夢色の幻想郷


――夢を、見る。
とても優しい夢。
いや、正確には夢ではないのかもしれない。――でも、少なくとも彼にはそう見えた。

「わあ……」

プリンプとはまた違った空気。かといってそこは魔界でもアルル達がかつて居た世界でもない。
その世界が忘れ去られたものの楽園――幻想郷の一部だということは、彼には知る由も無かった。
魔法の森、氷精の湖、妖怪の山、人間の里。
全てが、自分の見たこと無い世界に満ちている。
薄い輝く羽根をもった小さな生物。妖精だろうか。遠くには猛スピードで空を翔ける黒い光が見える。
そんな空を見る彼の前に――それは立ちはだかった。

「……誰よ、あんた」

鼓動が止まる。それはとても低く、胸に響く声だった。
明らかに怒りが込められている。しかしどこか懐かしいその声。
振り返ると、そこにはナマエと同じ緑色の髪に紅いチェックのベストとスカートを纏った少女が居た。

「ナマエ……?」
「あら、別の世界の……魔導師、って奴かしら?どうやらただの人間では無さそうね」

以前睨みつけるような目で、独り言のようにその少女は呟く。表情は不敵な笑みに代わり、手に持っていた閉ざされた日傘を開く。

「私の名前は風見幽香。残念だけどナマエではないわ」
「そうですか……ところで此処は?」
「幻想郷。妖怪や妖精が至る所で跋扈している変な世界よ」

残念そうに俯くレムレスに、幽香は淡々と言った。どうやらここはまだナマエの世界では無いらしい。
しかし、それにしてもこの少女……ナマエとかなり似ている。

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