シュガーフロスト(レムレス)



甘い甘い、お菓子の世界。
目の前にはリコリスの葉でできた原っぱに砂糖でできたネズミ達。
チョコレートで作られた樹には洋ナシのキャンディが成っていて、砂糖がキラキラ。
川には水ではなくフルーツジュースが流れていて、たまにグミの雪が降っている。
そこから続く海はスイートゼリー製、砂浜はココアパウダーでできていてご丁寧に隠し味付き。
それから小鳥はキャンディーでできていたり野菜もよく見たらお菓子製だったり……

「さあ、ナマエ。キミへのプレゼントだよ」
「色々とおかしくないですか!?」

「なあに?」と隣でふんわりと笑う甘党魔道師、レムレス。
そう、私の部屋のドアを開けたと思ったら、なんとシュガーフロストが広がっていたのだ。
今日は一応自分の誕生日、確かに祝われるのはありがたい。それに私も甘いものは好きだ。
……でも、これは流石にやりすぎじゃないか?

「何、じゃないですよ……私の部屋はどこ行ったんですか」
「まあまあナマエ、それよりこの世界で遊ぼうよ♪お菓子の世界ってとっても楽しいよ」
「人の話聞いてください」

折角今日こそクルークに借りたクロマージュを読めると思ったのに。
机も戸棚も虚空へ消失、しかも先輩がお邪魔中。
こんなに嫌な誕生日は初めてなんですけど。
ため息を吐き、取り敢えず私は一刻も早くこの部屋から逃げようとする。
でも、勿論それを彼は許してくれないようで。

「どうしたの?ナマエ」
「リビングへ行くんです。こんな甘ったるいファンシーな世界に長いこと居たくない」
「そんなこと言わないで、傍においで?ほら」
「嫌です!大体私の生活雑貨は……ってああ!!」

扉は桃色の光に包まれ――チョコレートクッキーに姿を変えた。
なんてことをするんだ、この人は。
ゆっくりと凍りついた笑顔で振り返ると、彼は綿菓子でできたクッションをこちらに寄せる。
逃げ場はない。なんだこの甘苦い魔道師は。
もう一度、今度は深めのため息を吐き、念のためそのお菓子と化した扉を開こうとする。
勿論開かないし、ビクともしない。
ただ甘い香りを放つだけ。

「うげえ……」
「お・い・で。僕と一緒に居よう?」

彼の微笑みが、いつもより黒く見えるのは気のせいか。
反応する間もなく綿菓子のクッションに包まれ、私は強制送還された。

「わー、たすけてー、ころされるー」
「大丈夫、此処には僕しかいないし怖くないよ」
「突っ込みどころ違……わわっ」

そして下ろされたのは、レムレスの腕の上。
どうやら……『お姫様だっこ』なるものをされているらしい。
ど、どういうこと?

「そんなに僕の言うことを聞いてくれない子には……お仕置き、だよ」

反応する間もなく、彼は硬直した私の唇にそっと自分の唇を合わせた。
いきなりなんてことをするんだこの人は!?

「……」
「暴れたら、もっとこうしちゃうよ?それはそれで僕は嬉しいけどね」



この日は、とっても甘い誕生日になりました。
というかさせられました。
もうこの人を私の家に入れない。絶対に。


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