甘い目覚め(レムレス)


朝のお布団ってどうしてこんなに快適なんだろう、なんて微睡みの中で考えてみる。
とくに冬場なんかは最高だと思う、何せ外が寒いだけにとても心地よく感じてなかなか出られない。
心地いいといえばコタツとかもそうだよね。この時期はぽかぽかしたものにはどうも抗えない吸引力があると思う。

「ナマエ?ナマエ」
「んー……あと3時間だけ……」

もぞとぞと布団に潜り直しながら呟いた。誰かの声がした気がするけど多分気のせいだろう。だってまだ朝早いし、今日はお休みの日だし。
存分に寝るって決めてたから誰かと約束もしてない、はずだ。

「ナマエはしょうがないなあ、甘いお菓子の匂いにつられて起きてくれたら嬉しいんだけど」
「おかし……?」

でもおかしいな、なんだか声がどんどん近付いてきてる気がする。もしかしてほんとに誰かいる?
おそるおそる部屋のドアの方を向いて寝ぼけ眼を擦ってみる。

──ガチャリ。

「あ」
「えっ」

あれれ、レムレスさんがお部屋の中に入ってきた。なんで?
ぼけぼけ頭でどうしてこんな状況になってしまったのかと一生懸命考えてみる。そういえばここ最近の休日はレムレスの家に行ってお菓子作りを教えて貰ってたような、でもそれって今日は約束しなかったはず……?

「あの、どうしてこんなところに?」

取り敢えず聞いてみることにした。すると深緑色の魔導師さんは相変わらずふわふわとした笑みを浮かべながらこちらに近付いてきた。

「前回は珍しく『来週もまた来ますね』って言ってくれなかったからね。せめて用事の前にこのケーキとレシピを渡そうと思って」

コト、と机に置かれたのは温かそうなフォンダンショコラだった。魔導がかけられているのか、ほこほこと湯気を出し続けているそれはこの寒さの中でも全く冷める気配がない。

「美味しそう……ですけど今日は私に用事なんて無いですよ、ただ単に疲れが溜まっていたから寝ていたかっただけです」
「そうだったんだ、でもそれなら午後に来てくれればよかったのに」
「え、それでも良かったんですか?」
「たまの休日くらい、僕ものんびり過ごしたいからね。ちゃんと空いてるよ」


それより早くケーキを食べよう、と急かされてゆっくりと布団から這い出てみる。ひんやりとした空気に触れて体が一瞬震えた。
冷静に考えたら今の私はパジャマじゃないか、こんなところをレムレスさんに見られるとか超絶恥ずかしい。そして寒い。


「その、着替えたいので一度お部屋から出ていただけると嬉しいなあ……なんて」
「着替えるうちにケーキか冷めちゃうからオススメしないなあ」
「さ、寒いんです、この部屋にストーブないですし」
「それもそうかぁ……そうだ、良かったら僕の傍においで?マントの中は多少は暖かいと思うよ」
「じゃあお言葉に甘え……え?」


にこにこと甘い笑みを浮かべ続けるレムレスさんは優しく手招きしている。道端で同じポーズをしていたらとてもアヤシイ人だ。
……笑みがどんどん近づいてくる、拒否権は多分ない。


「ほら、おいで」


差し伸べられた白い手を震えた手が掴んだ。
そういえばフォンダンショコラには魔導がかかって冷めないんじゃ、なんて言おうとしたけれど彼からする甘い匂いにくらりとして言葉が口から出なかった。


「ナマエ、捕まえた」
「つ、つかまりました?」


そのままマントの中へするりと閉じ込められ、「ほら、これであったかい」とレムレスさんは微笑む。一緒にケーキを食べるだけなのに、触今はここにいるだけで心臓が破裂しそうでそれどころじゃない。
……これじゃ、チョコレートより先に私が溶けてしまいそうだ。



…………………
リハビリ文。
前置きが短くならない病

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