向日葵の少女・下(レムレス)


全てを話す。それはつまり、私の生涯や何もかもを全て彼に晒すことになる。
相当辛かったことだというのに、不思議と涙が出ることは無かった。私の感情は少し起伏が平坦すぎたのか。出るのは自分を嘲り笑う乾いた笑顔だけだった。
彼は深刻な目(閉じているけれど)で私を見る。それは、私を憐れんでいるようにも見えた。
そんな目で見られることも、もう慣れた。今更悲しくなるものでもない。
私の話が一通り終わると、彼は最後に溜息を一つ吐いた。

「どう、最悪でしょう?笑いたいなら笑いなさいよ」

彼も私と同じように、きっとこの話を嘲るのだろう。そう思っていたけど、違った。
――なんで、どうして。
どうして、私が彼に抱きしめられているの。

「ナマエ、本当はずっと辛かったんだね……」
「ちょっ、やめなさいよ!」

彼が私の制止なんて聞く筈もなく、ただ「ごめんね」と私を抱きしめた。
初めてのその感覚はとても柔らかくて、心の中の何かが融かされていく感じがする。
どうして私が彼に謝られる筋合いがあるのだろう。むしろ私は切り捨てられるべきだというのに。
でも、それは言えなかった。彼は――泣いていた。
どうして私のために涙を。泣く必要も意味も何も無いのに。

「レムレス、一体どうしたのよ……」
「そんなに苦しいのに一人のままでいちゃ駄目だよ……僕ならいつでもキミを助けてあげられたのに」
「……」

無性に感じる罪悪感。どうして私が罪を感じなければならないのか。それは分からなかった。
人に心配を掛けたことなど無い。だからそれがどれほどの負担なのかも分からない。なによりそうするなら自分でやった方がいいに決まっている。誰にも迷惑が掛からないし、自分のためにもなる。
だというのに、何故彼は。

「……ナマエ」

彼は閉ざした目を泣き腫らしながら、私の名前を呼ぶ。
そしてパッと腕を私から離すと、森まで一気に箒で飛んでいった。
今のは何だったのか。でもまあいい、彼は私のことを忘れてくれたのだろう。
もし他人を連れてきたとしても、これ以上何かするようなら記憶を消せばいい。
――けれど、私の予想と彼のしたことは違った。
彼はすぐに何かを持っててこちらへ戻ってきた。
それは。

「……え、」
「向日葵の雫のネックレス、だよ」

向日葵の雫。
それは数枚の花弁と自分の魔力を混ぜることで出来る、幼いころ作って遊んでいた綺麗な黄色い宝石。
なんで彼がその作り方を知っているのか。……そして、その意味を彼は知っているのか。
二つ疑問が出来たけれど、そんなものどうでもいい。

「これで寂しくないね、ナマエ」
「……」

彼のにっこりと微笑んだ顔が、何かで滲む。
このタイミングでようやく流れるようになるなんてね。喜ぶべきか悲しむべきか。
私は少し迷ったけれどそれもすぐに投げ捨て、彼に思いっきり抱き付いた。

「ありがとう、レムレス」
「どういたしまして」

私の初めての友人は、とても優しい人でした。



それから彼は、夏になると毎日森を通り抜けては私のところへ来、暇を潰しています。
この日常とネックレスが、いつまでも崩れることの無いよう。


……………………
ということで初・三編ものでした。
時計も本来ならこういう形にするはずだったんですが……どうしてああなった
というかラスト必ずしんみりする方向に持っていく癖直そうぜ自分
ちなみに見て分かる通り主人公のモデルは知っている人は知っている向日葵の人です。
……実はこれ一編で終わらせるはずのものだったとか言えない

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