同刻、彼女の世界


世界が壊れていく音と強い揺れが段々と彼女に近付く。色を失い続けたそこはもはや白と黒しか残されておらず、世界とそこにいるものの境界すら曖昧になっていた。


──そんな中だ。壊れていく音とはまた違う、凄まじい轟音が聞こえたのは。


「これは……何が起こっているの?」
「わはははー、どうやらこの世界の向こう側が大変なことになっているみたいだよ。もしかしたら裏返してナマエちゃんを引きずり出そうとしてるのかも」
「そんな訳無いでしょう、あの世界に私を知る人がいるなんて、」
「実はいるんだよねー。見せてあげよっか」


エコロはナマエを看取る気だったのか、依然その世界に佇んでいた。曖昧な存在に曖昧な世界、もしかしたら何か思うところがあるのかもしれない。彼はわははと笑いながら突然ある方向へ向かって飛び出した。
ナマエが空を舞うエコロを追ってかつて湖だった場所へ行くと、彼は水面に魔導をかけて表の世界を映し出した。そこは幻想郷、自分の管轄外の世界の一つであり、そして反転した自分のいる場所。
その当人である幽香と共に映し出された鮮やかな深緑色に、ナマエは言葉を失った。
レムレスは幽香と戦っていた。見たこともない魔導を使ってセカイの裂け目を作ろうとしていた。


「このひと、本当にナマエちゃんのことが大好きなんだね。表とはいえナマエちゃんの居場所をたった数日で当てちゃったんだから」
「──、」


彼女の喉が詰まる。やはり言葉は出なかった。代わりに視界がみるみるうちに潤んでいく。
レムレスの無知はナマエにとって残酷なものだった。もし再会が叶ったところで、彼女はあと数日で消えてしまうのだから。
ここまで追ってきたレムレスの記憶にすら、残れないのだから──


「……ねえ、本当にナマエちゃんは消えるしか無いのかな?」


静かに涙を流すナマエを見て、エコロは独り言のように呟いた。
彼は誰かの願いを叶えてその記憶に残ろうとするが、彼女は逆にレムレスの願いを叶えて忘れられようとしていた。必然的なものではあるが、エコロはそれが嫌だった。
ましてや、旅人である自分ですら彼女のことを忘れて──最初から存在自体がなかったことにされるなんて!


「そうね、私は出来損ないですもの」


それでも、世界の意思は変わらない。どう足掻いても覆せない。
事実、幻想郷ですら彼女の半身しか受け入れなかった。それはつまり忘れることすら出来ないということだ。


その世界に、救いは無かった。


…………………
多分後で修正

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