レムレスのケーキ屋さん


※微病み注意





──独り占めしたい。
最後に思ったのはそれだった。
最初こそお菓子をたくさん作って、何をあげれば喜んでくれるかなんて考えていた。
でも彼女の近くには思ったより敵がいた。ナマエに近付くことは想定よりも難しかった。
それでも欲しかった。一目見たその瞬間から僕はずっとナマエの虜で、甘い毒みたいにじわじわと思考が侵食されていった。
甘い甘い毒の沼にずぶずぶと溺れていくのを自覚しながら、僕はナマエを手に入れることに執着し続けた。


ようやく、それが叶う時が来た。


「こんにちは、レムレス。ケーキ屋を始めたと聞いて早速やってきました」
「やあ、こ・ん・に・ち・は。ナマエが初めてのお客さんだよ、嬉しいな」


ナーエの森の奥深く、ひっそりと立つ小屋の中。ついこの間まで廃墟だったそこは今日からレムレスのケーキショップになった。
彼の作るケーキはどれも絶品と評判だからどのくらい行列が伸びているのか不安だったけれど、不思議なことに周囲に人は誰もおらず容易に店のドアを叩くことができた。


「あの……もしかして開店前でした?レムレスのケーキ屋さんなのに他のお客さんが見えなくて」
「そんなことないよ、もう開店から1時間も経ってる。チラシを配り忘れてしまったせいで誰も来てくれなかったんだ」
「えぇ!?今からでも急いで配りに行きましょうよ、私も手伝います」
「ありがとう。でもお客さん第一号が来てくれたんだから、まずはおもてなし」


レムレスは困ったように、しかしどこか楽しそうな声で微笑んだ。
確かにここまで森の奥ともなれば何かしらの宣伝がないと誰もお店の存在に気付かないだろう。そういえば数日前にレムレスから直接口頭で教えてもらったきりで誰一人噂してなかったな、とふと思い出してみる。なんだかちょっぴりズルした気分だ。


「さあ、どれが食べたい?オススメはこの特製フォレ・ノワールだけれど、冷やしたてのドボシュ・トルテや生チョコたっぷりのフォンダンショコラも美味しいよ」
「どれも美味しそう……チョコレートケーキってこんなに種類があるんですね」
「そうだね、とっても美味しいミルクチョコレートを貰ったから、たくさん作ってみたんだ」


甘い甘いチョコレートの匂いに刺激された胃袋がきゅるると鳴いた。こういうのは別腹だってよく聞くけれど、本当にお腹が空いちゃうものなんだなあと改めて思う。
さあ、どれにしようかな?


……実は、どのチョコレートケーキにもとっておきのおまじないをかけておいたんだ。君がボクに夢中になってくれるように。
たっぷりケーキを食べておまじないが効いてきたらフォンダンショコラを温めてあげよう、きっとナマエ自ら食べさせてほしいってせがんでくるはずだ。チョコレートが口の中でとろける感覚はキスの何倍も脳を興奮させるというけれど、だったらそのとろけたチョコレートを口移しで与えればもっともっとナマエのことをメロメロにさせられるよね?
勿論他のお客さんが来るから、なんて遠慮はいらない。だってこの場所の存在は君しか知らないもん。
さあ、おいでナマエ。これから一緒にあまーい時間を過ごそうね。




……………………
レムレスさん、重度の砂糖中毒だし恋にも一度ハマったらどっぷり漬かりそうなイメージ(偏見)

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