ではない。
その事実がある限りは。

後悔ばかりしていては駄目だ。
そんなこと分かっている。
でも、ナマエは彼の中であまりにも大きすぎたのだ。

「……センパイ、私ではナマエの代わりになれませんか」
「フェーリはフェーリのままで居て。僕は大丈夫」
「大丈夫な訳がないじゃないですか!もう三日も寝てないしお菓子だって――」
「フェーリ!……いいんだ。これは僕がしたことだから」
「……っ、」

彼はフェーリが黙ったのを確認し、静かに空を見上げる。



『これでいいんだ。これで。
僕への報いなんだから。
フェーリも何か悪いことをしたら反省しなきゃいけないでしょう?
それと同じだよ。僕も今、ちょっとだけ重い罰を受けているんだ。
……心配しなくても大丈夫。僕なら耐えきってみせるよ。
なんたって、彗星の魔道師なんだから。ね?』


――彼の閉ざされた目から、涙が一筋零れおちた。

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