新月の淡い光(シェゾ)


絶叫が新月の空に木霊する。



もう、これで何人目だろう。
大好きな、大好きな、愛する人を。
――……したのは。

目の前に緑の髪をした人の身体が転がる。
今回はなかなか手こずった。こんなに強かったなんて。
その前はピンクの巻き髪の女の子。
その前は眼鏡を掛けた男の子。
得体の知れない生き物や動物も。
もう、覚えきれないほど愛して、覚えきれないほど……。



「ここか、人殺しの魔窟とやらは」
「……誰?」

あえて震えるような声で返す。
根城にしている唯一の出入り口に、銀髪の剣士。否、魔導士か?
魔力を感じる。

「お前は、何をしているんだ?」
「私には……分からない」

そう、これがいつもの方法。
自分はこの景色に戸惑っていて動けなかった、と嘘をつく。
同情を誘い、異世界で手に入れた幻惑の薬を飲ませ、私しか考えられないようにする。
そして、痛めつけ……。簡単なことだ。
だけど、目の前の人は予想外の言葉を吐き出した。

「嘘つけ。俺はこの目でお前が……人を……そうなんだろう?」
「!!」

その人物に、見つかっていたあとだった。
……っ、不測の事態か……!
私はすぐさま、自分の魔力を紅の粒子に変えて解き放つ。
ここで覚えた攻撃の魔法だ。
一言、二言。呟いた瞬間、それは相手に向かって飛んで行く。
首から下げている小瓶が揺れる。

「くっ……アレイアード!」

相手も私と同じタイプの魔法だろうと思われるもので相殺する。
ついさっきの人物と同じくらいか。
どちらにしろ、早く片付けなくちゃならない。

「これなら?」

手の中に紅く染まった銀の刃を生みだして、相手の近くに掲げる。
近距離だ、ほぼ確実に当たる。
解き放った。

「ぐはぁっ!」

うめき声を上げ、銀髪の魔導士はその場に崩れる。
攻撃が当たったところから、手を当てている部分から。
いくつもの箇所で深紅の液体が零れだしている。
まぁ、これくらいで死にはしないと思うけれど。

「そうだよ。私が全部、全部」
「なん……てことだ」
「つまり、今更遅い。そして、貴方もここで終わり」
「くっ……」

相手は一瞬苦々しい表情をしたかと思うと。

「……スキあり!シャドウエッジ!」
「か……はっ!」

自身の剣から青白い光の刃を放った。
近距離だった所為か、腹部を一直線に貫かれる。
魔導士と同じようなものが流れ出す。
臓器、やられたのかしら。
痛みがあるはずなのに、あまり感じない。

「……なぁ」
「……何?」
「名前は?」

この期に及んで……そう思ったが、私は正直に自分の名前を名乗った。
そうか、と言って相手は、シェゾと名乗った。

「ナマエは……何故こんな事をするんだ?」
「理由……ね」

何故だろう。
こんなこと、考えた記憶がない。

「でも、きっかけはあったと思う」
「きっかけ?よかったら話してくれないか?」

きっかけ。こんな事をひたすらするようになったきっかけ。
私はそれを、久しぶりに思い出した。


別の世界。異世界の話だ。
そこで生まれ、幸せに暮らすはずだった。
ある朝、自分の姿に変化があった。
黒髪は灰色がかった白。目は黄色から紫色に。
身長も低くなってしまった。
本当に突然で、いきなりのことだった。
誰かが、『アイツは不幸を運ぶ』を言った。何の理由もなしに。
当然、皆は私から離れていった。友達も、家族も。みんな。
そして、永久追放を受けた。


「そして、私はここに来た」
「……」

シェゾは黙って私の話を聞いていた。
そして傷口をしっかり押さえながら、私に近づいてきた。

「何よ……?」
「ナマエは、寂しかったんだろう?」
「!?」

私が、サミシイ?
戸惑いの表情を浮かべていると、シェゾは微笑んだ。

「ずっと独りで、我慢してきたんだろう?
 孤独を抱え、たった独りだったからこそ……」
「私は独りなんかじゃない!こんなにも私を愛してくれた!」
「それは違う!」

ひときわ大きな声で叫ぶ。
シェゾは人の山を見渡した。

「こんなにも愛してくれた?それは違うんだよ」
「……違う?」
「愛するものを殺してどうする?お前が首から下げているその小瓶、薬か何かだろう?
 それで人を惑わせ、狂わせ、殺す。
 そんな偽りの愛をもらって何がいいんだ?」
「……っ!」

そんなこと……。
いつの間にか、私の目から雫が垂れていた。
それは、遠い昔の記憶のようでもあって……。
不意に、頭の上に小さな感覚を覚えた。
顔を上げるとシェゾは私の頭に乗せた手をそっと離した。
そして突拍子もないことを言った。

「ナマエ、お前がほしい」
「はぁっ!?」
「偽りは要らない。真実がほしい。だから……今のお前……が……」

言い終わる前に、シェゾは意識を失った。



私は辺りを見渡す。死んでいるはずの人々がいる。
そう、シェゾが言ったことは少し間違っている。
どうしてそんな名前がついたか分からないけれど。
私は『殺し』てなんかいない。
『半殺し』にしているだけだ。
とりあえず、先ほど倒した人を手当し、あとは適当に外へ放り出しておく。
シェゾにも同じ事をした。ただ、放り出す決心が付かなくなり、結局やめた。

「っ……」
「やっと起きた」
「俺は、死んでいるのか?」
「殺してない。……みんなも」

いつの間にか消え去っていた人々に驚きを隠せていないらしい。

「私は今までの『真実』を話す。だから……」

そして私は少しだけ笑った。

「シェゾ、一番最初の愛する人になってください」
「最初からそのつもりだ」

シェゾも笑ってくれた。
新月の夜が明けようとしていた。



==========
長い。そして結局グロくなんかない。
こんなテンションでごめんなさい。

ほんのオマケ↓

「お前が……ほしい!」
「その発言はヘンタイっぽい」
「ヘンタイって言うな!」

こういう話を一度書きたかったので良かったです。


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