逃亡劇(クルーク)



「……っ」
暗くなった空の下、私は一人夜道を走っていた。
理由はただ一つ。
……クルークに、魔法をぶつけてしまったこと。
魔道の練習中、手助けに来てくれたあいつに間違えて最強魔法を喰らわせてしまった。
そのせいで喧嘩をして、あいつとは思えないほど冷たい声で言い放たれたんだ。

『このボクが助けに来てやったのにそんな態度で返すんだ。
……キミには失望したよ』

失望。
そんなことを言われたのは初めてだった。
しかも、よりによってあいつに。クルークに。
……嫌われちゃったよね、私。
逃げだしてきちゃったし。
しかもふと我に返って周りを見れば……
「……あれ」
ただ、周りに木が大量に生えた見知らぬ場所。
いわゆる、森。
あはは、完全に迷子だよ。
「あは、あはっ、ははは……」
自然と、笑みがこぼれてくる。
勿論これはいつもの笑みじゃない。
完全に諦めた、渇いた笑いだった。
「……現実逃避ってよくないね」
『うん、そうだね』
呆れながら肩を叩いてくれるアミティ達は、ここには居ない。
勿論、何だかんだいって一緒に居てくれるあいつも。
そんなことを考えながらぼんやりと立ち尽くしていると……人影。
「あれ、珍しいね。もしかして迷子かな?」
「っ!?」
振り返ると、何やら魔道師っぽい姿の影が、ゆらり。
……怖い。
素直に怖い。普通に怖い。
何?不審者?それとも割と親切な借りパクに定評のある某魔法使い?
その影はこちらに近づきながら……
「こ・ん・ば・ん・わ♪」
「うわあああああああああああでえええええええたあああああああああ!!」
逃亡。
無理。怖いです。
こんな夜に出てくる魔法使いってアレだよね?
カニバリズムな魔法使いだよね?そんなの絶対嫌だよ!?
「えーっとえーっと、こういう時に使える魔法ってあったっけ……」
「待ってよ、僕はキミと少しお話がしたいんだ」
「ネッ、ネブッ、ネブラ・マクラ!!」
話なんて絶対したくないよ!
油断した隙に食べる気でしょ!?
魔法が上手く直撃してくれたのか、その魔道師は悲鳴を上げて立ち止まってくれた。
今のうちに逃げる場所を……できれば木陰とかがいいな。
それからなるべく長い間身を隠せるところへ「捕まえた♪」ひいいいいいい!!
背中に誰かの手が触れる感触、それから後ろへ大きく仰け反って気付けばその魔道師の腕の中へ。
「ナマエ、こんなところで何してるの?」
なんで私の名前知ってるのさ……ってなんで抱きしめられてるの!?
あ、この先分かった。どっかに幽閉されるか殺されるかだ。
どちらにせよ私の人生終了の――
「ラクタス・オルビス!!」
刹那、大量の星が瞬きながら周囲を飛び出した。
何者かの呪文と共に。
「おわーっとっと!?」
「うわっ!?」
それらは何故か後ろの不審者にだけ直撃し、私の拘束はなんとか解かれる。
助けが来た……けど、この声はまさか。
「……全く、キミっていうのは本当に困ったさんだな」
「クルー……ク……」


「……ああ、レムレスだったんだ」
「あれ、もしかしてナマエ知らなかったの!?」
「うん、残念ながら」
落ち着いて考えてみれば……そうだね。そうだったね。
あんな甘い香りのする夜の森を歩く魔道師なんてレムレスしか居ないもんね。
「どうりてあんなに錯乱してた筈だよ。レムレスだと分かってなかったなんて」
「レムレスもせめて背後から追いかけまわすのはやめて下さい」
「ははは……」
レムレスはいつもより少し苦い笑いを浮かべた。
お詫びに、と貰ったチョコレートも多分ビターチョコだろう。
この人が作るお菓子は感情がこもっているからね。色々な意味で。
「……あのさ、ナマエ」
「ほ?」
「さっきはあんな事言って……ご、ごめん!」
「ふえっ!?」
いきなり謝られ、肩が少し跳ねる。
ああ、そういえばそれで逃げ出してたんだっけ。
……正直に言おう、忘れてた。
「い、いいよ。原因は私なんだし。それにさっきも助けてくれたしね」
「あ、当たり前さ!キミみたいな困ったさんを放っておく訳にはいかないからね」
嫌味ったらしい笑顔を見せる彼が、何故か一瞬だけ格好よく見えたのは気のせいでしょうか。
「……ところで二人とも。学校に宿題プリント置き忘れてたけど別にいいの?」
「「あ」」



この感情の意味に気付くのは、まだもう少し先の話。
私はレムレスとクルークに連れられて、家へ戻らされた。
ちなみに次の日、笑顔のアコール先生にクレ・ランスされたのは言うまでもない
………………
難産でした。
12/7ちょい編集。


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