「あの、レムレスさん」
「なあに?」
「先ほどからなぜ私の頭をなでなでしているのでしょうか」
なでなで、なでなで。
緑色の手袋を着けたレムレスの手が、私の頭のつむじ辺りを先ほどから往復している。
明日は魔導理論のテストがあるから、分からない問題を彼に教えてもらうために喫茶店で勉強をしていた、はずなんだけど。
「集中できないのでやめていただけると嬉しいのですが」
「本当に?」
「はい」
冷たいなあ、とレムレスは柔らかく笑う。手は止めてくれない。
「でもごめんね、ここ最近他人の頭を撫でる癖がついちゃって」
「何があったんですか」
「後輩を褒める時に頭を撫でてたら慣れちゃってね。でも、悪くは無いでしょ?」
「……」
つまりあなたは手でたくさんの人の頭を撫でているんですね、と心の中で呟く。少しだけ嫉妬。
私を特別扱いして撫でてくれてるんじゃなかったんだ、なんて。
「とにかくその手を離してくださいよ。線がぶれて魔方陣が書けません」
「そう?そこまで言われたら仕方ないなあ」
レムレスは残念そうに私の頭から手を離した。私も少しだけ残念だけれど、今はそれよりテスト勉強だ。
なんて思って定規に手を伸ばしたその時、ひときわ甘い声で彼は言う。
「ねえ、嫉妬してくれた?」
それは、どういう意味でしょう。
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